彼は秘密共有者 1
屋敷から大神殿までは、一時間ほど馬車を走らせなければいけない。その間私はずっと興奮していた。ルーチェ自身は見慣れた街並みなのだろうが、自分としては初めて見る景色だ。しかも、乗っているのが馬車ときた。それはまさに、本の中にあった世界だった。
もっと窓に張り付くぐらいしっかりと景色を見たかったのだが、隣にルミさんがいたため頑張って堪えた。時々声が出てしまっていた気がするが。まぁ、許容範囲であろう。
そうしていると、すぐに神殿についた。馬車から降りた瞬間、私はその美しさに目を奪われてしまった。緑の中に映える白色の建物。金色の装飾は日の光を浴びてキラキラと輝いている。だがお城のような絢爛豪華さは感じない。まさしく、神聖な場所という雰囲気を放っていた。
「ルーチェ・ブライト様。お待ちしておりました」
そう声をかけられ、我に返った。そうだ、今日は神子になれるかどうかが決まる日。気を引き締めていかなければ。
「本日はよろしくお願いします。ソラーレ様」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。それでは、ご案内いたしますね」
前回は神殿へ入り直進して『儀式の間』のほうへと向かい、待合室で待機していた。しかし今回は、すぐある階段を上り少し狭めの部屋へと通された。今回のことはあまり公にできないため、ほかの人たちは隣の部屋で待ってもらうことになった。
「申し訳ございませんが、かなり長い時間お待ちいただくことになるかもしれません」
「伺っております。ルーチェ様のこと、よろしくお願いいたします」
そのとき、ルミさんが不安そうな顔をしていることに気づいた。儀式のときに気絶してしまったため心配してくれているのだろう、と私は思った。
「大丈夫ですよ、ルミさん!今回は絶対気絶しませんから」
「いえ……。約束してくださいね。皆さん、とても心配されていましたから」
その言葉に大きく頷いて、部屋に入った。
「どうぞ、こちらへおかけください」
そうすすめられた椅子へ座ると、ソラーレ様は机を挟んで向かい側にある椅子へ腰を掛けた。そこから、今の体調などを聞かれた。ソラーレ様の落ち着いた雰囲気も相まって、病院で診察を受けているようだった。前回のこともあるから気にしてくれているのかなぁ、と軽く考えながら答えていたのだが、最後の質問に私は言葉を失ってしまった。
「気絶をしてしまったとき、自分とは違う人物になる夢のようなものを見ませんでしたか?」
前回会ったときから疑われているとは思っていたが、そんなにピンポイントで当てられるとは思っていなかった。超能力?この世界なら魔法の可能性もある。理由は分からないが、ただの勘というわけはないだろう。
「そんなに狼狽えられたら、もう答えを聞いたようなものですね」
「あっ、やば」
確かにその通りだ。聞かれたときすぐに「なんのことですか?」とでも言っておけば、そこで話は終わったかもしれないのだ。やってしまった。ここからどうごまかそうかと考えるが、すぐにいい案は浮かばない。
「はい、見ました。どうして分かったんですか?」
バレた理由が分かれば、これからの対策になるだろう。そう考え、ごまかすのはあきらめてそう質問したのだが、
「やっぱりそうですか。良かった。実は、私も同じ経験があるんです」
想像していなかった答えが返ってきて、これまた言葉を失った。つまり、彼も前世の記憶があるということなのだろうか。まさかこんなにすぐ仲間が見つかるとは。いや、仲間と言えるのかは分からない。まずは彼の話を詳しく聞いてみないと。
「いつ見たんですか?やっぱり、儀式のときですか?」
「はい。神子の儀式ではなく、次期最高神官を決めるための儀式を行ったときでしたが。選ばれた直後に気絶してしまい、その夢のようなものを見たのです」
「どんな内容だったか教えていただくことはできますか?」
「そうですね。目線の高さで考えると、多分10歳ほど。魔法はもう使えていました。森の中で誰かと遊んでいたのですが、相手の顔は見えませんでした。それくらいでしょうか」
なるほど。魔法を使えたということは、地球から来たというわけではないらしい。それから、部分的にしか見ていないということは、前世ということには気づいていないのかもしれない。それなら自分も、前世ということは隠して、部分的に話そうか。
「私のことはお話ししたので、ブライト様のことも聞かせてもらえますか?」
「確かにそうですね。自分が見たのは魔法のない世界でした。港町に住んでいる子で、えっと…………」
だめだ!前世であるということを隠そうとしたら何も話せない。だって、全部思い出しているんだもん。一か所だけ話すって、どこ言えばいいんだ。狭間のことは言えないし。そうだ。
「なぎなた!お姉ちゃんがいたんですけど、なぎなたをしていました」
「なぎなたというと、儀式のときにブライト様が出現させたものですよね。しかし、それをするとは?」
「えっと、そのものだけじゃなくって、それを使って行う競技とかのこともなぎなたって言うんです。多分儀式のときになぎなたを見たことがきっかけで、思い出したんだと思います」
これならいいだろう。あまり詳しくないから間違っているかもしれないが、間違っていたとしても知るすべはないはずだし。彼は儀式のときになぎなたを見ているから丁度いい。もしかしたら自分、天才かもしれない。
「思い出した?つまりそれは、ブライト様自身の記憶ということですか?」
前言撤回。全然天才じゃなかった。
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