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前世追憶は儀式中 3

 目を開けると自分の、『ルーチェの』部屋だった。ベッドのそばでは、家族たちがいる。突然気絶した私の容態を心配してくれているようだ。しかし、そんなことはどうでもよかった。正直上の空で、家族たちの会話もほとんど聞けていない。そんな様子を見た父は、


「疲れているだろうから、しっかりとお休み」


 と頭を撫で、不安そうな母や兄たちを連れて、部屋を後にした。


 それから一週間、私は熱で寝込むことになった。四日目からはほぼ微熱だったのだが、大事をとって大半の時間横になっていた。なので、身体がバキバキに痛い。

 今日も一日、部屋にいることになりそうだ。気絶をした直後であったり、発熱の理由もわからないため、皆心配してくれているのだろう。


 だが、自分ではよく分かっている。

 絶対、前世を思い出したことが原因だ。


 一気に、前世十五年分の記憶が追加されてしまったのだ。何も起きないほうがおかしいだろう。むしろ一週間熱が出ただけですんだのは、幸運だった気がする。微熱も完全に下がり、しっかりと思考できるようになったため、これまでのことを整理していく。


 私には『ひかり』という前世がある。日本の港町に住む十五歳で、両親と兄と姉の五人家族。三月に中学を卒業して、高校入学を目前としていたときに、『世界の狭間』と言われていた場所へ呼ばれ、多分死んだ。

 そして、ナチュール王国の侯爵令嬢『ルーチェ・ブライト』に転生した。先月十歳になったばかりだ。両親と兄の四人家族。前世の記憶を取り戻してしまったため両親や兄と呼ぶのは少し違和感があるが、呼んでいた記憶も残っており、なんとかなっている。


 転生したことを思い出したとき、周りの人たちに違和感を覚えさせないかと心配しが、家族や使用人さんの様子を見る限り大丈夫そうだ。もともと自分の魂が入っていたから同じような行動をしているのか、神様(『白髪の人物』は長すぎるので、そう呼ぶことにした)が助けてくれているのか、詳しいことは分からないがとりあえず安心した。ルーチェとして生活していた知識などもあるため、こちらの世界のマナーなども困らずにすみそうだ。まぁ、知識があるのと行動できるのとはわけが違うのだが、なんとかうまくやっていこう。


 まずはもう一度、儀式というものを行ってもらえるのか聞かなければいけない。神様との約束だ。破ったらまたお姉ちゃんが危険な目にあうかもしれない。それだけは避けなくては。徐々に明るくなる部屋の中で、そう強く思った。善は急げ。いつも通りなら朝のうちに一度家族が来るから、そのとき聞いてみよう。





「だめだよ」


 間髪を入れずに拒否された。そんな食い気味にこられるとは思ってもいなかったから驚いてしまった。しかし、お父さんはやってしまったというような顔をしてこう尋ねてきた。


「どうしてもう一度儀式を受けたいんだい?」


 多分、理由も聞かずに否定してしまったことを悪いと思ったのだろう。記憶の中でもそんな人だ。でも、本当のこと、お姉ちゃんを守りたいからなど言えるわけない。


「前回は神具を出現させることには成功したので。もう一度儀式を受けたほうがいいかと思って」

「それが理由なら、やっぱり私は許可できない。だって前回気絶してしまったじゃないか。二回目だから大丈夫だという保証はないし、今回みたいにすぐ目覚められるかも分からない。そんな危険なことさせられるわけないよ」


 言っていることは真実だし、とっても家族思いの人なのだと改めて理解できた。だが、こんなすぐに目標達成するための壁があるなんて思ってもいなかった。もう一度儀式をしてもらうためには、大神殿へお願いする方法を考える必要がある。自分から手紙を送りお願いすることはできるかもしれないが、両親にバレずに手紙を出すのは難しいと思う。


 もしかして、詰んだ?


 頭に浮かんだそんな考えを振り払う。そんな簡単にあきらめてはいけない。ほかの方法もあるはずだと頭をフル回転させるが、すぐにいい案は思い付かない。頭をつかいすぎてまた熱が出そうだ。


 そんな風に悩んでいることが顔にでも出てしまっていたのか、それとも初めから感じていたのか。


「他に大きな理由がありそうね」


 母がこう尋ねてきた。まさかそんなこと聞かれるとは思っておらず驚いた。これは何と答えるべきなのだろうか。肯定しなければもう儀式はできなそうだが、詳しいことを聞かれたら説明せざるを得ない気がする。答えに詰まってしまう。


「無理にそれを聞きはしないわよ。ルーチェ自身の思いを大切にするわ。それに、あなたの願いも叶えてあげたい。だから、今日聞くだけ聞いてみてもいいんじゃないかしら。ね?あなた」

「父さん、僕からもお願いします。ルーチェがこうやってお願いしてくることも珍しい。きっと大切な理由があるんだと思います」


 それを聞いた父は、困った顔をして考え込んだ。これから仕事もあるというのに、朝から悩ませてしまって申し訳ないという気持ちが芽生えてくる。だが、これだけは譲れないのだ。お姉ちゃんを救うためにも。


「お父様、お願いします。危険だと思ったらすぐにやめるので」

「ルーチェにそんな器用なことはできないと思うけど」


 笑いながらそう返される。確かにそうだと少しの恥ずかしさで目をそらしそうになるが、父をずっと見つめる。


「……分かった。今日の午後、ソラーレ様がいらっしゃるから、そのとき聞いてみよう。ただ、大神殿のほうが受け入れてくれるかは分からない。そのことはしっかり理解しておいてくれ」

「はい!ありがとうございます」


 大神殿へのお願いはこれでできることになった。本当によかった。ソラーレ様と言えば、儀式のときにいた次期最高神官だ。儀式のことを聞くにはちょうどいいだろう。


 ……そういえば、最高神官と世界の狭間にいた人は似ていたような。いや、似ているどころではない。同一人物といわれたら誰も疑わないほど、瓜二つだった。


 これは、神殿へ理由いかなければならない理由が増えてしまった。

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