秘境の温泉宿
ドロヒューの涙の人魂を辿って森の中を進んでいると、どこからかほんのり温かい空気が流れ込んできた。
「ぷにゅ…?あっちからぬくい空気がくるぷにゅ。」
「確かに…行ってみよう!」
クーゲルとぷにゅりんは道を逸れて獣道に進んでいった。
「ククク…」
後をつけられているとも知らずに…
「わぁ…!」
「すごいぷにゅ…!」
二人は獣道を進んで広い場所に出た。そこで目にしたのは人気の無い温泉宿だった。
「森の中にこんな宿屋があるなんて!」
「さすがのオレも知らんかったぷにゅよ!」
二人は温泉宿に見とれていると、宿から両腕にダンベルをつけた女の亜人が出てきた。
「いらっしゃい!ここは初めてかい?」
亜人はクーゲル達に話しかけてきた。クーゲルはハッと我に返り、亜人に返答した。
「ボクらはこの森を抜ける途中だったんだけど、温かい空気が流れてきたから辿ってみると、ここについたんだ。」
亜人はニコニコと笑い、また口を開いた。
「ここに初見でたどり着けるなんてすごく運が良いんだねぇ。っと、自己紹介がまだだったね。私はオカミ。この秘境の宿を経営しているのさ。」
そう言ってオカミはクーゲルとぷにゅりんにこの宿の事を教えた。
「この秘境の宿はね、温泉宿なんだよ。この森に住むモンスターだけじゃなく、外から温泉目当てでやってくる亜人もいるのさ。」
クーゲルは温泉に来た事が無かったので、目をキラキラと輝かせながら話を聞いていた。
「森に住んでるオレでも知らなかったぷにゅなぁ…。」
「おや、そこのぷにゅりん。アナタのお父さんは良くここに来ていたよ?」
「ぷにゅ!?パパがここに来ていた!?一言も言ってなかったぷにゅよ!?」
ぷにゅりんは驚き、オカミは優しく微笑みながら言った。
「可愛い娘を比較的危険な森の奥には連れて行きたくなかったんだろうねぇ。あの方からはよくアナタの話を聞かされたものさ。」
「えっ?ぷにゅりんって女の子だったの!?」
微笑むオカミをよそにクーゲルは驚き、目をぱちぱちさせていた。
「オレの事何だと思ってたぷにゅ!?」
「てっきりボクと同じ男の子かと…」
「オレはれっきとしたメスだぷにゅよー!」
ぷっきゅーと頬を膨らますぷにゅりんと優しく謝るクーゲルを見て、オカミはある提案をする。
「そうだアナタ達!良かったら私の宿に泊まっていかないかい?もうすぐ日も暮れるだろうからね。」
それを聞いたクーゲルは目を輝かせ、ぷにゅりんは頬をしぼませてオカミに聞いた。
「良いぷにゅか?」
「もちろんさ。可愛いやり取りも見れたし、二人は子供だからね。お代はいらないよ。」
「ボクが子供だってどうしてわかったの!?」
クーゲルは驚きを隠せなかったが、オカミは笑顔でクーゲルに話しかけた。
「こども食堂のおばちゃんと私は古くからの知り合いだからね。こないだ伝書鳥で教えてくれたのさ。全身暗い色の鎧を着て不思議な武器を持ってる子が来た時はよろしく頼むよ…ってね。」
「まさかおばちゃんの知り合いだったなんて…世界って広くて狭いなぁ…」
「10歳なのに大人みたいな事言うぷにゅねっ!」
ほぁー…と感心するクーゲルに葉っぱでツッコミを入れるぷにゅりん。オカミはクーゲルの手を掴み、ぷにゅりんを抱えて宿屋に歩いていった。
「ほらほら!立ち話もなんだし、泊まっていきな!」
「確かにお腹空いたし、野宿も嫌だからオカミさんに甘えちゃおー!」
「クーゲルに同感ぷにゅ!オレのパパの事も知ってるみたいだし!温泉とやらにも入るぷにゅー!」
3人は宿に入っていった。後をつけていた黒い影はニヤリと笑い、宿に近づいた。その時、黒い影は人魂のようなモノに拘束され、木々の中に引きずり込まれた。
「見つけたよ。神魔宝軍。ちょっと来てもらおっか。」
黒い影…神魔宝軍の下っ端は突然現れたドロヒューによって、闇の中へ消えていった。
一方、クーゲル達はご飯を食べていた。今日は人がおらず、実質貸切状態なので、オカミが二人を見ていた。
「とっても美味しい!おばちゃんの作る弁当の味に似てて優しい感じがする!」
「ママの料理よりも美味しいかもぷにゅ〜。オレのママって狩ってきた動物の肉や果物ばっかりで…」
「おかわりはあるからね!どんどん食べるんだよ!」
クーゲルとぷにゅりんはご飯を食べた後、オカミの案内で温泉に入る事になった。
「あ…オカミさん。鎧のまま温泉って入れる…?ボクの鎧脱げなくて…。」
オカミは驚いた顔でクーゲルを見つめた。その後、すぐにニコッと笑った。
「仕方ないね…。特別だよ?ただし!ちゃんと身体は洗ってから入るんだよ!」
「わーい!オカミさんありがとう!」
クーゲルは喜びながら温泉へ向かった。しかし、なんとぷにゅりんとばったり目が合った。
「ぷ…ぷにゅあああっ!?」
「わ…わぁぁぁっ!ご…ごめ〜ん!」
オカミが少し遅れて温泉の入口から首を出した。
「言い忘れてたけど、この宿予算の都合で混浴なんだ…よ…。…あっ。」
オカミはぷにゅりんの頭突きをくらい、目を回しながら倒れているクーゲルと、顔を赤らめながらぷっきゅーと頬を膨らますぷにゅりんの姿を見て、思わず目を背けた。
「伝えるのが遅れたね…ごめんよ。二人共。」
「う…う〜ん…」
「…ぷきゅう。」
その後、クーゲルとぷにゅりんはお互い背を向けながら温泉に浸かっていた。
「(ど…どうしよう!女の子だって分かってからドキドキする…!あっちも…同じ気持ちなのかな…?うあ〜!目が合わせられない〜!)」
「(ぷにゅ…年下とはいえ、ついつい頭突きをかましてしまったぷにゅ…!怒ってないかな…?目が合わせられんぷにゅ〜!)」
二人の考えはすれ違ったまま、温泉で時間だけがゆっくりと過ぎていった…。