第5話「織田信哉」
谷崎と男女関係にあった黒人女性は九条天理で間違いなかった。
彼はゲームセンターで働いている彼女を口説いた。最初は風俗嬢として彼女をスカウトした訳でなかったようだ。元々そういう女癖の悪さは私の記憶のなかにある。おそらく多少不良のようなルーツを持つ女性なのだろう。私自身もそんな経歴があり、彼の蜘蛛の巣に掛かった女だからこそその背景は透けてみえる。
しかし彼はパートナーに対して本気にならない男だ。
その彼が同棲するようになった彼女を風俗嬢にさせた話はまだしも、その彼女がダメージを受けたからと言って憤慨する事なんてあるのだろうか?
元木さん達は五味を聴取した後で刑務所に服役する伊達という男と面会した。九条天理が風俗店に入店した時のこと、また例の事件があった時のことを訊ねる。
彼が話すにやはり谷崎は怒ってなどない。彼には遊び相手にある女が九条以外にもいるからだ。むしろ激怒していたのは九条本人であり、その店で彼女と友人関係になった女たちだという。
しかしその内容はやはり酷いものだった。九条はそのサービスの際に首を絞められたのだ。その跡が酷く残るほどのものであり、その法的措置を伊達や谷崎に訴えた。が、それは無視された。どういうワケか彼女が退職する形で事を治めた。これには九条も激怒を増し、谷崎との離縁を申しでる。
でも、彼にとってはノーダメージに過ぎない。
最初から九条なんて遊べるだけの女に過ぎなかったからだ。
こうした人間関係の捜査を進めるなかで殺害現場や裕翔の遺体から九条が犯行に及んだと思われる証拠が次々とでてきた。
ただ彼女たちは九条を苦しめた客も突き止めていた。
織田信哉。某有名大学医学部に通う金持ちの大学生だ。
彼は有り余っている親からの仕送りで高価なマンションに住み、豪遊なんかもしていたという。風俗遊びもお手の物であったとか。しかし内向的な性格もあり、友人と呼べる存在はほとんどいなくて恋人なんてもっての他だ。そんな彼だからこそそんな遊びに耽ってしまっていたのだろうが……
「ニュースにはなってないけど、彼も自宅浴槽で谷崎のように自殺した。丁度、裕翔君そして谷崎が死んだぐらいの時にね。彼に関して言えば遺書を残していたわ。彼自身も酷い暴力を受けたみたい。因果応報な事だと言えばスッキリしそうだけども」
スッキリなんかしない。気持ち悪い。
何も返す言葉がなかった。
確かにこれ以上何かを詮索するのは間違いなのかもしれない。
ただ疑問はいくらでも湧く。
いくらでも……
ただ涙を静かに流してその夜が明けるのを待つしか私にはできなかった。
そして裁判の日がやってきた。
九条天理は一部無罪を主張。その主張は裁判所にいた者を震え上がらせた。
「私はあの日、確かに柏木裕翔君と一緒にいました。谷崎俊一朗が公園にやってくるまでは」
彼女の瞳はまっすぐで迷いがないようだった――
∀・)読了ありがとうございます。折り返し地点に入りました。次号は8月1日になります。