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前世追憶は儀式中 2

ーーーーーーーーーー


「メンッ!」


 大きな声援にもかき消されない、鋭く刺すような声が試合会場に響く。そして上がる、三本の白色の旗。無意識に入っていた肩の力が抜ける。それは隣に座る両親も同じだったらしく、顔を見合わせて思わず笑ってしまう。

 そして、礼をする姉を見つめた。その姿は、とても美しかった。









 この時はまだ、あんなことが起こるなんて考えてもいなかった。


 春休み、月曜日の朝。目が覚めると、時計は十時半を指すところだった。遅いと感じる人もいるかもしれないが、休日は十三時過ぎまで寝ている自分にとっては、早起きと言っていい時間だ。目をつぶってみるが、全く二度寝できそうにない。だが、布団から出る気にもなれない。


 そこでおかしなことに気づいた。姉がまだ眠っているのだ。休日でも平日と変わらない時間には起きているらしいのに。

 試合や移動で疲れたのだろうと結論付けるが、少し不安になり様子をうかがう。普通に寝ているようにしか見えない。


(無理に起こすのも気が引けるしなぁ)


 そんなことを考えていると、急に眠気が襲ってきた。やはり、早く起きすぎてしまったのだろう。目を閉じると、すぐに眠ってしまった。


 と思った。急に、目を閉じていても分かるくらいの明るい光が現れ、思わず強く目をつむる。しかしそれは一瞬の出来事で、光はすぐに消えてしまった。私はゆっくりと目をあける。


 そこは、白い空間だった。奥も上もどこまでも果てしなく続くような白い場所。一瞬夢なのかと思ったが、足裏には立っているという感覚が確かにあった。そして、こちらに背を向けたたずんでいる白く長い髪の人物。気後れしてしまうような雰囲気があるが、勇気を出して声をかける。


「あの、すみません。ここは一体、」


 声をかけて気が付いた。その人物の前に、姉が眠っていたということに。白髪の人物は、こちらを振り返らず質問に答える。


「説明するのは難しいんだけど。そうだな。簡単にいうとしたら、『世界の狭間』かな」


 不思議な声だ。愛する子に語りかける親のように優しく、新しいおもちゃをもらった少年のように無邪気でありながら、すべてを突き放すように冷たい。そして、理解できないことを言っているはずなのに、それが現実なのだと否応なしに納得してしまうような圧倒的な力を持っていた。


「……どうして自分たちが、そんなところにいるんですか?」

「ボクが呼んだから」


 そう言ってその人物は振り返る。こちらを見つめる黄金に輝く瞳は、すべてを見透かしているようだった。何を言われているのか全く分からない。それなのに、何も聞き返すことができない。そうしている間に、話は進んでいく。


「君に一つ質問がある」

「質問ですか?」

「簡単な心理テストみたいなものだよ。『大切な人が目の前で死にそうになっている。その人を助けるためには、自分が犠牲になるしかない。こんな時、君ならどうしますか』。ね、難しくはないでしょ」


(確かに質問自体はよくありそうなものだけど、超難しい問題だよ)


 心の中で悪態をつく。そうしないとやっていけない状況だった。自分は頭が良いわけではないが、バカでもない。その質問がどういった意味を持っているかも分かる。だからこそ、質問で返す。


「つまり、どういうことですか?」

「まあそうなるよね。じゃあもう普通に聞こう。『君が犠牲になれば、君の姉は助かる。さぁ、どうする』」


 想像していた通りだったが、身の毛がよだつのを感じた。

 自分は姉のことが好きだし、とても尊敬している。遊びの中での質問なら、迷わず自分が犠牲になることを選んだ。そうしたいという気持ちは嘘ではない。しかし、本当にその状況になると、ためらってしまう。


 正直、考える時間が一日あっても、答えは出せないかもしれない。でも、こんなことを聞く人物が、そんなに待ってくれるはずないのだ。


「さぁ、早く選んで。『君の死』か、『君の姉の死』か」


 眠る姉を見つめる。正直、初めから答えは決まっているのだ。こちらを見つめる黄金の瞳を見つめ、しっかりと答える。


「自分が犠牲になります」


 自分が死ぬのは怖い。でも、姉を失った後悔を背負って生きていくことは絶対にできない。白髪の人物は、何も言わずに姉の前から移動する。お別れの挨拶をするようにということだろうか。

 寝ている姉の手を握ると、握り返してくれたような気がした。


「ありがとう、お姉ちゃん。お父さん、お母さん、お兄ちゃんも。それから……」


 そこで言葉を止める。言いたいことはたくさんあるけれど、それを全部言ったら日が暮れてしまう。まぁ、この場所に日が暮れるという概念があるのかは分からないが。

 姉から離れて、後ろを振り返る。その時、黄金の瞳が悲しみを帯びていたように見えた。もしかして助けてくれるのかと淡い期待を抱いたが、もちろんそんなことはなかった。


「それじゃあ、彼女は元の世界に戻すね」


 そういうと、姉が強い光に包まれる。しかし、眩しいとは感じない。その光が消えると、姉はもういなかった。

 非現実的なことが起きすぎて、なんだか気持ち悪くなってきた。思わず座り込んでしまう。そんな私の様子は気にもせず、またしゃべりだした。


「君にはお願いがあるんだ。ある世界に行って、神子になって欲しい」

「へ?」


 姉がいなくなったことで放心状態だったのに、突然変なことを言われて全く理解できなかった。


「よろしく、ひかり」


 そう言われると、今度は私の体が光に包まれた。これは、この世界に来た時のようにとても眩しく、目をつぶった。



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