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前世追憶は儀式中 1

 朝から、雲一つない清々しいほどに美しい空が広がっている。駆け巡る風は優しく人々の頬をなで、動植物は待ち望んでいた春の訪れを感じ喜ばしそうな顔を見せる。

 まさに、神子を選ぶにふさわしい日といえるであろう。

 儀式に関わる者皆が、そして関わらない者ですらもそう感じるような日であった。それは、大神殿へ続く道を走る馬車に乗る私も例外ではなかった。


_____


「ルーチェ・ブライトと申します。本日はよろしくお願いいたします」

「うん、よろしく~」


 通された部屋で待っていた人物は、そう緩く話しかけてきた。それに驚き、挨拶のために下げた顔を思わず上げてしまう。急いで元の態勢に戻ろうとすると、目の前のその男性は愉快そうに笑った。


「君はすごく真面目だね。顔を上げてよ。そんなにかしこまらないで」

「お心遣い感謝いたします」

「うーん。もっと気さくにきてもらいたいところだけど……まぁ、いいか」


 顔を上げ、先ほどの声の主『最高神官様』を見つめる。こんなに近くでお会いするのは初めてだ。神秘的で近寄りづらいイメージを持っていたが、親しみやすい方なのかもしれない。しかし、前から思っていたが、どこかで会ったことがあるような……。やはり思い出せない。だからと言って、この疑問を投げかけることもできないのだが。


 少し目線をそらすと、最高神官様の後ろに控えている人物と目が合う。彼は確か、『次期最高神官様』だ。こちらが会釈をすると、微笑みながら返してくれた。神殿の方たちだとかなり緊張していたが、もう少し肩の力を抜いてもよさそうだ。

 そんなことを考えていると、最高神官様が話を続けた。


「今日は君で最後だから急がなくてもいいけど、もう『神子の儀式』を始めてしまってもいいかな?」

「はい、もちろんです。よろしくお願いいたします」


 彼が目の前に置かれている水晶玉のようなものに触れると、それは金色に輝きだした。置物にしては邪魔な位置にあると思っていたが、やはり儀式のためのものだったのか。そのものを見るのは初めてだが、この光は見たことがある。


「多分、これと同じようなものを見ことがあると思うけど、いつ見たか分かる?」

「そうですね。魔力測定のときのものと似ていると思います」


 大きさは比べ物にならないけど、そのとき使った杖の先についていた宝石のようなものにそっくりなのだ。


「おぉ、そうだよ。五歳のときのことなのに、よく分かったね」


 やはりそうだったのか。その日のことはよく覚えている。自分の中にある魔力というものを強く感じることができた日だったからだ。まぁ、気づいたのは光り方がそっくりだったからだが。そう伝えると、納得したように頷いた。


「そっか。確かに、君の魔力量だったら私の光とそっくりになりそうだ」


 魔力の属性によって色が変わることは知っていたが、量によって変わることは知らなかった。自分が知らないことがあると知るとワクワクしてしまう。詳しく聞きたいが、今は儀式に集中しないと。そう思っていたが、気になっていることが顔に出てしまっていたらしい。


「とっても気になるって感じだね。確かに、自分以外の光り方なんてめったに見ることないから無理もないか。量が多いほど光が強くなるんだけど、これは目で見てもらったほうが分かりやすいかな。ってことで、ソラーレ、お願いできる?」

「分かりました。触れるだけでいいですよね」


 ソラーレというのは、次期最高神官様の名前だ。彼は水晶に近づき手をのせる。同じ光属性だから金色の光を放ってはいるが、確かに少し弱い気がする。しかしそれ以上に、なんというか、


「優しい光」

「やっぱりそう思うよね!」

「え」


 いけない。思わず声に出てしまっていたらしい。慌てる私をよそに、最高神官様は話を続けていく。


「でも、ソラーレは信じてくれないみたいでさ。君からぜひ聞かせてあげてよ」

「今聞かせていただきましたよ。それに、ブライト様が困っていらっしゃいます。早く儀式を行われては?」

「えぇ~。まぁ、終わった後でも話せるか」


 しぶしぶ納得したように頷くと、水晶の近くに来るようにと声をかけられた。近づいてみても、ただの大きな水晶にしか見えない。それなのに、魔力に反応するなんて面白いと少し興奮してしまう。


「それじゃあ、まず右手で魔力を中に入れる感じで触ってみて」


 言われた通りに右手で触れる。ひんやりとしていた水晶が、金色の光を帯びながらほんのり温かくなる。


「すごい。ホントに同じくらい、っていうか私以上かも」

「いえ、そんなことは」

「謙遜しないで、本当のことだから。それじゃあ、今度は左手で。入れた魔力を吸い取る感じでやってみて」


 魔力を吸い取るようにとは初めてだ。戸惑いながら水晶に手を伸ばす。難しいし、これで合っているのかも分からない。しかし、少し経つと左手に温かいものが流れてくるのを感じた。


「いい感じだよ。そのまま、魔力を循環させて。そして、自分が使う神具を想像してみて。一番思い描きやすいもので」


 目をつぶって考えてみる。何を想像するのかいいのだろう。……神具……浄化のための道具……神子たちの武器……武器といえば。


 何かが、頭の中に浮かんでくる。人が何か長いものを持って動いている。これは、何だろう。モヤがかかったように見えるそれに、意識を集中させる。そうすると、だんだんはっきりと見えてきた。それは、私より少し年上の女の子が木の棒のようなものを振り上げては下げている場面だった。

 多分、『私』は見たことのない景色だ。でも、確かに知っている。いったい、なぜ。


 その思考は、手に何か重いものが乗った感覚により止められた。目を開けると、光り輝くものが水晶に触れていたはずの両手にのせられていた。はじめは形のないように見えたその光は、だんだんとさっき見た少女か持っていたものに変わっていく。


「これは、槍?いや、少し違うか」


 そんな声が聞こえる。でも、私はそれを知っていた。これは、


「なぎなた」


 その瞬間、手の中にあった重さは消え、私は気絶した。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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