大魔王家とブロック怪人
クーゲルはナツメグに連れられて樹海を進んでいた。そして、突然足を止めて少し大きい小屋を指さした。
「ほら、あの小屋が見える?私達大魔王家はあの小屋で暮らしているの。」
ナツメグはそう言うとぽつりぽつりと語りだした。
「大魔王家はね、元々魔界で暮らしていたの。ある時勇者が侵攻してきて…私は勇者に拉致されてしまった。」
ナツメグは悲しそうな顔で語る。
「大魔王のパパや、私の人形、そしてパパの影武者までもが私を助ける為に人間界にこっそりやって来た。勇者を倒し、私を助けてくれたまでは良かったの。」
「までは良かった…?」
クーゲルが不安そうに問いかけると、ナツメグは悲しい目で話した。
「魔界に帰ろうとしてワープゲートを通ったら…魔界は勇者の持ち込んだ超火力爆弾によって消滅していたの…。城下町も…お城も…魔界の美しかった自然も何もかも。」
それを聞いたクーゲルは俯き、悲しい気持ちになった。
「だから私達大魔王家は闇夜の樹海でひっそりと暮らしてるの。」
「そうなんだ…」
悲しい顔のクーゲルを見て、ナツメグは頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「最初は勇者を恨んだけれど、私はもう気にしてないの。だからさ、見習い魔王もそんな顔しないでよー。」
ナツメグはケラケラと笑い、クーゲルの手を引いて小屋に向かっていった。
がちゃりと小屋の扉が開けられる。小屋の奥には赤いマントを纏った黒いモンスターが椅子に腰掛けていた。
「パパー。ただいま〜。」
ナツメグがそう言うと、黒いモンスターは歩みだし、ナツメグの頭をわしゃわしゃと撫で始めた。
「おかえりだー!ワシの可愛い娘よ〜♪」
ナツメグに連れてこられたクーゲルはその光景にポカンとしていた。大魔王と聞いていたから、もっと恐ろしいのを想像していたのだ。
「えへっ♪…それとね、パパ。こちらが新しく大魔王家の一員になる見習い魔王だよ。」
ナツメグはクーゲルを指差し、黒いモンスター…大魔王に紹介した。
大魔王はクーゲルをジロリと見て、しばらく考えた後、クーゲルに近づいた。
「ほぅ…お前が新しく大魔王家の一員になる見習い魔王か…。名は何と言う?」
「あっ…ボクはクーゲル。こんな見た目だけど、10歳の亜人です…。」
「えっ。見習い魔王って10歳だったの?」
ナツメグが驚き、大魔王は目をかっ開いてクーゲルを睨むと、ふむ…と、何かを納得した。
「確かにお前は10歳のようだな。ワシの魔眼で見たから間違いではないようだな。」
大魔王は目を瞑り、ふっと一息ついてからクーゲルに笑顔で問いかけた。
「お前…いや、見習い魔王クーゲルよ。ワシは大魔王。これからワシらの家族の一員となった事を歓迎するぞ!」
クーゲルはその言葉にホッとして、ぺこりと頭を下げた。
「さて宴だ!コモよ!良い食材を用意せよ!」
大魔王が小屋の奥にそう呼びかけると、大魔王そっくりな衣装に身を包んだ、ゴーストがやって来た。
「フフフ…俺の料理を見習い魔王様に味わってもらうぞ…。頬が落ちるほど美味いぞ〜?」
影武者のコモはそう告げると、ウキウキな気分で厨房へ飛んでいった。
「さて、玄関で立ち話もなんだ。クーゲルよ、中で話そうではないか。」
「は…はいっ!」
クーゲルは返事をすると、小屋の中へ入っていった。ナツメグは扉を閉じ、とてとてと小屋の中へ走っていった。
小屋の中は意外と広く、部屋もいくつもあった。大魔王は椅子を引いてクーゲルを座らせると、自分も椅子に座り、影武者コモの料理を待つことにした。しばらくしてからご馳走がテーブルに並べられた。
「さて、食べながらで良いから、どうしてここに来たかを教えてくれぬか?」
大魔王がそう言うと、クーゲルは闇夜の樹海に来た経緯を話した。神魔宝軍と戦っている事、十五魔将に狙われた事、そして、デュライダーの攻撃で川に流されてここに来てしまった事、仲間と離れ離れになってしまった事…
「なるほど…それでたまたまワシの娘に発見されて見習い魔王となったのだな…。」
「うん…」
「許せんな…クーゲル、お前はワシらの家族となった者。家族に危害を加える奴らは、このワシが許せんのじゃあ!」
大魔王は怒りを露わにし、クーゲルにこう言った。
「よぅしクーゲル!ワシら大魔王家が神魔宝軍を倒す協力をするぞ!仲間も探してやる!ワシは…大魔王は家族を何よりも大事にするのが信条なのだ!」
「俺も手伝うぜ…フフフ。」
「みんな…!」
クーゲルは大魔王家の優しさに触れ、嬉しい気持ちが込み上げて来た。しかしその時、外から騒がしい声が聞こえてきた。
「なんだ!?」
「敵襲かもー?」
「嫌な予感がするぜ…俺様がまず行ってくる。」
影武者コモは小屋の扉を開け、戦闘態勢に入った。
「お前…さては神魔宝軍だな?俺様にはお見通しだぜ。」
「正解だ。オレの名前はブロークン。カタカタカタ…」
ブロークンと名乗る全身ブロックのモンスターは、影武者コモを笑い飛ばし、こう語った。
「神魔宝軍に逆らう者を倒せって言う指令を受けてな。クーゲルを出してもらおうか。カタカタ。」
「ふん。クーゲルは俺達、大魔王家の家族の一員だ。家族を売り渡すなんてしないんだぜーっ!」
影武者コモは両手を透明にすると、ブロークンを勢いよく引っ掻いた。
「くらってみるか?ファントムクロー!」
しかし、ブロークンのボディには傷一つつかなかった。
「カタカタカタ!無駄だ。オレのボディは超硬質の神魔コンクリート!生半可な攻撃では傷一つつかないんだよ!」
ブロークンは笑い、影武者コモに身体を飛ばした。
「それではお返しだ。ブロックアタック!」
「ぐわぁぁぁぁーっ!」
硬質なコンクリートブロックを何度もぶつけられて耐えられる者は少ない。影武者コモの身体はボロボロになり、地面に落ちてしまった。
「口ほどにも無い。カタカタカタ…」
「ワシの家族に手を出したな…!」
「許せない…!」
大魔王とクーゲルは小屋から出て、戦闘態勢をとった。
「神魔宝軍に逆らう者自ら出てくるとは、手間が省けた…カタカタ。だが、オレの神魔コンクリートのボディは砕けまい。」
ブロークンはニヤニヤ笑っている。しかし、大魔王は動じず、クーゲルに耳打ちした。
「クーゲル…お前は見習い魔王になった影響で闇の力を少し宿している。あのブロックの怪人は魔眼で見た所、2つの属性でコンクリートが砕け散るようだ…。」
「なるほど…つまり、2つの属性で攻撃してやれば良いんだね?」
「そうだ。ワシが注意を惹きつける。その間に2つの属性攻撃を浴びせてやれ!」
ブロークンは耳打ちする二人にしびれを切らし、襲いかかってきた。
「何をヒソヒソ言ってる!カタカタカター!」
殴りかかるブロークンの拳を大魔王はいとも容易くマントで弾き、そしてブロークンを投げ飛ばした。
「効かないな!カタカタ!」
ブロークンはドンッという音と共に着地し、笑うが、突然目の前に武器を構えたクーゲルが現れ、驚き戸惑った。
「ライトニングシュナイダーッ!」
稲光を纏う武器で斬りつけ、ブロークンの身体中に電撃が走る。ブロークンはニヤリと笑った。
「だから効かないと言っている!カタカタカタ!」
「それはどうかな?」
クーゲルは逆にニヤリと笑い、武器を再び構えた。すると、稲光を纏っていた武器には、禍々しい闇が纏わりついていた。
「これでお前は終わりだ!ブロークン!」
「カタカタカター!神魔コンクリートは無敵なのだー!」
ブロークンは防御の体勢すら取ろうとせず、神魔コンクリートに過信していた。
「ダークナイトシュナイダーッ!」
闇を纏う武器がブロークンを斬りつける。しーん…とした空気の中、ブロークンは笑い出した。
「やはりオレの神魔コンクリートは無敵!傷一つつかな…」
その時、ブロークンの身体が崩れ始めた。
「えっ?えっ?は?…なんで?なんでオレの身体が崩れて…」
「神魔コンクリートは物理耐久を高める為にカチコチサンドが多く使われてる事がわかったのだ。魔眼で見させてもらったぞ。」
「カチコチサンド…それがどうしたと言うのだ…」
「カチコチサンドは固めると無敵の如き硬質なコンクリートとなる。しかし、硬くなる代わりに属性への耐性が大きく下がってしまうのだ。2つの属性でも食らってしまえば、カチコチサンドは分解され、お前も自然と崩れてしまうわけだな。」
大魔王は困惑しながら崩れていくブロークンに冷たく説明した。
「そ…そんな…いやだ…死にたくない!誰か助けろ…!オレを助け…!」
「ボーグ」
助けを求むブロークンを大魔王は地面から突き出た闇のトゲで串刺しにし、消滅させた。
「ワシ、基本大魔王だからな。家族に危害を加えた者は生かしてはおけんのだ。」
大魔王はふーっと息を吐き、クーゲルの方を向いて喋りだした。
「今の魔法はボーグという邪悪属性の魔法でな。呪われた闇のトゲを召喚する魔法なのだ。」
「へ…へぇ〜」
「さてと…コモ!大丈夫か!」
大魔王とクーゲルが地面に倒れた影武者コモの元へ走っていく。影武者コモの手はプルプルと震えている。
「俺は大丈夫だぜ…ゴーストだから物理攻撃にはそこそこ強いんだ…フフフ。」
そう言うとコモは震えながら起き上がった。
「さっきまで意識を失ってたのはナイショな!」
コモは笑いながらそう言うと、大魔王はやれやれ…とした。
「とにかく今はコモを休ませるとしよう。クーゲル、手伝ってくれ。」
「わ…わかった!」
大魔王とクーゲルは震えるコモを担ぎ、小屋の中へ入っていった。
一方その頃…
「うーん…見つからないぷにゅなー…」
「このままだと心配でどうにかなっちゃいそうだよ…」
ぷにゅりんとドロヒューはクーゲルを探し、未だに空を飛んでいた。
「ぷにゅりん…一旦地上に降りて休まない?かれこれ1時間は飛んで疲れてるでしょ…?」
「そうぷにゅね…オレも流石に飛び疲れたぷにゅよ。」
ぷにゅりんは頭の葉を回転させて、休めそうな場所に降り立った。
一息ついていると、突然包帯が飛んできて2人を縛り上げた。
「何ぷきゅっ!?」
「動けない…!」
「やれやれ…ようやく捕まえましたよ。この私、〔ガグス〕の手を煩わせるとは…生意気な…」
そう言って包帯を引っ張って現れたのは十五魔将のシャプカの部下、ガグスだった。
「シャプカ様に引き渡させてもらう。ドロヒューとその仲間よ。絶対逃がさないよ…」
ガグスは包帯で縛り上げた二人を担ぐと、ウキウキしながら森の中へ消えていった…。