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「バレたか」でお願いします!

 同じ高校に通うミキヒコ先輩(高2)とハナちゃん(高1)は付き合っています。そんな2人は演劇部員。ミキヒコ先輩は淡白で、ハナちゃんはそれが少し不満。ミキヒコ先輩から、もっとたくさん甘い言葉をかけてほしいハナちゃん。そこで、ハナちゃんは、思いつきます。ラブラブな台本を読み合わせに使おう!


 演劇部員にとって、読み合わせは、大切な稽古です。読み合わせとは、台本に書かれているセリフを、声に出して読んでみる稽古です。ただ声に出すだけでなく、感情を込めて読みます。ドキドキする台本を、ミキヒコ先輩と、いっぱい読み合わせしたい!照れたら負け!のルールで勝負です。

 今回、ハナちゃんが選んだのは『山田くんとLv999の恋をする』(アニメ版/エピソード13/朝起きたら)だ。有名なプロゲーマー、イケメン、頭脳明晰、高身長(?)である高校生の山田ヒーローは、女性が苦手だ。


 そんな超絶物件を、金欠でコンビニバイトをしている大学生のヒロインが射止める、女性目線での純愛物語である。この二人は、ゲーム内で出会い、オフ会を経て、接近していく。


 このアニメの最終エピソード、ついに二人が彼氏彼女になる告白の場面が、今回の台本に選ばれた。ハナちゃん目線だと、口数が少なく淡白なヒーロー山田と、ミキヒコ先輩のイメージが重なったようだ。切り取られたシーンは、以下である。


「ねえ、あの・・・や、山田って、私のこと、す、好きなの?あ、あれぇ、いや、その、あれぇ、なんか、そんな気が」(だって、手が)


「バレたか」(イタズラ顔で)


「え、えっと、私、いま酔ってて、あの、これちゃんと話せてる?私のいってる意味・・・」(私に触れる手が、ずっとそういってる気がした)


「好きです。俺、茜さんのこと。明日、朝起きて、忘れててもいいです。またいいにきます。覚えてもらえるまで。おやすみなさい」


「明日、朝、起きたら、電話してもいいかな?絶対、夢だったかもって、不安になると思う、から。そうしても、いい?」(ウルウルしてるヒロインの表情の見せ場)


(ヒロインの表情に釣られて、ヒーローが思わずヒロインを抱きしめる)


「俺がします。明日、朝、起きたら」(不安になっている茜を、安心させるように、優しく)


 演劇的には、なかなかに難易度の高い芝居である。アニメだからこそ、ヒロインの心の声「だって手が、私に触れる手が、ずっとそういってる気がした」が、普通のセリフと重なって表現されている。


 読み合わせでは、心の声までは発声できない。それは仕方ない。ただ、そこは演技するときに、ハナちゃんが、しっかりとそのように心に思い描きながら演技することが重要だ。


 それよりも、この台本における最大の山場は「バレたか」のところだ。この演技は、難しい。セリフよりも表情がメインの演技となる。イタズラっぽく笑って、かっこよさを出す。そんな演技が求められる。


 ハナちゃんは、この台本を日々の「おつかれ、また明日」の場面で再生したい。そうすれば学校のある日は毎日、先輩のかっこいい表情が見れて、優しく抱きしめてもらえる。朝のモーニング・コールまでついてくる。


 この日々のルーティンを得る。しかも、その発動条件となるきっかけは、ハナちゃんのセリフだ。先輩の表情、抱きしめ、毎朝の電話まで、全部、それらを発動させるスイッチが、ハナちゃんのものとなるのだ。


 先輩後輩が逆転しているところも、新鮮だ。ミキヒコって、ハナちゃんが呼び捨てにする。そういうところが、演劇の醍醐味でもある。人間だけでなく、どんなものにもなれる。いろんな感情を経験できる。


 さて、読み合わせ本番。いつものように、演劇部の部室にある壁掛け時計、その秒針が12時を示したことをきっかけとして、二人の演技が走り出す。


「ねえ、あの・・・ミ、ミキヒコって、私のこと、す、好きなの?あ、あれぇ、いや、その、あれぇ、なんか、そんな気が・・・」(だって、手が)


「バレたか」(イタズラ顔で)


「え、えっと、私、いま酔ってて、あの、これちゃんと話せてる?私のいってる意味・・・」(私に触れる手が、ずっとそういってる気がした)


「好きです。俺、ハナさんのこと。明日、朝起きて、忘れててもいいです。またいいにきます。覚えてもらえるまで。おやすみなさい」


「明日、朝、起きたら、電話してもいいかな?絶対、夢だったかもって、不安になると思う、から。そうしても、いい?」(ウルウルしてるハナの表情の見せ場)


(ハナの表情に釣られて、ミキヒコが思わずハナを抱きしめる)


「俺がします。明日、朝、起きたら」(不安になっているハナを、安心させるように、優しく)


 ハナちゃんは、大満足だったようだ。恥ずかしくて、顔が真っ赤。先輩の身体にギュッとしてて、離れない。離れたら、真っ赤な顔を見られちゃうから。木にとまっているセミみたい。


 それにしても、ハナちゃん、演技がうまい。ウルウルするところとか、本当にちゃんと涙を出せている。今回は、先輩の表情もよかった。普段、男性って、あまり表情を変えないからね。表情をちゃんとつくるだけで、かなり印象も変わる。


「これ、ハナちゃんが照れたから、ハナちゃんの負けでいいよね?」


「うん。私の負けでいい・・・」(先輩の胸に顔をうずめて、満足そうに)


「これ、勝負の結果として、なんかないと、勝負の意味なくない?」


「・・・負けたら、なんでもいうこときく」


「や、なんでもって・・・なんでも?」


「うん」


「・・・じゃあ、俺のほっぺにキスして」(キスと発声するだけで恥ずかしい)


「わかった(背伸びするが、届かない)、しゃがんで(恥ずかしいので事務的に)」


「はいよ」(先輩が中腰になる)


(ハナちゃん、ほっぺじゃなくて、唇に、ぎこちないキスをする)


 先輩は、びっくりして、ひっついてたハナちゃんをはがし、壁のほうを向いてしまった。真っ赤な顔を見られたくないのだろう。ハナちゃんはまた、照れ隠しで、先輩の背中に向かって、読み合わせ(ep.1)で覚えた手話をしている。


「先輩の全てが、愛おしいよ」(手話)「先輩の全てが、愛おしいよ」(手話)

「先輩の全てが、愛おしいよ」(手話)

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