騎士と盾と桃色団栗(外来種)
クーゲルが世直しの第一歩を踏み出してから数時間後…クーゲルは町外れの草原でポーク弁当を食べていた。
「それにしても不思議だな…ヘルムを被ったままモノが食べられるなんて。…んー!やっぱりおばちゃんの作ったお弁当は美味しいな!手が止まらないよ!」
そう舌鼓を打ちながらポーク弁当を頬張る。そして気がつくと弁当は空っぽになっていた。
「あー…もう無くなっちゃった…。何だろう?いつもの量では足りないと思うし、やけに少なく感じるなぁ…。」
そうクーゲルは首を傾げるが、当然の事。鎧の騎士となったクーゲルは大人以上の力を手にしたので、食事量も変身前より圧倒的に多くなっているのだ。しかし本人はまだ気づきそうにない。
「まぁ後で何か食べればいっか!いつものようにおばちゃんに返すから仕舞っておこうっと。」
そう言ってクーゲルは空っぽの弁当箱を懐に仕舞った。クーゲルは立ち上がり、軽く身体を伸ばしてから再び歩き出した。
ガチャリガチャリと歩く度に鎧の音がするが、クーゲルはまったく気にならなかった。むしろ、鎧の音が心地よいとまで感じていた。そんな時、クーゲルはハッと何かを考えてしまった。
「そういえばボク、盾持ってない!攻撃とかされたら耐えられるかなぁ…」
…などと考えているが、クーゲルの鎧はチンピラの持っていた刃物を弾き、砕く程の硬さなので気にする必要は無いだろう。
「どうにかして盾を手に入れたいな。騎士といえば盾を持ってるイメージだからボクにも盾があったらカッコいいだろうな〜」
クーゲルがそう思いながら歩いていると、気づいたら森の前に立っていた。
「あれ、この森は確か入っちゃダメって言われてる森だったような?…まぁいいか!今のボクなら大丈夫だろ!」
そう言ってクーゲルは森の中に入っていった。子供の時だったら瞬く間に迷子になるであろう背の高い草を物ともせずに進んでいく。
「この鎧凄いなぁ。虫に刺されないし有害植物に触れてもなんともない!このまま森を突っ切っちゃおっと!」
クーゲルはそう言って歩く速度を上げていく。しかしその足はすぐに止まる事となった。
「あれは…」
「やめるぷにゅー!痛いぷにゅー!ぷにゅあああああっ!」
なんと桃色のドングリのモンスターがカブトムシのようなモンスターに襲われていた。
「助けなきゃ!あのモンスターが危ない!」
クーゲルはそう言って桃色のモンスターの所へ一直線に走っていった。ガチャガチャと勢いよく走っていく。
「もうダメぷにゅー!ぷっきゅー!!」
最期の抵抗に桃色のモンスターは頬を膨らませるが、カブトムシのモンスターは腕を振り上げて叩き潰そうとした。
「させないっ!」
クーゲルはそう言って素早く桃色のモンスターをかばった。ドンッ!という衝撃がクーゲルの鎧に響くが、ダメージはあまり受けなかった。
「さぁ!今のうちに逃げて!」
「わ…わかったぷにゅ!」
桃色のモンスターはぽよんぽよんと跳ねながら森の奥へ姿を消した。
「カブトムシのモンスターめ!かかってこい!ボクが相手になるよっ!」
カブトムシのモンスターはゴァァァッ!と咆哮をあげてクーゲルに殴りかかる。クーゲルは武器を使って攻撃を防ぐが、防ぎきれない攻撃は鎧に当たり、微量ながらクーゲルにダメージを蓄積していく。
「くぅ…このカブトムシ手強い…!一撃は大した事ないけど、何度も攻撃されると少し辛いな…。」
クーゲルはよろめくが、カブトムシのモンスターは攻撃の手を緩めない。そして突然距離を取ったと思ったら、角を向けて突進してきた。
「(ま…まずい!あんなの食らったら…!)」
クーゲルが受け身の体勢を取り、攻撃を受け止めようとしたその時…
「これを使ってぷにゅー!ぷにゅやあああっ!」
なんと桃色のモンスターが丸いものを持って戻ってきた。桃色のモンスターは丸いものをブーメランのように投げ、クーゲルは素早く左腕に装着した。
すると丸いものに悪趣味な模様が浮かび上がり、カブトムシのモンスターの突進を受け止めた!カブトムシのモンスターは弾き飛ばされ、クーゲルは一切のダメージを受けなかった。
「これは…一体なんだ?まるで盾のようだけど…」
「それは魔法の盾〔シルトブリッツァー〕ぷにゅ!この森に祀られた聖なる武具ぷにゅよ!」
「え!?それって勝手に持ってきちゃダメなんじゃ…?」
クーゲルは慌てるが、桃色のモンスターはニッコリと笑い、大丈夫だと言った。
「オレの一族は聖なる武具を守り、相応しい者に授けるのが使命だから大丈ぷにゅ!オレを守ってくれたキミにこそ相応しいぷにゅよ!」
ホッと胸を撫で下ろすクーゲル、しかしまだカブトムシのモンスターを倒していないので、再び臨戦態勢をとる。カブトムシのモンスターは怒り心頭になりながらクーゲルのもとへ歩いてきた。
「ゴァァァ…!」
「さぁ…いくぞっ!」
クーゲルとカブトムシのモンスターはお互い急接近し、武器と甲殻のぶつかり合いが起きる。ガキン!ゴンッ!と、弾く音が響き、火花が散る。
「凄いぷにゅ…アントビートル相手に五角以上に戦えるなんて…あの人こそ…もしかしたら…」
「中々硬いけど、さっき思いついたこの技ならいける!」
そう言うとクーゲルは武器を掲げて叫んだ。
「ライトニングシュナイダーッ!!」
突然武器が稲光を纏った。クーゲルは武器を素早く振り、アントビートルを真っ二つにした。
「やったぁ!さっき考えた技だけどうまくいった!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶクーゲルを桃色のモンスターは驚いた様子で見ていた。そして、クーゲルに声をかけた。
「あの!キミ…よければ名前を教えてくださいぷにゅ!」
「ん〜?ボクは、クーゲル!世直しする為に旅をする騎士だよ!」
「クーゲルさん!オレの名前はぷにゅりんだぷにゅ!よかったらオレをその世直しの旅に連れてってくれぷにゅ!」
なんとぷにゅりんはクーゲルの旅についていきたいようだ。クーゲルは笑顔で頷き、騎士とドングリ、二人の旅が幕を開けるのだった。