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「世界で、いちばん、綺麗」でお願いします!

 同じ高校に通うミキヒコ先輩(高2)とハナちゃん(高1)は付き合っています。そんな2人は演劇部員。ミキヒコ先輩は淡白で、ハナちゃんはそれが少し不満。ミキヒコ先輩から、もっとたくさん甘い言葉をかけてほしいハナちゃん。そこで、ハナちゃんは、思いつきます。ラブラブな台本を読み合わせに使おう!


 演劇部員にとって、読み合わせは、大切な稽古です。読み合わせとは、台本に書かれているセリフを、声に出して読んでみる稽古です。ただ声に出すだけでなく、感情を込めて読みます。ドキドキする台本を、ミキヒコ先輩と、いっぱい読み合わせしたい! 照れたら負け! のルールで勝負です。

 今回、ハナちゃんが選んだのは『その着せ替え人形は恋をする』(アニメ版)だ。これも、とても素敵な作品だ。切り抜いた台本は、以下の部分。子ども時代のヒーローが、雛人形の美しさに魅せられて、心の底からの本心として口にするセリフだ。


「すごい。すごい、綺麗。世界で、いちばん、綺麗」


 目が止まる。美しさに魅せられる。理屈じゃなくて、自分の理性ではどうしようもない。一目惚れ……。私たちの人生には、何度か、そういう経験があるものだ。


 ヒーローの五条新菜は、雛人形職人(雛人形の顔を作る頭師)になることを目指し、日々修行をする高校一年生。自己評価が低く、友達もいない。真面目すぎるほど真面目な性格は、将来、職人になる人のそれだ。


 ヒロインの喜多川海夢は、ギャルで、ヒーローの同級生として描かれる。堂々としていて、他者の目を気にせず、分け隔てない、美少女。物語は、このヒロインが、はじめてコスプレに挑む、その衣装を、ヒーローが作るところから展開する。


 本作のテーマは「誰かの目に止めるものを生み出す」ことだと思う。その喜びや苦労が描かれている。何であれ、とにかく「何かを生み出す人」を徹底してリスペクトする、気持ちのいい作品だ。


「でね、先輩。このセリフなんですけど」


「うん」


「これは、回想シーンとして、作中の重要なポイントで複数回、使われるセリフなんです」


「なるほど。じゃあ、作品の根幹をなすセリフってことだね」


「そうです。テーマは『誰かの目をうばうような何か』を生み出すこと……だと思います」


「演劇にも通じるね」


「ですです。なんか、肯定された感があって、嬉しいですよね」


「演劇でも、舞台装置とか、それこそ衣装もつくったりするからね」


「で、今回のセリフは……先輩が、今日、何かに目を奪われたときに、自然な感じで、その目を奪われた何かに対して、発してもらいたいんです」


「あれ?僕が、ハナちゃんに対して発するんじゃないの?」


「なんか、うーん、綺麗っていわれても、なんかなって……」


「うれしくない?」


「嬉しいですよ、もちろん。でも『綺麗』って……いつもと同じ制服姿の自分に向けられる言葉としては、やっぱ、嘘っぽく聞こえると思うんです」


「そんなことないよ。僕、ハナちゃんのこと……ハナ……本当に……」(急にシリアスに)


「え?」


「すごい。すごい、綺麗。世界で、いちばん、綺麗」(先輩、上手い)


「……」(顔真っ赤)


 ミキヒコ先輩の勝ち。不意打ち、タイミングの勝利だ。


 実際に、こういうセリフは、意外なタイミングを狙うと、効果が高い。逆に、いかにもなタイミングだと、嘘くさくなる。


 たとえば、ウエディングドレスを着ている人に「綺麗ですね」といっても、まあ、社交辞令にしか聞こえない。でも、普段着で掃除でもしている相手に、思わず口から出ちゃった感じで「綺麗だ……」とかいうと、だいぶ本当に聞こえる。


 ミキヒコ先輩は、それがわかっていて、やってる。演劇部員だからね。

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