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「死ぬまでの俺の人生を、お前にやる!」でお願いします!

 同じ高校に通うミキヒコ先輩(高2)とハナちゃん(高1)は付き合っています。そんな2人は演劇部員。ミキヒコ先輩は淡白で、ハナちゃんはそれが少し不満。ミキヒコ先輩から、もっとたくさん甘い言葉をかけてほしいハナちゃん。そこで、ハナちゃんは、思いつきます。ラブラブな台本を読み合わせに使おう!


 演劇部員にとって、読み合わせは、大切な稽古です。読み合わせとは、台本に書かれているセリフを、声に出して読んでみる稽古です。ただ声に出すだけでなく、感情を込めて読みます。ドキドキする台本を、ミキヒコ先輩と、いっぱい読み合わせしたい!照れたら負け!のルールで勝負です。

 ハナちゃんが今回選んだ台本は『とらドラ!』(アニメ版/エピソード24/告白)から。ヒロインである逢坂大河あいさかたいがのあだ名「手乗りタイガー」が、まずもって可愛い。ツンデレ系の中でも、誰にでも噛み付く、相対的にも、強めなツンデレ設定のヒロインだと思う。


 ヒーロー高須竜児たかすりゅうじドラゴンだとすれば、虎と竜で『とらドラ!』というタイトルになっている。この二人が、お互いの恋を応援する仲間から、愛し合う恋人になっていく過程が見逃せない。


 すれ違いの多い展開で、切なくて辛くなる。だからこそ、二人が結ばれていくラストに近いシーンになってくると、応援する気持ちが爆発する仕掛けだ。


 ハナちゃんが選んだ台本は、二人が駆け落ちをする場面だ。竜児は、あと2ヶ月で18歳になるから、2ヶ月逃げ切って結婚しようと考えている。そこの長いやり取りの一部。


「誰にも邪魔させない。死ぬまでの俺の人生を、お前にやる!」


 切り取ったこのセリフの直前には「嫁に来いよ!」というセリフがある。しかしハナちゃんは、あえてそこを外した台本を、ミキヒコ先輩にSMSした。すると珍しく先輩から返信があった。


「このアニメ、いいよね。俺も全部みた。このシーンさ、この直前に「嫁に来いよ!」ってあるでしょ?そこは、読み合わせ、いらないの?」


 ハナちゃんは、明日、直接、話したいと返信した。そして次の日、二人は部室にいる。少しの沈黙のあと、ハナちゃんが話し始めた。


「これまでは、愛おしい、大好きだ、使い魔だ・・・でした」


「うん」


「それは先輩が、私のこと、そう思ってくれているって知ってるから、選んだんです」


「うん」


「・・・でも、先輩」


「うん」


 ハナちゃんが、大粒の涙をボロボロし始める。


「もし先輩が・・・私と結婚したくなかったら、どうしようって。私、先輩が私のこと、どこまで本気なのか、知らないなって。そしたら、読み合わせみたいな方法で、先輩に、つかせちゃいけない嘘を、つかせちゃうかもって。だから、怖くて、選べなかったんです。いくら遊びでも、超えてはいけない線だって、そう思ったんです・・・」


「本気だから」


 ハナちゃんが「うわーん」と泣いた。嬉しくて、泣いた。正直、もう読み合わせしなくてよいのでは?とも思う。しかしそこは演劇部。役者の練習としての意味も、この読み合わせに、本気で期待している。


「も、か、ひっ、も、ひっ」


「なに?」


「も、か、いって」


「本気だから。ハナちゃんといつか、結婚したい」


「うれ、し、い。う、れ、い。あり、が、う」


 ハナちゃん、しばらく泣いていた。先輩がハナちゃんの背中を、ずっとさすってあげていた。他の人にとっては、なんの変哲もない、ある春の日。でも、この二人にとっては、大切な思い出となった日。ハナちゃん、やっと落ち着いて、次のようなルールを決めた。


「私も、いつか先輩と結婚したいです。それは事実ですが、まだ18歳になっていない私たちは、法律上、結婚できないです」


「うん」


「だから、いつか本当に結婚したいからこそ、直接的に結婚を意味するセリフは、読み合わせに採用しないということにします」


「は、はい。ただ、今回の「死ぬまでの人生を、お前にやる」は、そのルールでも大丈夫なの?」


「大丈夫です。だって、それは18歳になっていなくても、可能ですよね?」


「まあ、いわれてみればそうだけど・・・それって結婚よりも、重たくない?死ぬまでの人生をあげるってことはさ、絶対に離婚しないってことだよね?」


「え、離婚したいんですか?」(目がウルウルしてきた)


「ま、待ってハナちゃん!まだ、結婚してないから、離婚できないよ!ハナちゃん、待って!待ってって!ほ、ほら、読み合わせやるよ!読むから、きっかけ!ほら、きっかけ、きっかけ!」


 しばらく、こんな感じで、イチャイチャしていた。少しして


「いきます。よーい、はい!」


「誰にも邪魔させない。死ぬまでの俺の人生を、お前にやる!」


「あなたのことを、心の底から尊敬し、そして愛しています。私のすべてを、永遠に、あなただけに、捧げます」(シリアスな声色で)


「ちょ、そんなセリフ、なかったでしょ!」(顔真っ赤)


「えー、クエって作家のネット小説で読んだ」


「それって、ルール違反だよね?それ、読み合わせじゃないじゃん!」(顔真っ赤)


「先輩、顔、アッカ!先輩の負けー」


 ミキヒコ先輩、初回以外、全部負けてる。ところで先輩は、本当に、自分のこと、使い魔だって思ってるのかな。『ゼロの使い魔』における使い魔って、終生メイジに付き従うやつなんだけどね。まあ、そこは内緒でいいのかな。

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― 新着の感想 ―
ロッセのセリフをここで使うとは…(笑) クエさんはヒロインの言語が崩壊する描写がお好きですね。 …わかります。
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