15
アイタイ
アイタイ
アナタニ アイタイ
アナタニ フレタイ
アナタト トモニ
アナタト トモニ アリタイ
ズット
ずっと 貴方の そばに・・・
━━━
夢の中で誰かが泣いていた
自分の閉じた目から 一滴 こぼれた涙
フレア姫 かと 思ったけど
よくわからない
わからない
頬を伝う滴のあまりの冷たさに浮上しかけた意識は
横から感じる強い視線に怯えて 再び闇に沈んでいったのを覚えてる
程なく覚醒して、まず目に入ったのは やっぱりあの天窓
雨は降り続いているらしい
陽の光は届いていないのに 何故か雨水はキラキラと光を反射している
・・・不思議
ここは わたるのいる世界
「えー・・と、オハヨウゴザイマスかな?」
空模様からは今が朝か夜か読むことができない。
体を起こそうとしたけれど、ルーがべったりお腹にくっついて熟睡しているため断念。
顔だけ向けて、ベッド脇で椅子に腰かけたまま逸らすことなくじっとこちらを見ている青年、ナツメに声をかける。
(それにしてもさぁ、いつからそうしてるんだろ。怖いんだよぅ)
なんてのは口にせず、爽やかに微笑んでみせた。
騎士というのは姫の寝所に居座っていいのだろうか。
寝顔・・・はヴェールで隠れているから見られていないだろうけど。
「そうですね、おはようございます。・・今は夕刻ですがお目覚めのあいさつですから。」
すっと右手を取り、こちらを見たまま甲に口付ける。
「・・・我が姫君様。」
「っつ!!」
触れられた手に焼かれたような熱さを感じナツメを振り払う。
(なにこれ!?イタイ 痛いっ)
じんじんと痺れるような痛みにずきずきと刺すような痛みが混ざる。
「・・っぅぁあ!・・っぁ・・っぁあーっ・・!!」
悲痛なうめき声。
誰でもなく、私の。
(やだやだいたいいたいいたいーっ
「っくうー・・・。」
右手首を握りしめ蹲る。
ドクンドクンと右手が脈打っている。
あまりの痛みに噛み締めた唇から血の鉄のような味が滲む。
(いたいいたいだれかたすけてっ
「!!っかぁさまっ!?」
(・・っ・・・え?)
ルーの叫び声と同時に何かが右手に触れ
突然 痛みから解放された。
痛みで強張っていた体の力が抜ける代わりに肩から腕にかけて小刻みに震え、痛みを堪えるために掻いた脂汗はべっとりと額に髪の毛を張り付かせていた。
ぐたりと蹲ったまま、呼吸を整える。
痛みのために閉じていた目をゆっくりと開け、ぼんやりした視界の中に右手が映し出される。
綺麗な白い手にそっと寄り添うルーの顔。
はめていた手袋はなくなっており、袖口が黒く煤けてちりぢりになっている。
何かが焦げたような嫌な臭いが漂う。
ふー ふー とルーが目に涙をためて、必死に息を吹きかけている。
いったい、何が起きたのか。
混乱したまま、ルーの頭を一撫でする。
ぎゅっと瞑った目からぽたぽた涙が落ちる。
「・・・ルー?」
右手は痺れが残っているため、左腕でルーを抱き寄せてやる。
腕の中で泣くのを堪えているのか、小さな体が強張っているのがわかった。
「大丈夫よ。ルー もう大丈夫。」
ゆっくりと数回背中をさすると徐々に強張りが溶けていった。
「かーさま、いたい、ない?」
顔を胸に埋めたまま消えそうな声。
「うん。痛くない。大丈夫だよ。痛くない。」
もぞもぞとあげた顔は不安でいっぱいで、安心させるよう右手をひらひら目の前で見せて笑いかける。
「ほら、みて。なーんともないよ。」
「・・・・よ よかっ・・たぁ~。かぁさま、よかっ・・・たぁ!!」
不安顔を零れんばかりの笑顔にかえ、ぎゅっとしがみつく。
ルーが、助けてくれたの・・かな?
ふと思い感謝をこめて頭に口付けを落とす。
そのまま優しく抱きかかえ起き上がろうとすると、すっと背中を支えられ、クッションが差し込まれた。
介助してくれた者、ナツメは無言。
若干顔が青ざめて見えるのは気のせいだろうか。
この人が何かしたのだろうか。
ありがとう と一応つぶやき、じっと見つめてみる。
ー後ろめたさがあると人は目を合わせていられないもの。
なんて、浅はかな思いからの行動だったが、自分の意識はわたるの色の瞳に向いてしまう。
片目だけ、わたるがいる。
わたる わたる わたる
大丈夫?
元気でいる?
どうか泣いていませんように・・・
右手のことも、ルーのことも、目の前にいるナツメのこともすべて意識から消え、想いはわたるにのみむけられる。
が、それも一瞬のこと。
すっとナツメの目は閉じられ、次に開けられた時には視線は右手に向いていた。
再度目を閉じ、片膝をつき頭を垂れる。
どこか皮肉な態度しかみられなかったナツメが。
手を組み、淡々とけれども少し震える声で
「・・・騎士失格の烙印を落とされる行為でした。どうか お赦しください。」
・・・まるで神に祈りをささげるかのように 許しを請う。
だれの赦しを得たいの?
わたしの?
神の?
イトシゴの・・・?