あきらという人
「じゃぁ、わたるくん。とみさんはもう帰らなきゃならないけど、いい子で待っているんだよ。」
家政婦のとみさん(77歳)はジャイナマンのDVDが見れるよう用意をした後、帰っていった。
それから30分。
ぼくはいい子でジャイナマンを見ていたんだ。
あきらが帰ってくるまでいい子で待ってる約束をしたから。
でも信じられないことが起こった。
なんてことだ!!
ジャイナレッドの妹、フレア姫が死んじゃった!!
内緒の話だけど、6歳のフレア姫は真っ黒のまっすぐな長い髪の毛で、きりっとした黒目で・・・
あきらの小さいときの写真とそっくりなんだ。
うそだ、うそだ、うそだ!
大きくなったら、絶対あきらになるのに・・・!
なんだかやな予感がした。
ぼくのあきらがいなくなっちゃうような
そういえばケイスケは、フレア姫の魂をさらっていった悪魔王ケイーダにそっくりじゃないか
ああ!
あきらが危ない!
あきらが「緊急用」とプレゼントしてくれた携帯電話を手に取る。
「きんきゅうよう」ってよくわからなかったけど、たぶん今みたいなときだ。
RRRRR・・・
いつもは三回のうちにでるのに、四回目でもまだあきらはでない。
あきら、あきら。
ぼろぼろ涙が溢れる。
また泣き虫って言われちゃう。
7回目。
「っわたるっ!?どうしたのっ。泣いてるの?・・・うん。お姫様が?・・わかった。大丈夫よ。今からすぐ帰るから。大丈夫。チャンネル変えて、今の時間ならアンタンマンやってるでしょ?それ見て待ってて。・・そう。わたる、いい子ね。強い子。待っててね。」
泣き虫って言わなかった。
いい子。強い子。だって。
よかった。
「きんきゅうよう」って、あってたんだ。
よかった。
ケイーダにさらわれてなかった。
ほっとしたらさらに涙が止まらなくなった。
困ったな。
あきら。大好きなぼくのあきら。
強くて優しいぼくのあきら。
でもぼくは知ってるんだ。
おとうさんとおかあさんがいなくなった理由。
ぼくが寝たふりをすると、一人で声を出さないようにして泣いていた。
ぼくがおきると泣いた痕なんてちっともなくて、「怖い夢見たの?」だって。
ぼくじゃないよ。
大丈夫じゃないのはあきらなのに。
ばくはおとうさんもおかあさんも写真でしか知らない。
思い出もない。
なぜなら、ぼくはおとうさんとおかあさんがいなくなってからあきらのところに来たから。
だって、大丈夫じゃないあきらをひとりぼっちにできないから。
これはまだあきらには内緒のお話だけど。
アンタンマン今日はお休みだよ。
あきら、まだ帰ってこない。
ケイーダにさらわれてないよね?
だって、あきらは知らないけど、ぼくは知ってるんだ。
艶やかな腰まである黒髪やフレア姫よりずっときれいな黒い瞳にみんなが魅入っていること。
絵本で見たどのお姫様よりもきれいなあきら。
みんながあきらをさらって連れて行ってしまおうと考えているよ。
ぼくは心配で仕方がない。
ジャイナレッドでさえ、フレア姫を守れなかったんだ。
ぼくなんて、小さくて、泣き虫だ。
あきら、ちょっとがさつな口調もいつも強い目で空を見上げるのも、小さなぼくしか家族がいないせい。
ぼくはまだ小さい泣き虫なわたるだけど、大きくなったらあきらを泣き虫にしてあげるから。
あきらが泣くたびに優しく笑って、ぎゅってしてあげるから。
あきらが無理をして強がらないでいいように、「泣き虫だなぁ」っていいながら頭をなでてあげるから。
ジャイナレッドより大きくなって強くなるから。
だから今はまだ、小さいわたるで我慢してね。
もうちょっとだけ、待っててね。
それにしても止まらない涙。
まるで土砂降りの雨。
あきら、まだかな。
ぼく、涙の海に沈んじゃいそうだ。