幻影騎士と闇夜の樹海と
クーゲル達が森の中を進んでいると、川のある所に出た。
「あっ!川だぷにゅ!」
「透き通っていて…綺麗。」
美しく透き通った川を見て、ぷにゅりんとドロヒューはうっとりしていた。
「(この川を辿ったら街までいけるかも)」
クーゲルはそう考え、二人に言った。
「ねぇ二人共。この川を辿れば街に行けるかもしれないよ。」
「なるほどぷにゅ!街に流れる川と繋がってるかも知れないぷにゅね!」
「うん…!行ってみよう!」
3人は川の下流に向けて歩き出した。背後から死の足音が近づいてるとも知らずに…
しばらく歩いていると、川は2つに分かれていた。
「あれ…?二股に分かれてる。」
「どっちへ行けばいいんだろう…」
「ぷ〜にゅ〜…」
3人がそれぞれ悩んでいると、突然闇の弾丸が横切った。
「わわっ!」
「な…何ぷにゅ!?」
「気を付けて…!何かが来る!」
ドロヒューが二人にそう言って背後を見ると、禍々しい馬に乗った首の無い騎士がこちらへゆっくりと向かってきていた。
「…私はデュライダー。十五魔将であるリーダー・シャプカの右腕なり。」
「十五魔将のシャプカの手下…さっき戦ったヤツの仲間…!」
ドロヒューはデュライダーを睨みつけるが、デュライダーはまったく気にしていなかった。
「リーダー・シャプカの命令は絶対。貴様らには消えてもらう。」
そう言うとデュライダーは剣を掲げ、クーゲルに向け、宣言した。
「宣言しよう!そこの騎士は私に完全敗北するだろう…!」
「何を言われても、ボクは仲間の為、負けないよ!ハァッ!」
クーゲルは盾を素早く投げつける。高速回転する盾がデュライダーの身体にガリガリと音を立てぶつかるが、デュライダーは盾を片手で掴み、逆にクーゲルに投げ返した。
「よっと…」
投げ返された盾をキャッチし、左腕に装着するクーゲル。そんなクーゲルを見てデュライダーはため息をついた。
「この程度では騎士とも言えぬ、ただの動く鎧だな。」
「それなら…これはどうだ!ライトニングシュナイダー!」
クーゲルは稲光をまとった武器を構え、デュライダーに向かって振り下ろした。バチバチと電撃が走るが、デュライダーにダメージは一切入っていなかった。
「その程度か?」
「ライトニングシュナイダーが効かない…!?」
クーゲルは素早く距離をとる。しかしデュライダーは何もしない。
「(なんだ…?何故動かない?デュライダーはどうして何もしてこないんだ?)」
クーゲルはギッとデュライダーを睨むが、デュライダーは動く気配がない。
「ヒュードロ夜行!」
突然ドロヒューが涙の人魂でデュライダーに攻撃するが、まったく効果が無かった。
「…無駄な攻撃をする貴様らに教えてやろう。」
デュライダーはクーゲルを(首がないのに)ギロリと見つめた。
「私は不死身だ。痛みを感じる事もなく、傷一つ付かない。」
その言葉にクーゲルは驚いた。一瞬嘘だと思ったが、デュライダーを見ると猛攻を受けたはずの身体に一切傷がついていなかったからだ。
「貴様らは弱い。とにかく弱い。その程度で神魔宝軍に楯突いているのだから片腹痛い。」
「さて…長話がすぎたな。この一撃で消えるがいい。〔ソウルデモリション〕!」
デュライダーはそう叫ぶと持っていた剣を振り、黒い斬撃波を飛ばしてきた。
「ぐっ…うぅ…んぎぎぎ…」
とっさに盾で防ぐが、衝撃に耐えられず、クーゲルは吹っ飛んでしまった。
「うわぁぁぁっ!」
クーゲルは吹き飛んだ衝撃で川の中に落ちてしまい、そのまま流されていった。
「「クーゲル!」」
「…騎士は私に完全敗北すると言っただろう?私の勝ちだ。」
デュライダーはドロヒュー達の方を向き、剣を向けた。
「次は貴様らの番だ。」
「ぷにゅ…」
ぷにゅりんはドロヒューをかばうように立ちふさがった。
「私の狙いはドロヒュー。貴様だ。小さきりん族よ。そこをどけば見逃してやろう。」
「いやぷにゅ…!ドロヒューは仲間だぷにゅ!仲間を見捨てるなんてできないぷにゅー!」
ぷにゅりんはそう言って頭の葉を回転させ、ドロヒューを舌で抱えて飛び上がった。
「飛んでもムダだ。〔ダークフレア〕!」
闇の弾丸を何発も放ち、ぷにゅりんを撃ち落とそうとするデュライダーだが、抱えられたドロヒューがヒュードロ夜行で逆に相殺し、ぷにゅりん達は空の彼方へ飛んでいった。
「…逃がしたか。リーダー・シャプカには一人消したと伝えておこう。」
デュライダーはそう言うと馬の綱を引き、何処かへ消えていった…。
一方空を飛んでいるぷにゅりんとドロヒューは、ほっと一安心していた。
「どうやら逃げきれたみたいぷにゅ…」
「でもクーゲルが川に落ちちゃった…!何とか空から見つけられるといいけど…」
二人はクーゲルの身を案じ、空からクーゲルを探すことにした。
そして深い樹海の中、クーゲルは意識を失ったまま最下流まで流れ着いていた。
「…あっ。こっちに人が流れ着いてるなんて。もう片方の川こそが街なのに。」
金髪のツインテールをなびかせる謎の少女はクーゲルを見て、ニヤリと笑った。
「貴方は面白そうだから私が助けてあげる。」
すると、謎の少女は邪悪な魔法陣をクーゲルの鎧に描きこみ、祈り始めた。
「魔よ…闇よ…大魔王の娘である私、ナツメグの問に答えよ…。この者を助ける為に邪神の力を…大魔王家の血を分け与えたまえ…。」
謎の少女…もとい、ナツメグは邪悪な魔法陣にそう言うと、クーゲルは闇に包まれていった。
「これでよし…と。さて、起きるまで側にいてあげる。」
ナツメグはそう言って近くの岩に腰掛けた。
…意識の無いクーゲルは深い闇の中に居た。周りを見渡しても全てが闇だった。
「ここは…そっか…ボク、デュライダーに負けて…」
しょんぼりと落ち込むクーゲルはぷにゅりんとドロヒューが心配で仕方がなかった。
「二人は大丈夫だろうか…デュライダーにやられてないだろうか…。ボクは…って、ん?」
クーゲルがふと上を見上げると巨大なギョロリとした1つ目の赤いモンスターが佇んでいた。
「…誰だ!?」
「我が名は邪神ジ=ゴーナ。大魔王家の守護者…。」
邪神はそう言うとクーゲルに向けて歩き、触手で頭を撫でた。
「そなたは大魔王家の血が入った。よって、我が守る事を約束しよう。」
「大魔王…?邪神…?訳がわからないよ!」
クーゲルは困惑しているが、邪神はニコッと笑い、クーゲルに問いかけた。
「そなたは今、意識を失い闇夜の樹海という場所にいる。そこでそなたの命は消えるはずだった。だが、大魔王家の若き者〔ナツメグ〕がそなたを助けたのだ。」
驚くクーゲルをよそに邪神は喋る。
「ナツメグがそなたに大魔王の資格である魔の血と、我の邪神の力を分け与えるように祈ったのだ。それにより、そなたは見習い魔王となった。」
「見習い…魔王…!?」
クーゲルは慌てるが、邪神はクーゲルを撫で、優しく手を握った。
「心配する事はない…見習い魔王よ。そなたは魔族になった訳では無い。大魔王の資格を得ただけなのだ。だから普通の人と変わらぬ。それに、見習い魔王とて鍛えなければそのままだ。」
邪神はそう言ってクーゲルから離れた。
「さて…見習い魔王よ。目覚めの時だ。我はそなたをいつでも見守っているぞ。」
「まってよ!ボクが見習い魔王だなんて!それに…ボクは二人の元に戻らなきゃいけないのに!」
クーゲルはそう慌てながら言うと、邪神は笑顔でクーゲルに言った。
「そなたは心配性だな!でも1つ言っておこう!そなたの仲間は生きている!…しかし、そなたの仲間は近いうちにやられてしまうだろう…。そなたが魔王としての修行を積み、力をつければ、仲間を守れるのだ!」
邪神はそう言った後、クーゲルを触手でドンッと押し、光の穴に落とした。
「わぁ〜っ!」
「目覚めよ見習い魔王!力をつけるのだ!そして…!」
邪神がそう言いかけた時、クーゲルは光に包まれ、意識を取り戻した。
「…ハッ!」
水浸しのまま目覚めたクーゲルは辺りを見渡す。周りは深く、おどろおどろしい樹木で囲まれていた。
「(今のは…夢…?それにしてはリアルすぎる…)」
「あっ。起きたんだ。見習い魔王。」
声がする方を向くと、ナツメグが立っていた。クーゲルは目をパチパチさせ、ナツメグに問いかけた。
「えーと…もしかして大魔王家のナツメグ…?」
「おっ。せいかーい。どうやら邪神と対話できたみたいだね。」
ナツメグはくすくすと笑い、クーゲルの手を掴んだ。
「さっ。こっちこっち。見習い魔王になったんだから私のパパ…大魔王に挨拶しなきゃね〜?」
「えっ…大魔王?待って待って!心の準備が〜!」
アワアワするクーゲルをよそに、ナツメグは手を引っ張りながら樹海に消えていった。
こうして見習い魔王になったクーゲルはナツメグに連れられて、大魔王に会うことになってしまった。そしてクーゲルを探す二人は、見事に見つけられるのだろうか…。
今回登場したデュライダーは、はるQさんの応募し、特別採用されたモンスターです!