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見上げれば、雨は窓の上をさらさらと滑り落ちている。

嵐のような雨はいつの間にか霧のような小雨へとかわっていた。


ベッドと大きな天窓しかないこの部屋を、しっとりと優しい空気が包んでいる。


私はどうしてか、また泣きたい気分だ。

「・・なんでかなぁ・・・」


ポロリ・と零れそうになったところで


レニーの声が涙を止めた。


「あ。あー!ちょっと待って。きみはそんなに簡単に人前で泣くべきじゃない。」

余裕で人を小馬鹿にしていた小悪魔は今や、おろおろとした可愛らしい天使になっている。

さっきまで感じていた敵意もない。


全部泣かせるための演技だったのか?今のが演技なのか・・・


「・・・泣くとみっともないとか言わないでよ?」

涙を飲み込んでレニーを見る。

表情豊かな天使レニーは、ほっとしたように緩く微笑む。

「そういうわけじゃない。まあ、理由はいろいろあってね・・・。」

何から話そうか、と考えるように窓を見上げる。

「うーん・・・まずきみは神の愛し子だっていうのはわかるよね?きみにもわかるように端的に言うとね、その涙は僕らにとっては力の糧。人間にとってはいわば不老不死の薬ともなりうる万能薬なんだ。ただし、神の愛し子は身も心も文字通りすべて神のものだから、神の許可なく人間が勝手に摂ることは許されない。神の許し無くきみに直接触れることも禁忌となっているんだ。」


最初の単語からわからない。

まずきみは=何?


「あとはまぁ、きみが泣いてばかりいるとわたるが悲しむとか、泣かせたと知れるとわたるが怒るとか、後でわたるが怖いとか、わたるに怒られるとか、ぼくが泣くはめになるとか・・・・・とか・・ね・・」

次第にうなだれていくレニー。


だから何?

説明になってないんだけど


青い顔で何かぶつぶつ言い続けてるし。


やりすぎたかな・いや、当然の報酬だよね

ぶつぶつ

でも泣かせたし・や、わたるの水ちゃんと飲ませたし

ぶつぶつ

でもさっきの雨・いやいや、今はしっとり小雨だし・・

ぶつぶつ


「きみ、結構な泣き虫じゃない?」

独り言の途中で俯いていた顔を急に上げた。


「そうかな?」

私は思わず苦笑い。


「あー・・どうしよう。逃げたくなってきた。いますぐ。」

なんとも情けない顔のレニー。

顔面蒼白って、きっとこんな色。


私、大丈夫?って言おうとした。

けど・・!?


「!!?」


レニーの姿が薄くなっていく。


「え・・ちょっと・ぉ・・。」

消えちゃうの?

いなくなっちゃうの??

それはあんまりじゃない・・?


急な展開に戸惑う間にも、姿は透けるようになり水のように青い影となっていく。


やだ・・・待って!!


手を伸ばしたときには

すでに

跡形もなく



「・・・・・うそでしょ・・・」



消えていた。










覚えておいて

人間はきみを傷つけることはしない

だけど味方でもない


よく覚えておいて


ナツメも同じ

味方では決して無いということを・・・













      




        ━━━




姫が目を覚ました。


そう従者に告げた。

それだけの務め。

それだけのために一時も離れたくは無い、あの部屋を出た・・・


「・・して、目覚めたときの巫女の様子は?(正気であるか?)」

「神の詞は発したか?(我の助かる道は示されたか?)」

「悲しまれてはおられぬか?(涙を採る事はできたか?)」

「巫女の体調が整い次第、儀式というわけにはいくまいか?(儀式まで一月も待ってはおられぬ)」


これがフレア姫の義父。キエイ王。


本来なら一刻も早く医師・薬師を呼ぶべき状態であったはず。

火の女神の愛し子であったとしても、陽の照らぬ数日間を眠り続けていたというのに。


この王の頭の中にあるのは如何にして自分が助かるかということのみ。


(・・ちっ、従者の言うことなぞ真に受けずにさっさと引き返すべきだった。)



従者は王の気が違ってしまいそうだ、と言った。

だから直接王に上申して欲しい、と懇願された。

あまりにも顔色を悪くしていた従者。


わたしの義務か。



神の愛し子の騎士。姫のためにそばにいることを許された騎士。

最優先は姫であるが、やっかいなことに姫の親たる王のことも守ることを義務付けられている。


神の愛し子の親であるから。

ただそれだけ。


故に、王の要望も無碍にはできない。


今すぐ切り捨てたい衝動を何とか抑えるため、一つ、息を吐く。


「・・・王よ、姫はたった今目を開けた。4日もの間眠り続けていた。すぐに医師の手配を。」


これを告げるだけでよかったのだ。

役に立たない従者め。


王が後ろで何か騒いだが、踵を返しそのまま振り返らずその場を離れる。


姫の騎士がいなければあの部屋に人間が入ることは許されていない。

姫を助けるための医師や薬師も例外ではない。


王の顔は見てやったのだ。義務は果たした。


そして、姫のもと、あの雨に包まれてしまった祈りの間へと急いだ。




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