入れ替わり騒動
古びた城を後にしたクーゲル達は、日も暮れた所で野宿の準備をしていた。
「今日は色々あったよね…疲れたよ〜…」
「一番疲れたのはデストロームぷにゅよねぇ。助けてくれてありがとうぷにゅ!」
「なに、気にする事はない。無事でよかった。」
「デストロームは休んでて。僕らが野宿の準備をするよ…!」
3人はデストロームを気遣い、それぞれが別の方向へと歩いていく。クーゲルは食糧担当、ぷにゅりんは枝を集める担当、ドロヒューは寝床になる物を見つける担当として移動する。
しばらくクーゲルが歩いていると、見慣れぬ行商馬車を見つける。青を基調とした装飾の馬車は、辺りの風景とは似つかわしくないものだった。
「こんな所に馬車…?何があるんだろう。」
クーゲルがそう言いながら、馬車を覗き込むと、突然幕が上げられる。
馬車の中から現れたのは、白い顔立ちに、蒼い瞳が特徴的な女性だった。
「あらあラ。こんなトコロに人が来るなんて珍しいネ。」
そう話しかけてきた女性の人は、どこか美しさと同時に不気味なモノを感じさせる。それでもクーゲルは不思議に思い、声を掛ける。
「えと…どうしておねーさんはここで馬車を?」
クーゲルが恐る恐る聞くと、女性はクスッと笑う。
「なんとなク!ここで何か出会いがあると思っテ!」
その言葉を聞いたクーゲルはあ然とする。そんなクーゲルの様子にも動じず、女性は続け様に口を開く。
「こうして君と会えたんだからラッキーラッキー!せっかくだから何か買っていク?」
女性のその言葉でハッと我に返ったクーゲルは、改めて馬車を覗き込む。様々な見た事のないものが、クーゲルの目に映り込む。
「凄い…見た事がないものがたくさん…」
「色々あるヨ〜。中にソースが入ったチョコレートの〔ボンベ・ショコラーデ〕とカ、甘い砂糖を固めた〔コンフェイト〕とカ…」
女性はそう言って商品を手に取り、クーゲルに見せる。クーゲルは美味しそうな商品に思わず唾を飲み込む。
「試食もやってるんだけド、このゼリー、よかったら食べてみル?」
そう言って小さなカップに入れられたゼリーを手渡され、クーゲルはスプーンで一口すくって、ゼリーを口に運ぶ。
「うっ…!?何味なの、これ?」
「カニ味。」
その言葉に思わず顔をすぼませながら、咽るクーゲル。
「な…なんでこんなモノ!?」
「いや〜…仕方ないんだよネ。他に良い味のアイデアが無かったもんデ。」
女性はそう言って他のゼリーを取り出し、クーゲルに問いかける。
「私の住んでた場所では星座というモノがあってネ、それにちなんだ商品なんだヨ。」
女性はクーゲルから試食のゼリーを回収すると、他の商品を並べだした。すると、クーゲルは一つのある商品に目がいってしまう。
「あ…これ…」
クーゲルの目を離さないその商品はぷにゅりんのようなマシュマロだった。
「あラ?もしかしてりん族に好きなコ…いるノ?」
「え!?その…なん…で、わかったの?」
思わずドキッとしてしまうクーゲルの反応を見て、女性はくすくすと笑う。
「知らないノ?女の子はネ、勘が鋭いモノなのヨ♪」
そう言って女性はクーゲルにウィンクをする。クーゲルは少し恥ずかしそうにしながらも口を開く。
「好き…というか、気になる娘はいるんだけど…その…振り向いてもらえるかはわからないけど…」
クーゲルのその言葉を聞いた女性は何かを取り出し、クーゲルに見せる。
「それだったラ、もう少し身長とかあったほうがよくないかしラ?」
女性がクーゲルに見せたのは、キノコのようなカップケーキだった。
「やっぱり大きくて頼りがいのある男性ってカッコいいと思うのよネェ。この〔マッシュカップ〕を食べれば、大きくなれるわヨ。お値段は300ルフにしとくネ。」
女性の言葉を聞いたクーゲルは、その安さに驚きつつも、300ルフを渡してマッシュカップを受け取る。そして、ある考えが思い浮かんだ。
「(この馬車で売ってるモノには、もっと凄いモノもあるかもしれない…他にも見てみるか…)」
「あ、そうそう。私、子供には安く売ってるのヨ♪だからそのマッシュカップも本来の半分のお値段で売ったのヨ♪」
それを聞いたクーゲルは、自分が子供であると言う事を見抜かれた事に驚くも、今はそんな事はどうでもいいと言わんばかりに、商品を見つめる。
「小さなサメのキャンディを小瓶に詰めた〔シャークニアキャンディ〕…形が可愛いから女子ウケ良いわヨ♪あとは、〔ギア・クッキーズ〕とカ。歯車やゼンマイってオシャレな感じがして好きなのよネ。どっちも美味しいのヨ。」
売り文句を聞いたクーゲルは2つの商品を購入した。続け様に女性は新しい商品をクーゲルに見せる。
「夜空の星々を閉じ込めた〔コンステレーション・ゼリー〕!星の瞬きが好きなコのハートを鷲掴むかもネ。それと、冷たくて甘い〔フロスティクッキー〕!暑い時にぴったりヨ♪クッキーだから溶けないし。」
「それも買う!ちょーだい!」
クーゲルは女性の売り文句と巧みな話術によって衝動買いのように商品を買いまくってしまう。すると、一つのかぼちゃ型クッキーを見て、何かを思い出す。
「あら?どうしたノ?」
「何故だろう…このクッキーを見てると、ボクが戦ったあいつらを思い出す…」
クーゲルのその言葉を流すように、女性は喋る。
「あら…そんな事があったのネ。でも、過去なんて気にしたらダメダメ。今は気になるあのコを振り向かせる事だけを考えなキャ。」
その一言で、クーゲルは過去の事が何故かすっきりと流れていった。そしてこくりと頷き、次の商品が紹介されるのをワクワクと待った。
「お次の商品は蜂蜜のように甘い卵の〔ハニーエッグ〕!お菓子作りにぴったりヨ。」
クーゲルはハニーエッグを買おうとしたその時、金貨がカウンターに置かれてるのに気づいた。
「あれ?どうしてお金がこんな所に?」
「それは私の住んでる場所で作られたお菓子の〔金貨チョコ〕ヨ。本物そっくりデショ?」
クーゲルはその精巧さに驚くも、迷わず2つとも購入していた。
「そうそう、お菓子だけじゃ無くテ、美味しいご飯も売ってるのヨ。それが、この〔バゲットバスケット〕。沢山のサンドイッチが入ってるわヨ。」
「あ!そうだ食糧!」
クーゲルは食糧の確保という目的を思い出し、バゲットバスケットを2つ程買うと、足早に皆の所へ戻ろうとする。その時、女性から呼び止められる。
「あ!ちょっと待っテ!」
「え?」
クーゲルは立ち止まり、また女性の馬車に戻ると、女性から美味しそうなパウンドケーキを渡される。
「沢山買ってくれたオ・マ・ケ♪そのチェリーパウンドケーキ、仲の良い人と食べてネ♪」
「おねーさん色々とありがとう!」
クーゲルはパウンドケーキを受け取ると、再び足早に皆の所へ戻るのであった。
一方その頃デストロームは3人が心配でウロウロしていた。
「うーむ…ただ野宿準備の為に色々探しに行っただけとはわかってるのだが…あんな事があった以上、心配で仕方ない…。」
デストロームは心配のしすぎで頭を抱える。するとドロヒューが先に戻ってきた。
「デストローム…頭を抱えてどうしたの?」
「あぁ…いや、なんでもない。」
デストロームはそう言ってドロヒューに近づく。ドロヒューは地面に寝床になりそうな布を敷く。
「たまたま見つけたんだ。これなら寝床にはなるだろうね…。」
デストロームはドロヒューに向けて頷くと、お次はぷにゅりんが戻って来る。
「色んな枝を拾ってきたぷにゅよー!」
ぷにゅりんのもとにドロヒューとデストロームは向かい、背負っている枝を受け取り、敷いた布から少し離れた所に置く。
しばらくすると3人の所に沢山のカゴと風呂敷を持ったクーゲルがウキウキで戻って来た。
「みんなー!戻ったよー!」
大荷物のクーゲルを見て、3人は驚く。
「クーゲル…それ全部食糧?」
ドロヒューがそう聞くと、クーゲルは頷いた。そしてカゴと風呂敷を地面に置き、行商馬車の事を伝えた。
「なるほど…行商馬車がたまたま来ていたのか…ともかく食糧はこれで安心だな。」
デストロームはそう言って立ち上がると、ぷにゅりんの集めてきた枝を一箇所にまとめて口から弱い破壊光弾を放つ。
「火を付けるなら、我のこれで一瞬よ。」
たき火が完成し、敷かれた布の上で4人は〔バゲットバスケット〕からサンドイッチを取り出して食べていた。
「美味しい…!」
「我も食べた事の無い食材がチラホラあるが…これは何とも。」
「程よく柔らかなパンに具材が挟まっていて、歯ごたえが楽しいぷにゅね!」
皆の反応を見て、クーゲルも笑顔でサンドイッチにかじりつく。
「美味しい!買って良かったな〜。」
サンドイッチを食べた4人は一息をつく。すると、ドロヒューが美味しそうなパウンドケーキに気づく。
「クーゲル…このケーキは何?」
「それ?いっぱい買ったオマケで貰ったんだ。ドロヒュー、食べていいよ〜」
クーゲルのその言葉でドロヒューはパウンドケーキを掴み、デストロームの隣に座る。
「デストローム…一緒に食べよう!」
「ありがとなドロヒュー。では…」
2つに分けたパウンドケーキをドロヒューとデストロームは口に入れる。一方クーゲルは〔コンステレーション・ゼリー〕をぷにゅりんに渡す。
「美味しそうなゼリーぷにゅ!クーゲルありがとぷにゅ〜!」
「う…うん!」
ぷにゅりんのお礼と笑顔で思わず顔が赤くなる。クーゲルは〔マッシュカップ〕を食べながらぷにゅりんを横目に見る。
「ザクロの甘酸っぱい味がゼリーに合うぷにゅ〜♪」
ぷにゅりんの美味しそうに食べる姿が、クーゲルにはとても可愛らしく映っていた。
「(やっぱりボク…ぷにゅりんの事が好きなんだ。彼女を見てるとドキドキする…。)」
そんな夜を過ごし、気がついた時にはすっかり朝になっていた。朝一番に起きたのはドロヒューだった。
「ふぁぁ…少し顔を川で洗ってこようっと…」
ドロヒューが近くの川を覗くと、そこにはデストロームの姿が見えた。
「…え?デストローム?って、よく見たらあっちには…僕?ま…まさか…」
わなわなと震えるドロヒューを見たクーゲルは声を掛ける。
「あ、おはよーデストローム…早いね…」
「く…クーゲル!僕はデストロームじゃなくてドロヒューだよ…!」
その言葉を聞いたクーゲルが困惑する。すると、デストロームも起きあがる。
「朝から何事だ…?ん?目の前には…我?」
「僕がデストロームでデストロームが僕…」
ドロヒューとデストロームはお互いを見つめ、そして叫んだ。
「「い…入れ替わってるー!?」」
叫びに反応してぷにゅりんも飛び起きる
「な…何事ぷにゅか!?」
クーゲルにデストロームの姿で抱きつくドロヒュー。それを見て慌てているドロヒュー姿のデストローム
「どーしようクーゲル!僕達入れ替わっちゃった!」
「おおお…落ち着け我!いや、ドロヒュー!焦っていても何もな…なら…ならんぞ!」
流石におかしいと思ったクーゲルはデストローム(ドロヒュー)を引き剥がし、皆を一箇所に集めて昨晩の事を思い出す。
「確かボクらは昨晩サンドイッチを食べた。その中で別のものも食べたはずだ。」
「オレは確かゼリーを食べたぷにゅ」
「僕とデストロームは確かあのケーキを食べて…」
「…待てよ?我とドロヒューが食べたケーキにはチェリーが乗っていた。」
ドロヒュー(デストローム)が昨日食べたケーキに乗っていたチェリーを持ってくると、ため息をつく。
「やっぱりこれはチェンジェリーか…!」
「チェンジェリー?」
クーゲルが疑問そうに聞くと、ドロヒュー(デストローム)は説明する。
「チェンジェリーは厄介な植物でな…2人で食べると、一時的に入れ替わってしまうチェリーなのだ…希少な植物で滅多に見つからないとされているが…何故このケーキにはふんだんに使われていたのか…」
「ボクが買い物をした行商馬車!あそこに行けば何かわかるかも!」
3人は急いでクーゲルについていくも、昨晩行商馬車があった場所は、もぬけの殻だった。まるで最初から行商馬車なんて無かったかのように…
「あれ!?確かに昨日はあったのに!」
「もしかしたらクーゲルはハメられたのかもしれない…」
デストローム(ドロヒュー)がそう言った瞬間…
「見つけたぞ!神魔宝軍に逆らう者共!この〔ミストバード〕がぶちのめしてくれる!」
タイミング悪く、神魔宝軍が襲いかかる。しかし素早くドロヒュー(デストローム)がミストバードの背後に回り込み、がっちりと拘束する。
「邪魔をするな。我らは今、大変な事になっているのだ。」
「なっ…!」
あまりにも殺気のこもった声に動揺するミストバード。そしてクーゲルが口を開く。
「今ドロヒューとデストロームが入れ替わって大変なんだよ!襲ってくるのは後にしてよ!」
「で…デストローム!?」
クーゲルのデストロームという単語を聞いたミストバードは慌てて拘束から脱出し、土下座をした。
「デストローム様!この度は大変失礼な事を…」
ミストバードの変わり様にクーゲル達があ然としていると、ミストバードは語りだす。
「俺…前にデストローム様に助けてもらって…それで神魔宝軍に入ったモンスターなんです。でも…十五魔将のNo:1のオメガアーマー様に、デストローム様は殺された…そう聞かされてたんです。」
「我は生きているぞ。今はドロヒューと入れ替わってしまっているがな…」
「僕達、チェンジェリーを食べちゃったんだ。もとに戻る方法って無いかな?」
ドロヒュー(デストローム)とデストローム(ドロヒュー)がそう言うとミストバードはしばらく考えた後、翼から何かを取り出した。
「それならこちらを飲んでください。この間ダンクオルと名乗るモンスターから譲ってもらったんです。」
「ダンクオルの薬か!それなら入れ替わりもどうにかなるかもしれぬな!」
2人はミストバードから受け取った薬を半分ずつ飲むと、身体に強い違和感を覚える。
「こ…これは…ぐぅ…!?」
「身体が…苦しい…」
2人がその場でうずくまると、何かが2人の身体から飛び出し、かき消える。
「はぁ…はぁ…」
「あ…!僕達…戻ってる!」
デストロームとドロヒューは気づいた時にはお互いが元の身体に戻っていた。
「ドロヒュー!デストローム!」
「2人とも!良かったぷにゅ〜!」
クーゲルとぷにゅりんが2人に抱きつく。デストロームとドロヒューもまた、クーゲル達を抱き返す。
「感謝するぞミストバード。お前のおかげで元に戻る事ができた。」
「そんな!もったいないお言葉です!それにしても、どうしてデストローム様は3人と行動を?」
ミストバードの疑問にデストロームは答える。今までの事…オメガアーマーの裏切りの事…今は神魔宝軍と決別した事。
「そうだったんですか…それでは俺も神魔宝軍をたった今から抜けます!そしてデストローム様の故郷の復興に向かいますね!」
ミストバードはそう言うと翼を広げ、空の彼方へと飛んでいった。
「頼んだぞ!…さて、身体も元に戻った事だし、旅を再開するとしよう!」
「クーゲルの言ってた行商馬車の疑問はまだ解決できてないけど…とりあえず行こう…!」
「次はどこに向かうぷにゅ?」
3人がわちゃわちゃと喋っている時、クーゲルは少し考え事をしていた。
「(あの行商馬車はいったい何だったんだろう…?でも、ボクはあの人と初めて出会った気がしない…あのカボチャ頭の2人と似てたような…うーん…)」
考えていても仕方ないと思ったクーゲルは、3人と共に歩き出す。…それをあの女性が遠くから見ていた。
「あーあ…まさかこんなに早く解除されちゃうなんテ。でも問題はないわネ。」
女性はくすくすと笑うと、時空の歪みを作り出す。
「また別の形態で近づけばいいだけなんだもノ…フフフフフ…」
そして時空の歪みを通って何処かへと消えていった…。




