第一話 ムカつく運命
全ての人に平等に与えられた機会
夢、信仰、愛、様々な思いが人にはある。でも叶わない、叶えられない時
その思いが形になる、能力として。
「思いが能力を発現させる、ただし思いは決して良いものだけではありません、事実として能力を使用した犯罪が近年増加傾向にあります、今回は能力を使用した特殊犯罪の専門家に来ていただきました。今回の―」
「バーン!」
と乾いた冷蔵庫の閉まる音がした
「シオン! もうご飯無いけどどうするー?」
「もうそんな時間か、、コンビニ行くか」
重い足をあげながらテレビを消す
バタバタと音が聞こえ玄関を見ると
「やったー! おやつ買っていい?」
と既に靴を履いているヤマトを見て軽く笑ってしまった
「ふっ 別にいいよ」
玄関に茶色がかった桜が落ちていた
春のこの時間はまだ外灯が眩しく見える
「この町も変わらないねー」
「そうだな」
俺らがこの町に来てから約3年が経った、俺にはしなければならないことがある
「そろそろヒーロー目指して頑張るか」
そう話すと
「やったー!!」
後ろから嬉しそうな声が町中に響いた、おい と言いたくなったが
そうなるのも仕方ないか、長い間待たせたからな
約3年前 二人で逃げている時、俺が油断して足に怪我を負った。一人でヒーローにならないで治療からリハビリまで手伝ってくれたお人好しバカだ
「あ で、でも足は大丈夫なの?」
「車椅子のヒーローが居ても別に大丈夫だろ」
結局俺の足は3年経った今でも動かなかった
がそれを理由に止まっているのはもう止めた
このまま二人で楽しく暮らすのもいいが、このお人好しバカであるこいつがヒーローなんて天職に成りたく無いわけがないからな
「いってくるー!」
車椅子を回しながら今日のご飯を決める
「今日もとりあえずカップラーメンでいいか」
「ご飯決まったー?」
とオレンジ色のかごを半分ほどお菓子が埋め尽くしている
「ご飯は???」
「僕もカップラーメンにしようかなって//」
「何を照れてんだ、、まあこれから忙しくなるしいいよ」
「いいの!? 太っ腹~」
ここまで楽しそうなヤマトを見るのはいつぶりだろうか
実際俺も忙しくなることへの不安とは裏腹に高揚感を感じている
お金のことも考えると後一か月だな、、
「家着いたら作戦会議だな」
「なんかわくわくしてきた!」
会計を終えてドアが開くと熱くなってきた顔にちょうどいい春風が吹いてきた、それにつられタバコの煙も付いてきた、臭いな、、と思わず横を見ると
喫煙スペースに上下灰色のスウェットを着た女が倒れていた、
がそんなことはどうでもいい、どうせ酒で寝てるだけだと後ろを振り向いた時にはいなかった
「お姉さん大丈夫??」
このお人好しにはため息が出る
「そいつはどうせ酒で寝てるだけだよ、何されるか分からん行くぞ」
「でも、、苦しそうだよ」
止めてもどうせ助けるんだろうなこいつは
「無事であることが確認できたらすぐ帰すからな!!」
「ありがと!」
とりあえず起きるまで家で看病することにした、この際起きたことは仕方ない切り替えるぞ
だからこれからどうするか話すのに、、
「おい!何やってんだ!ただ寝てるやつにできる事なんてねえよ!!
加湿器と湯沸かし器と予備の氷枕置け!!持つな!!」
「で、、でも」
「でもじゃねぇ!」
喧嘩をしていると女が目を覚ました
「う~~~ん、、!!だ、誰!!ここは、、?」
「ふんっ やっと目を覚ましたかここは、、」
「もしかして私にいやらしいことしようとしてるでしょ!!」
!!!??? 何だこの女は、と束の間
女が服の中から銃を取り出し、こちらに向けてきた
「ヤマト! 危ないもん無いか確認してないのか!」
「この人女性だったから、、」
「妙な真似をしたら打つからね」
この距離ならいける、、1メートルも無い
「ちなみに能力の使用は感知できるからね」
こいつ何者だ、、とりあえず戦闘は避けたい、、
「ごめんなさい!」
ヤマトが物凄い速さで土下座をした 床がめり込んでいる。
女も思わず唖然としている、今だ!
女の下の床の木の部分を拳の形にし、手に向かって撃ちだして銃を跳ね上げた、
「! 能力者!?」
そのまま床から伸びた拳をロープのように伸ばし3週ほど縛り女を拘束した
「看病した相手にこの仕打ちか 恩を仇で返すとはまさにこのことだな」
「もしかして二人とも能力者!?」
女の目が今にも噛みつきそうな蛇のような目から子供のようなキラキラした目に変わった
謝罪や激昂でもない予想外の返答に今度はこっちが唖然とした
「そうだよ!」
気づいたらヤマトが普通に近くで話していた
「君たちよければうちにこない!?」
! スカウト?動揺を誘っているのかと思ったが先ほどの目、、それに場はこちらが制圧している
銃の扱いと対能力者の鎮静を想定した一連の流れを見るに、警察かなんかだろうな、、なら
「ヒーローとしての活動以外無し、書類関係のデスクワーク無し、広告塔のような目立つ活動無し この条件満たしてるなら即決定だ」
心配そうな顔でヤマトが返答を待っている、だが
この場を逃れる嘘という可能性もある、もし本当なら運命的な出会いだ、あいつは明日にでもヒーローとして働きたいだろうしな、だが俺らは訳アリなんだ
だから、、だけど、、まあ国、民間のヒーローとしてこの条件は無理だろうな、、
「じゃあ決定ね! 明日からの仕事内容伝えるから場所と時間とーー」
「! 本当か!?ま、まて本当にそんな組織があるのか?色々聞きたいことがーー」
「即決定でしょ?細かいこと気にしてると禿げるぞー明日全部説明するからとりあえず連絡先とーー」
「、、、、!?」
禿げるだと?先に禿げるのはそっちだろパサパサの髪しやがってまず助けたんだから礼の一つくらい言えねーのかこいつは人間のふりしたゴリラなのかー?ゴリラが能力で人間になってんじゃねェのかぁ?
とムカついている間に
「連絡先 ありがと♡ そしたら明日の時間と場所あとで送っておくね」
「やったーーーーーー!!!!」
「はっ まてヤマト喜ぶのはまだ速いこいつがーーー」
「そしたら自己紹介しましょ 私は朝飛奈 政まつりって呼んでね」
「僕はヤマトー!」
「あなたは?」
でかいため息を出し
「シオンだ」
「そしたらお祝いしましょ!」
と言いながら立ち上がり冷蔵庫を漁る
「おい何してんだはよ帰れ!!」
「おなかすいたのまつりちゃん?」
「祝杯よ祝杯、酒ないの~? 悲しいねー もうこの際コーラでいいよ」
嬉しそうにコップを渡すヤマト
よくみたら目に凄いクマをつけ、コーラを注ぐまつり
渋々コップにコーラを注がれる俺
「ほら 手上げてかんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
ただのどこにでもあるアパートでコーラで、俺らはどうやらヒーローになったらしい
この場を乗り切る嘘かもしれないが、ヤマトが楽しそうだし考えないことにした。
ヒーローになると決めた日にこの出会い、ムカつく女だが運命的な出会いなのだろう。明日が楽しみだ
だが助けたことに一つも言葉がないし、失礼なこのゴリラには一段落ついたら絶対にキレることだけ決めた。