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騎士の誕生

ここは亜人街。モンスターと亜人が仲良く暮らす街である。この街にはお金を持たなくても、手伝いをすれば食事にありつけるこども食堂がある。これは、その食堂を利用している少年の物語である。


「おばちゃーん!来たよー!」


元気な声と共にこども食堂の扉が開く。元気いっぱいなこの少年の名は「クーゲル」。こども食堂が大好きな心優しい少年だ。


「おやまぁクーゲル、来たね。いつものはもうできてるからねぇ。」


そう言ってクーゲルに出来立てのポーク弁当を渡したのはこども食堂を一人で切り盛りしているおばちゃんだ。安くて美味しい料理を作っては子供に振る舞う。そしてお金が無い子供には2時間ほど食堂の手伝いをしてもらうのだ。弁当の予約サービスもしているので、大人も利用する事があるという。


「今日も美味しそう!ありがとうおばちゃん!お代はここに置いとくよ〜。」


「今回は代金を持ってたのねぇ。いつもはお金を忘れてお手伝いしてくれるもんねぇ。」


「もう!それは言わないお約束だろー?」


くすくすと笑いながら茶化すおばちゃんをよそに、クーゲルはいつもの返答を返す。そして弁当を懐に仕舞い、おばちゃんに一礼してからこども食堂を出た。


「まったく…ボクだって毎回忘れてるわけじゃないのに!」


頬を膨らましながらクーゲルは歩く。すると、目の前にヘルムが落ちていた。


「あれ?何だろうこれ。落とし物…にしては大きすぎるな…。」


そう言いつつもクーゲルはある事が思い浮かんだ。ヘルムなんだから被ってみたら何かがあるかもしれない!…と。


「よし!試しに被ってみよっと!」


ヘルムを手に取り、頭に装着する。重そうな見た目とは裏腹にとても軽い。


「…何も起こらないなぁ。…って、なんだ!?あわわわ!」


何とクーゲルの身体が発光し、全身に何かが纏わりつく感覚が襲ってくる。ガチャガチャという音と共に、クーゲルの身体はみるみる鎧に包まれていった。


「び…びっくりしたなぁ。…ん?何か視点がやけに高いような?それに、声も何かヘンだ。」


そう思い、クーゲルは近くの水たまりを覗き込んだ。するとそこには…


「な…な…何だこれ〜!?これが本当にボクだって言うのか!?」


水たまりに映し出されたクーゲルの姿は、騎士という感じの姿であった。暗色に煌めく鎧、さっき被ったヘルム、腰に仕舞われたノコギリとオノを合わせたような武器、真紅に輝くマント、その姿を見れば誰もクーゲルだとは初見で気付けないだろう。


「ど…どうしよう!ボク、騎士になっちゃった!?これじゃあ誰もボクだって気づいてくれないよぉ!」


悲しむクーゲルをよそに、近くからドォン!…と、爆発音が聞こえた。


「な…何!?この爆発音は…ハッ!こども食堂から煙が上がってる!急いで行かなきゃ!…でも、今のボクの姿を見て、おばちゃんは気づいてくれるだろうか…?」


クーゲルは不安になりながら考え込む。しかし、お世話になってるこども食堂とおばちゃんが危険に晒されているとなれば、考えてる時間はないと思い、走り出した。


「何だいアンタ達は!この店に何の用だい!」


「ヘッヘッヘ…この店にある食い物を全てよこせ!そうすれば命だけは助けてやるよ。」


こども食堂では、チンピラが刃物をおばちゃんに向けて脅していた。要求は食料全部のようだ。


「フン!生憎だがねぇ…この店はこども食堂なんだ!そんな事しなくてもこの店の手伝いさえしてくれたら腹いっぱい食わせてやるのにさ!」


おばちゃんは平常運転だった。しかし、それが逆にチンピラの精神を逆撫でした。


「うるせぇ!さっさと食い物出せって言ってんだよ!」


そうしてチンピラはおばちゃんに刃物を振り下ろそうとした。その時、こども食堂の入口からガチャリと鎧の音がした。


「誰だ!?お前も一緒に…ヒッ!?」


「ボクの大好きなをこども食堂と、お世話になってるおばちゃんに手を出すな…!」


そこには騎士になったクーゲルがいた。武器を構え、チンピラに迫っていく。


「何だよお前は!全身鎧なんて卑怯だぞ!チクショウ!お前から始末してやる!」


チンピラは刃物をクーゲルに向かって振り下ろした。カァン!という音と共に刃物は折れて砕け散った。


「その程度か…おばちゃんを危険に晒し、こども食堂を荒らした…。覚悟は出来てるんだろうな?…さっさと失せろ!二度とここに来るんじゃない。その時はボクが本気で相手になるよ?」


クーゲルは怒り心頭になりながら武器を構えてチンピラに警告する。


「お…覚えてろよ!チクショウが!」


チンピラは走り、逃げ去っていった。


クーゲルは自分の姿が変わってる事を思い出し、こっそり去ろうとした。その時…


「そのポーク弁当は私がクーゲルに作ったモノじゃないか。…もしかして、アンタはクーゲルなのかい?」


「…!」


「そうだよ。おばちゃん。ボクはクーゲルだ。」


クーゲルはそう言って武器を腰に仕舞った。変わり果てた姿におばちゃんは驚いたが、すぐにいつものように接した。


「ずいぶんと姿が変わったねぇ。何かあったのかい?」


「実は…」


クーゲルはどうしてこうなったのかをおばちゃんに説明した。おばちゃんは驚きながらも否定はしなかった。


「それでボクの姿はまるで騎士のようになったんだ。」


「ふーむ…カッコいいじゃないか。いつものクーゲルも可愛かったが、今のクーゲルも私は良いと思うねぇ。」


おばちゃんはそう言ってクーゲルの頭を撫でた。姿が変われど、おばちゃんにとってクーゲルはクーゲルだからだ。


「おばちゃん…ありがとう。ボク、決めたよ。せっかく騎士になったんだから、さっきのチンピラのような人が増えないように世直しの旅に出るよ。」


おばちゃんは否定せずに、やりたいようにすればいい。悪い事以外はね。と、クーゲルに言って見送った。


「よーし!さっそく出発だー!」


クーゲルは気合いを入れ直し、世直しの第一歩を踏み出したのだった。

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― 新着の感想 ―
こども食堂のおばちゃんがとにかく優しくて読んでてほっこりしました!!!クーゲルの今後に期待ですね!!!
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