第5話 SNS監視事件
朝、仕事に向かう準備をしていると、夫・健が妙ににやけていた。
いや、正確には「何かを知っていて、でも黙ってる顔」だ。あの顔のときは、だいたいロクなことがない。
「おはよう、今日もかわいいね」
――はい、通常運転。しかし目が泳いでる。
出勤途中も、やたらスマホをいじっては私をチラ見。昼休みになると、同僚から「昨日の夜の猫カフェ写真、可愛かったね!」と言われて固まった。
……私、そんな写真、表アカには載せてない。
嫌な予感がして聞くと、健がにゅっと顔を出した。
「見つけちゃったんだ、君の裏アカ」
やっぱりーーー!
その後の会話はこうだ。
私「なんで見つけたの」
健「だってアイコンが昔の君のスニーカーだったし」
私「偶然でしょ」
健「投稿に“駅前のたい焼き屋さんの匂いが好き”ってあった」
私「……それだけで?」
健「あと、フォローしてる人が全員君の職場関係だった」
……もう完全に刑事。
しかも、その裏アカの過去ツイートにまでコメントしてきた。
「この“コンビニの袋が二重だった”って、僕が店員さんに頼んだやつだよ」
いや、そんな背景情報いらないから。
極めつけは夜、突然LINEが飛んできた。
《“上司の口癖を当てるゲーム”面白いね。次は僕のもやって?》
……裏アカのノリをリアルに持ち込まないでくれる?
その日、裏アカは鍵をかけた。けど健は「別に見なくても君のこと全部知ってるし」と言ってきた。
――それはそれで怖いんだけど。




