無関心
そんな中、ちょっと久しぶりに会った日、優馬くんは意味深な語り出しをした。
「実はね、沙紀ちゃんに隠してることがあるんだ。聞いてくれる?」
唐突なカミングアウトに胸が騒ぐ。正直、聞きたくなかった。優馬くんが 何を隠しているのだとしても、きっといいことではないから。でも彼が自分から告げようと思ったのなら、私にはそれをだめだと言う権利はない気がした。渋々頷く。
「俺の両親、俺に興味がない人たちでさ。沙紀ちゃんの言う、干渉されてウザいみたいなのよく分からないんだよね」
「……ん? え、何の話?」
「だから親の話。俺いつもウザいよねー、嫌だよねーって同調してたけど、実際はそんな経験なくて」
思っていた内容と違くて、理解が遅れる。名前や幽霊の話ではないのか。驚きつつ、少しホッとした。確かに優馬くんは私のママの愚痴に同調してくれていたから、意外なことには違いなかった。何か思うところがあって、本当のことを言う気になったのだろう。
「あっでも、別に虐待されてるとかではないよ! ご飯も作ってくれるし、お小遣いもくれるしね」
多分、優馬くんと私は似た状況にある。こうして日々ちゃんと生活できているのは親あってこそだ。そのことは理解している。そのうえで親に対して、マイナスな気持ちを抱いていた。
「成績も進路も口出されたことなんてないもん。いいことしても褒められないし、悪いことしても叱られないし、俺なんていてもいなくても変わらないんだろうなって思うよね」
そう言って軽く笑ってみせた彼の目は、どことなく寂しげだった。無関心と過干渉、どっちがいいのだろう。きっと親に恵まれない子たちから見たら、私たちはどっちも恵まれているのだと思う。でもやっぱり、それならいいよねとスルーできるわけではない。私たちの抱える嫌な思いは、こうして存在してしまっているのだから。
「そんなことないと思うよ……って言いたいけど、優馬くんの両親のことは私には分かんないや。親は絶対に子供のことを愛してるなんて、そんな言説信じられないと思ってるし」
「ははは、いいね沙紀ちゃんのその感じ」
「何が? もしかして冷たい人間だなって思った?」
「ううん、俺も同感。むしろそうやってはっきり言ってくれると、スカッとする」
優馬くんは、さっきの寂しげな目から一転して、おかしそうな表情をした。私の言葉がよい方向に影響したなら嬉しい。
「分かんないっていうのは、ほんとその通りだよね。俺だって、自分の親のこと分かんないもん。こういうのは腹割ってちゃんと話さないとね」
彼の物言いは、高校生らしくないものだと感じた。イメージとしては、親元を巣立った社会人のようだ。私はママと腹を割ってちゃんと話すなんて考えたこともなかった。彼は何を抱えているのだろう。それはきっと正体に関わる部分だろうから聞くことはできない。だが、いつかその辛さが少しでも楽になればいいなと思った。
今日も帰り際に優馬くんが飴をくれた。お腹が空いていたのもあって、その場ですぐに口に入れる。いつも通り美味しくて、頬が落ちそうだ。
「いつもこの飴くれるけど、これどこで買ってるの? スーパーで探しても見つからなくて」
前々から気になっていたことを尋ねた。せっかくなら自分で買ってみようと思ったこともあるのだが、一向に見つからないのだ。優馬くんは少し考える素振りをする。
「んーと、それ多分ネットじゃなきゃ買えないはず。外国のやつなんだよね。親が昔もらってきたやつが美味しくて、ずっと探してたら偶然ネットで見つけて、みたいな」
「なるほど、外国のやつなんだ。どおりでどこにも売ってないわけだ」
「沙紀ちゃん、この飴すごく気に入ってるでしょ? 美味しそうに食べてるもん。これからも会ったときにあげるから安心して」
気に入っているのがばれていて、少し恥ずかしい。そんなに美味しそうな顔をしてるのだろうか。そこまでの自覚はない。優馬くんは有言実行で、その後も必ず会う度にその飴をくれた。もらった飴の包みはなぜだか捨てられなくて、部屋に少しずつたまっていった。