第一章 何度目の朝か
桜吹く木漏れ日のような日々のことを今も思い出す。今の私があるのはあなたのおかげだ。
もしもあの日に戻れたなら、あの日の私たちが選択した一つ一つの事柄のどれか一つでも違っていれば何か変わっていたのだろうか。
またあなたと過ごす穏やかな日々に戻りたい。あなたに会いたい。そう強く願い、私は目を覚ます。
「まただめだった。」
カーテンの隙間から溢れる温かな線が私の体に今日一日分の活力を注いでくれる。
「起きるか。」
私は重い瞼を擦りながらベッドから起き上がりすぐ横に置いてある特殊な形のペンダントに視線をはめる。
「きっとまた行けるはず・・・」
部屋を出てトイレに行き、洗顔をしてリビングで朝食を食べる。今日の朝食も焼き鮭とキャベツの千切りに白米だ。
「いただきます。」
朝食を済ませて歯磨きをし、諸々準備をする。玄関の棚の上に置いてある写真立てと目が合う。
時が止まったその写真の向こうの懐かしい風と匂いが私を奮い立たせてくれる。
ドアの前に立つ。目を閉じて深呼吸。そしてドアを開ける。
「行ってきます。」
キーンコーンカーンコーン
桜吹く季節、高校3年になった俺は、盛大に遅刻していた。
「やばい!思いっきり遅刻した!俺が悪い訳じゃない!あんなに伏線まみれで気になる展開を用意されちゃ夜通し見なきゃいけないに決まってるだろ!」
昇降口に到着。下駄箱に靴を放り込んで階段を駆け上がる。息を切らしながら教室の扉を開ける。
「すいません!遅れました!」
クラス全員の視線が俺に注がれる。恥ずかしい。
担任の時間先生が俺に向かって言う。
「新学期早々遅刻とは三年生になった自覚はあるのか廻。せっかく転校生の時雨さんの自己紹介の途中だって言うのに台無しじゃないか。」
転校生よりも目立ってしまった俺は窓際の一番後ろの机に座る。
「おい廻、お前どうせまた夜通しアニメでも見てたんだろ?」
そう俺に話しかけてきたのは、一年の時からクラスが一緒で俺の席の前に座っている工藤零時だ。
そんな俺の友人の零時だが何がきっかけで仲良くなったのか全く覚えていない。中学の時は学校が一緒だったのかどうかもわからない。いつの間にか俺のそばにいて仲良くなった。
「仕方ねーだろ!あんな神回見るしかねーって!そんで見たあとは考察動画よ!まさか零時見てない訳じゃないだろ?」
「見たに決まってんだろ!やっぱタイムリープものなのかなー」
俺たちがそんな会話をしていると時間先生に促され転校生の自己紹介が再開される。
「時雨 輪です。よろしくお願いします。」
「廻!あの転校生めっちゃ可愛いじゃん!廻?おい廻!」
「あ、ああそうだな。俺もそう思うよ。」
「なんだよぼーっとして!まだ寝ぼけてんじゃないのか!」
そうなのかもしれない。きっと俺は今も夢の中なんだろう。きっとこれからも。
転校生の時雨輪は廊下側の一番前の席に座った。その後は時間先生が諸々の連絡事項を伝えて朝のホームルームは終了した。
俺は自販機にジュースを買いに行くため教室から出る。すると後ろからある女生徒に声をかけられた。
「廻くん。」
「ん?」
俺に声をかけてきたのは同じクラスの黒野すずかだ。一年の時に転校してきてそれから黒野すずかは俺によく絡んでくるようになり今に至る。それと俺たちはある秘密も共有している。
「また動き出すね。」
「お前じゃないんだよな?」
「そうだね。私じゃない。」
「わかった。」
「うん。それじゃ。」
そう言うと黒野すずかは俺の前から姿を消した。
「やべ!急がないとジュース買う時間がない!」
急いで三階の廊下から階段を駆け降りて一階にある自販機を目指す。無事に自販機に到着するとそこには先客がいた。
そこにいたのは転校生の時雨輪だった。