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彼は秘密共有者 2

「いや、えーっと」


 やってしまった。最後の一言が余計すぎた。なんで「思い出した」なんて言ってしまったんだろう。ちゃんと考えて話していたら知られず済んだかもしれない。どう考えても、自分の考えが甘いことが原因だ。

 

 そんなことを考えていると、ソラーレ様に笑われてしまった。


「本当にブライト様って分かりやすいですね」


 また考えが顔に出てしまっていたらしい。直せるように努力しなければ……。そういえば、前世でもよく分かりやすいといわれていた。人狼のときなど以外では顔に出ても困ることがなかったから、あまり気にしていなかったのだが。

 つまり、顔に出やすいのはもともとのことになる。というか、見た目や名前、境遇が変わっただけで中身は同じ人間なのだ。こちらの世界にきて急にそうなったとは考えづらい。


 もしかしたら、直せないかもしれない。前までとは違い、今回は前世という大きな隠し事がある。今回みたいな質問をされたらどうしよう。前世なんて話、ほとんどの人が信じなさそうだし。長いこと考え事をしてしまうのも、自分の悪い癖だ。何もしゃべらない私を見て、質問にどのように答えようか迷っていると思ったのだろう。


「反応からなんとなく察せてしまいますが、無理に答えていただかなくても大丈夫ですよ」


 彼は気を使って、そう言ってくれた。すごくありがたい申し出なのだが、彼が言った通り、もうほとんどバレている。無理に隠しても意味がないだろう。神子になることができれば、その後の信頼関係にもつながってくるかもしれない。これは、本当のことを伝えたほうが良いだろう。

 覚悟を決め、彼の目を見て答えた。


「いえ。むしろ、ちゃんとお話しようと思います。でも、自分でもちゃんと理解できていないことも多くて……。何から話そう」

「それでしたら、私が質問していくというのはどうですか?もしよろしければですが」

「ありがたいです!よろしくお願いします」

「分かりました。それでは、」


 私は言葉や文章にして相手に伝えることが得意ではない。むしろ苦手だ。授業で感想を書くとき、考えをまとめるのにも人の三倍くらいはかかる。そこから書いては消しを繰り返し、結局時間がきて帰りのホームルームで提出することになるくらいには苦手だ。

 だからしっかりと説明できるのか不安だったのだが、それは杞憂だった。彼の質問に答えていけば、話がしっかりつながっていく。理解しにくいところは彼が詳しい質問をしてくれるため、これまでの出来事が分かりやすくなっていく。しかも、自分が話したことをメモにまとめてくれている。絶対仕事ができる人だと思った。


「私が気になるのは以上ですね。ほかに何か話しておきたいことなどはございませんか?」

「今思い出していることは、全部話せたと思います」

「分かりました。では、こちらでまとめたものと記憶に相違がないか確認していただいてもよろしいですか?」

「……はい、大丈夫です。すごく分かりやすいです」


 彼の様子を見て尊敬の念を抱くと同時に、元の自分的には同い年なのだということを思い出して比べ落ち込んでしまった。でも、クラスの中にも絶対自分より上だと思う人はたくさんいたし、まして彼は国の重要人物。足下に及ばなくたって仕方がない、と自分を慰めてみる。


 そんなことより、今は目の前のことに集中しなくては。


「えっと、どう思いますか?」

「正直に言いますと、にわかには信じがたいですね」

「ですよね……」


 自分だって、前世のことを思い出す前にこんな話をされたら絶対信じなかっただろう。ただ、彼なら信じてくれるのではないかとかなり期待してしまっていたようで、思った以上に落ち込んでしまった。そのことが伝わったのか、彼は慌てたように言葉を続けた。


「ただ、簡単に否定はできません。確かに、あのとき見たものは夢ではなく記憶と呼んだほうがしっくりくる。このことについては、こちらでも調べてみますね。ここにある図書館には、儀式や神子様がたのことについてまとめた資料があります。もしかしたら、同じような経験をしている方の記録が残っているかもしれません」


 確かに、今回だけで二人もいるということは、他にもいる可能性がある。そのデータが集まったら、前世の証明ができるだろう。そして、彼も前世をしっかりと思い出せるかもしれない。本当に前世なのかは分からないが、状況的に自分と一緒だろうと思う。

 そこで、初めて自分の気持ちに気づいた。急に質問されたときは驚きしかなかったが、時間を開けると嬉しさがこみあげてくる。今朝までは自分一人だけだと思っていたから、仲間が増えたようで嬉しかったのだ。


「ありがとうございます!」

「いえいえ。私も関係していることですし、なにより興味がありますので。っと、かなり時間をいただいてしまいましたね。申し訳ございません。儀式、ではなくて、儀式の代わりのものを始めましょうか」


 彼は思わず笑ってしまいながらそう言ったため、私もつられて笑いながら返事をした。


「はい。よろしくお願いします」


 それから彼は説明を始めた。だが、ほとんど儀式で行ったことと変わらない。違うところと言えば、水晶を触る代わりに手を繋ぐというところだ。


「手袋はもちろん付けたままですが、手に触れることになります。書面のほうでは許可をいただいておりますが、本当に大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です。きちんと両親からの許可ももらっています」

「ありがとうございます。それでは、始めさせていただきます」


 差し出された手をつかむ。

 右手で魔力を出し、左手で吸収する。そうしながら、魔力を循環させていく。

 一度経験しているからだろうか。すぐに温かくなるのが分かる。


(大丈夫。きっと上手くいく)


 大きく深呼吸を一つ。目を閉じて、なぎなたを思い浮かべる。前回よりも鮮明に思い出せた。そして次の瞬間、手の上に重いものが乗ったのを確かに感じた。

 恐る恐る目を開けると、手の間に光が生まれていた。それはだんだん形を作ってゆく。そしてついに、しっかりと手で持てるようになった。

 これは、成功ということでいいのだろうか。ソラーレ様の顔を見る。彼はとても嬉しそうな顔をしていた。手が離されると魔力が回っている感覚はなくなった。しかし、なぎなたは消えていない。


「これからよろしくお願いいたします。光輝の神子様」


 ソラーレ様はそう言い微笑んだ。

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