神魔宝軍…点心街に降臨す
点心街からそれ程遠くない森の中、クーゲル達が街へ向かった数十分後…ローブ姿のモンスターたるデストロームが降り立った。
「…コノ辺リデ良イダロウ。」
デストロームはローブを脱ぎ、亜空間にしまう。ローブを脱いだデストロームの姿は丸っこく、顔には赤い宝石が埋め込まれた仮面をつけている。何よりもその頭にはセイロが乗っていた。
「コノ喋リ方モ疲レルナ。誰モ居ナイ事ダシ…いつもの喋り方に戻すとするか。神魔宝軍のリーダーたる我が、こんな弱そうな姿だと知られれば、失望されるかもしれないからな…。」
デストロームはブツブツと独り言を言いながら点心街へ向かう。
一方その頃、点心街についたクーゲル達は、目を輝かせていた。
「この街、美味しそうなお店がいくつも並んでて凄いよ!」
「美味しそうな香りが至る所から…お腹空いてきちゃった…。」
クーゲルとドロヒューは楽しそうにキョロキョロとする。すると、後ろから声をかけられた。
「この点心街は初めてか?」
クーゲル達が声の方を振り向くと、頭にセイロを乗せた仮面のモンスターが居た。
「えっと…誰ぷにゅ?」
ぷにゅりんが尋ねると、仮面のモンスターは口を開く。
「我はデストローム。この街に久々に里帰りしに来たのだ。」
デストロームはそう言うと3人をまじまじと見つめた。
「ボ…ボク達に何かついてる?」
クーゲルが聞くと、デストロームは首を横に振るう。そして3人の前に立つと、両腕を広げた。
「とにもかくにも、ようこそ点心街へ。よければ我がこの街を案内してやろう。」
デストロームのその言葉にキョトンとするクーゲルとぷにゅりん。するとドロヒューは疑いの目をデストロームに向ける。
「なーんか怪し…」
ぐぅ〜…
「えへへ…」
ドロヒューが言いかけた途端に、クーゲルのお腹が鳴る。ぷにゅりんはふふっと笑い、ドロヒューはあ然とする。その様子を見たデストロームが3人に提案をする。
「我の実家に来るか?レストランをやってるんだ。」
ドロヒューは疑いながらも、お腹の鳴ったクーゲルを見て、腹ごしらえを優先する事にした。
デストロームの後ろを3人はついていくと、小綺麗なレストランの前で立ち止まる。お店には〔レストラン・ストーム〕という看板が立てかけられていた。
「ここが我の実家だ。さぁ遠慮なく入ると良い。」
デストロームが扉を開け、3人も入っていく。
「いらっしゃいま…ん?」
「ただいま。母上。」
デストロームが似たような姿の丸いモンスターに話しかける。すると、母上と呼ばれたモンスターはふうっと息を吐く。
「デストローム。何ヶ月も家を開けてどこへ行ってたんだい?」
「そんな事は後でいい。それより、お客を連れてきたんだ。」
デストロームがクーゲル達を紹介すると、デストロームの母は驚きながらも、笑顔になる。
「いらっしゃい!レストラン・ストームへ!今日は休業日だけど、息子が連れてきたお客さんなら、歓迎するよ!」
デストロームの母はそう言ってニコっと笑う。その時、デストロームはクーゲル達の方を見てから口を開く。
「母上。3人のお客方に我が料理を提供してもいいか?それと、このお客方と話もしたいのだが…」
「なるほどね…私はちょっと買い物に行くから、話をしな。だけど!お客さんに迷惑かけるんじゃないよ!」
デストロームの母はそう言って買い物袋を持って店の外へ出ていった。
「あの、オレとドロヒューは食べるとは一言も…」
「あぁ、我の奢りだから気にするな。」
ぷにゅりんの言葉を遮り、色々な食材を取り出すデストローム。奢りと聞いたドロヒューはますます疑う。
「我が提供するのはスパイスシュルームのクリームシチューだ。まろやかな味と濃厚なコクがお腹を満たしてくれるぞ。」
「スパイスシュルーム…乾燥した荒野に自生する美味しいきのこぷにゅね。比較的珍しく高値で取引されているとは聞いた事があるぷにゅ。」
ぷにゅりんの説明を聞きながらクーゲルは興味深そうに頷く。その間にデストロームは大きめの包丁を片手に、まな板に乗せたスパイスシュルームをもう片方の手で押さえた。
「まずスパイスシュルームを厚めに切り、タマネギをスライスする。」
デストロームは手際よく食材をスライスする。そして鶏肉を取り出すとペッパーを振りかけ揉み込む。その後、一口サイズに切り分けていく。
次にデストロームは大きめの鍋を取り出し、火をつけたかまどに鍋を乗せる。
「鍋にバターを投入し、中火で熱する。バターが溶け出したら先ほど切った一口サイズの鶏肉を入れ、色が変わるまで焼く。タマネギとスパイスシュルームを入れ、タマネギは色が変わるまで炒める。」
デストロームの調理する姿をクーゲルとぷにゅりんは見つめる。一方でドロヒューはやはり怪しんでいる様子。
「ここで水を投入し、煮立たせていく。そしてフタをしてしばらく煮込む。ある程度煮込んだら牛乳、岩塩、ペッパーを加えていき、混ぜながらとろみが出るまで煮込み続ける。」
デストロームは少し味見をすると頷き、器にシチューを盛り付けていく。最後にハーブを少し振りかけたら、クーゲル達の前に器を置いた。
「完成だ。スパイスシュルームのクリームシチュー。熱いうちに食べるといい。」
完成したシチューを前に、クーゲルは大喜び。ぷにゅりんも舌をぺろっと出してスプーンを掴む。ドロヒューは怪しみながらもスプーンを手に取り、シチューを見つめた。
「いただきまーす!」
「いただくぷにゅー!」
「…いただきます。」
手にしたスプーンで大きめの具と共にシチューをすくい、口に運ぶクーゲルとぷにゅりん。その姿を見たドロヒューもシチューを食べると、その美味しさに驚く。
「んー!コクがあってサイコー!」
「スプーンが止まらんぷにゅよー!」
「…クリーミーで美味しい。」
3人はぺろりとシチューを平らげ、クーゲルとぷにゅりんはほっこりする。ドロヒューはしばらく考え事をしていた。すると、デストロームが3人に話しかけた。
「我の料理に満足して頂けてなにより。」
その言葉を聞いたクーゲルは笑顔になる。
「こんなに美味しい料理をありがとう!デストロームって優しいんだね!」
「ホント!デストロームは凄いシェフになれるぷにゅよー!けふー。」
「凄いシェフになれる…か。ありがとう。」
デストロームは心の中で何かを考えていた。
「(我はこの3人を自ら確認しに来た…だが…こいつらを見ていると、我は間違った事をしているのではないか…そう思ってしまう。…いや、待てよ?そもそも我が神魔宝軍を設立した最初の理由は…)」
突然、レストランの外が騒がしくなった。それを聞いた4人は急いでレストランを出る。そこには壊れた街の姿が見えた。それを見たデストロームは嫌な予感が脳裏によぎる。その時…ドロヒューが涙を流しながら遠くを指指す。
「あ…あ…あいつは…」
ドロヒューが指を指した先には十五魔将のNo:1であり、ドロヒューの命を奪った元凶…〔オメガアーマー〕が佇んでいた。
「(オメガアーマー…!何故ここにいる…まさか!)」
その時、突然オメガアーマーが声高々に宣言する。
「私は神魔宝軍の王であるオメガアーマー!たった今より、この街の者は一人残らず消えてもらう!」
オメガアーマーはデストロームを裏切り、神魔宝軍の乗っ取りをしていたのだった。そして手始めにデストロームの故郷を消し去る事にしたようだ。
「街が…皆が…!我の故郷が…!頼む!オメガアーマーを止めてくれ!」
デストロームはクーゲル達に懇願する。それを聞いたクーゲル達は静かに頷き、オメガアーマーの元へ走り出した。
「神魔宝軍のリーダー自らお出ましとはね…!」
「オメガアーマー…許さない…!」
「ドロヒューの仇でもあるアイツをやっつけるぷにゅよー!」
建物を破壊し、住民の命を宝石に変えようとするオメガアーマーの前に3人は立ちふさがる。
「誰だ貴様らは?…あぁ。思い出した。神魔宝軍に逆らう邪魔者達か。」
オメガアーマーは3人を見て鼻で笑う。クーゲルは武器を向けてオメガアーマーを睨みつける。
「…僕から命も家族も何もかも奪ったお前だけは許さない。」
「オメガアーマー…ボクらはお前を倒す!」
「二人とも!いくぷにゅよ!」
クーゲル達はオメガアーマーに素早く接近し、攻撃をしかける。しかし一切のダメージを与える事はできない。オメガアーマーはため息をつき、クーゲルとぷにゅりんを目にも止まらぬ速さで殴り飛ばす。
「ぐっ…!」
「ぷにゅあ…」
そしてドロヒューの頭を掴もうとしたその時、蒸気がオメガアーマーを包み込んだ。
「む…?何も見えん。」
辺りをオメガアーマーがキョロキョロ見渡すも、全て蒸気しか見えなかった。困惑するドロヒューの腕を誰かが掴み、動き出す。
気付くと、少し離れた茂みの中にドロヒューは居た。隣ではクーゲルとぷにゅりんが倒れている。目の前にはデストロームが座っていた。
「…僕を助けてくれたの?」
「…我ができるせめてもの罪滅ぼしだ。神魔宝軍のリーダーだった我の…」
それを聞いたドロヒューはデストロームを見つめる。そしてため息を吐くと、デストロームを再び見つめた。
「僕は神魔宝軍は嫌いだ。だけどデストローム、お前は僕らを助けてくれたし、悪い奴には見えない。だから、神魔宝軍がどうしてできたのかを教えてほしい。」
それを聞いたデストロームは過去を語り始める。
「我が神魔宝軍を初めに作った理由は、仲間が欲しかったから…。我は神魔宝軍を作る為、沢山の街をまわり、世間から捨てられた者、鼻つまみ者、様々な者をスカウトして組織を大きく広げていった。しかし…あるモンスターをスカウトした日から神魔宝軍は変わってしまった。」
デストロームは拳を固く握りしめる。そして地面を思いっきり殴る。
「元々神魔宝軍という名では無く、チーム〔タカラモノ〕という名だった。オメガアーマーをスカウトした次の日から、名前は神魔宝軍に変わり、我は形だけのリーダーに近い状態となった。実質的な支配者はオメガアーマーとなっていた。」
涙を流しながら話すデストロームをドロヒューは見ているしか無かった。
「我は…我は…」
「…なるほど。ということは真の敵はあのオメガアーマーただ一人だったって訳ね。デストローム、クヨクヨしてる暇は無いよ。」
ドロヒューがデストロームの手を掴む。そして顔を近づけると、ニヤリと笑った。
「一緒にオメガアーマーを倒して、本当の〔タカラモノ〕を取り返そう!」
「…そうだな。我は〔タカラモノ〕を取り返すぞ!」
デストロームとドロヒューは固い握手を交わし、茂みから出ていった。クーゲルとぷにゅりんはそのまま寝かせておいた。
蒸気が晴れて周囲を見渡しているオメガアーマーの前に、ドロヒューとデストロームが現れる。
「性懲りもなく私の前に現れるか。今度はヘンな助っ人を連れてきたようだが…」
オメガアーマーはデストロームの正体に気づいておらず、鼻で笑う。デストロームとドロヒューはお互いを見て頷いた。そしてオメガアーマーの方を見ると、鋭く睨みつける。
「…オメガアーマー!これ以上好きにはさせないぞ!」
「我の故郷を荒らすのはこれ以上やめてもらおうか!」
デストロームが叫ぶと、その丸っこい姿が大きく変化する。
「これは…我の怒りだ!オメガアーマー!貴様だけは絶対に許さぬ!」
鋭い棘のついた肩、スラリと伸びる両腕、スカート状の下半身、そして禍々しい角を携えた骸骨のような顔…デストロームの姿はもはや面影が無くなっていた。
「面白い。私を失望させるなよ。」
その姿を見たオメガアーマーは鼻で笑い、挑発する。デストロームとドロヒューは挑発に動じず、オメガアーマーに向けて技を放った。
「ヒュードロ夜行!」
「デストロイブラスト!」
涙の人魂と高火力の破壊光弾がオメガアーマーに命中し、大爆発を起こす。しかしオメガアーマーは両腕でガードし、ダメージを最小限に抑えていた。
「少しは効いたが、その程度か。期待外れも甚だし…」
「その油断が命取りだよ。」
その言葉を言ったドロヒューが背後からオメガアーマーを羽交い絞めする。
「な…なにをする!離せ!」
ジタバタと暴れるオメガアーマーをドロヒューはより力を込めて拘束を強める。そこにデストロームは動けないオメガアーマーに連続引っかきを浴びせる。
「ぐぬっ…」
「今だドロヒュー!離れろ!」
「オッケー!そーれっ!」
その言葉と共にドロヒューは羽交い絞めを解除し、オメガアーマーを前に押し飛ばす。よろめいた隙をつき、デストロームは口から開く。
「デストロイブラストッ!」
「な…!ガードが追いつかな…」
破壊光弾が連続で命中し、巨大な爆発が起きる。煙が晴れると、片膝をついたオメガアーマーの姿があった。
「…私にここまでの深手を負わせるとは。貴様ら、覚えておけ!」
そう言うとオメガアーマーは走って逃げ出した。姿が見えなくなったところで、ドロヒューとデストロームは顔を合わせ、頷く。そしてクーゲルとぷにゅりんを寝かせた場所へ戻っていった。
「う…う〜ん…あれ、ボクはいったい…。」
「何が起こったぷにゅか…あっ!ドロヒュー!…と、あれは誰ぷにゅか?」
ドロヒューは2人にさっきの事と、デストロームの話していた事を全て伝えた。2人はキョトンとした顔になる。
「まさかデストロームが元神魔宝軍のリーダーだったなんて…驚いたぷにゅ。」
「でも、全ての元凶がオメガアーマーだと分かった以上、ボクらの目的は決まったね。」
クーゲルはぷにゅりんとドロヒューを見つめると、空高く武器を掲げた。
「オメガアーマーを倒し、世界を平和にする!これがボクの世直しの目標だ!」
「オレも頑張るぷにゅよ!」
意気込む2人をよそに、ドロヒューはデストロームに尋ねる。
「デストローム…君はどうする?」
「我の故郷は半壊してしまった。これからどうするべきか…」
そう言いかけた時、金ピカのモンスターと竜のモンスターがやってくる。
「神魔宝軍の邪魔をする者よ…このマスタードラグナがコテンパンにしてやります!」
「落ち着くのであるマスタードラグナ。吾輩達は点心街に食べ歩きに来ただけである!」
全員が振り返ると、神魔宝軍の十五魔将No:14のマスタードラグナとNo:13のゴールドゴーレムが佇んでいた。
「マスタードラグナとゴールドゴーレムか。彼らはもう敵では無いから落ち着くがいい。」
「その声…デストローム様であるか?素顔は初めて見たのである。」
「なんと!しかし…デストローム様。そやつらが敵では無いとはいったい…」
デストロームは2人にオメガアーマーの裏切りを伝えた。
「何という事であるか…」
「オメガアーマーが乗っ取るとは…」
驚く2人に対し、デストロームは淡々と話す。
「我は既に神魔宝軍を捨てた身。神魔宝軍とは敵対関係にあるが…どうする?」
デストロームのその言葉を聞いた2人は胸に手を当てて声高々に言い放つ。
「吾輩達はデストローム様に忠誠を誓っているのである!デストローム様の居ない神魔宝軍など価値のないもの!吾輩達もたった今より離反するのである!」
「私達の個人的な部下も全員神魔宝軍から離反させ、デストローム様の手駒として使っていただきたい。」
「そうか…では我、デストロームが命じる。半壊した我の故郷、点心街の復興作業を手伝ってくれ。」
デストロームのその言葉を聞いた2人は頷き、呼び出した部下を連れて点心街に向かっていった。デストロームはクーゲル達の方を向いて、手をそっと出した。
「クーゲルよ。我も旅の仲間に加えてほしい。オメガアーマーから我の〔タカラモノ〕を取り返したいのだ。」
デストロームのその言葉を聞いてクーゲルは強くデストロームの手を握った。
「ボクらはもう仲間だ!よろしく!デストローム!」
「おーい!早く行かないと日が暮れるぷにゅよー。」
「僕ら、先に行ってるからねー。」
ぷにゅりんとドロヒューのその言葉を聞いた2人は、足取りも軽やかに次の冒険へ進んでいくのであった…。




