第4話「五味秀一」
元木さんたちは指定暴力団幹部と相対した。
その男、五味秀一は二十代半ばにして組織幹部に抜擢されるほどの者であった。そしてこの男の組織配下に谷崎がいた。彼はそのイメージとは裏腹に落ち着いた物腰柔らかな姿勢で元木さんたちと接してきた。事務所内のソファーはおそらく非常に高価なものなのだろう。これまでにない感触を得たと彼女も話す。
「まぁ、ゆっくりしていってください。我々もあなたがたには世話になっている」
「どうも。早速ですが要件に入りたい。貴方たちの仲間の一人である谷崎俊一朗についてお伺いしたいのですがいいですか?」
「ええ、我々も困っているところだ。オタクのマルボウさんも世話をやいていることでしょう。ここ一カ月顔をださなくてね」
「行方知れずということですか?」
「まぁ俺達のような人間が一人いなくなっても、誰も騒ぎはしない。彼は元から俺達が買収した組の厄介者でしたし居なくなったら居なくなったで、どうだっていいが……こうして気にかけて貰えるだけありがたいのかな。最も警察にだが」
「把握されてないという事ですね? 風俗関係で仕事をしていたと伺ってはおりますが」
「ええ。ドライバーをね。たまに店のコに手をだすなんて話を聞いたが、マジでそれをやったとは聞いてない。ただ妙な話は聞いたな」
「妙な話?」
「彼の女が黒人の女で客から差別を受けたっていう。その内容が酷いものだったらしく。けじめをつけにいくとか意気込んだけども、その女に止められて。その女自体は店をやめたとか? まぁ元から風俗嬢だしな。もっというならばウケの悪い黒人ときた。彼女と彼で何があったのかは知らないが、下っ端の騒ぎです。大事に至らなければ俺が動くまでもないし、把握するまでもありません」
「少し矛盾がありますね」
「矛盾?」
「話を聞いていると、谷崎は本気で風俗店の女性には接触をしてない筈なのに、その黒人女性とはお付き合いをして感情移入までしているかのようで……」
「だから矛盾してないってば?」
「そうですか?」
「彼はそれすら本気でない男ということ。だけど自分の女の一人だと思っている女を傷つけられた衝動で動こうとした。そういう事じゃないかなぁ。何にしてもカタギに手をつける事はなかった。そのとき店をやっていた奴は別件でやらかしムショにぶち込まれている。話を聞くならそいつに聞けばいいけど、先日破門にしたばかりですから。残念ながら俺の管轄外ですよ? 刑事さん?」
「なるほど。そうですか。谷崎を知りたければその件を掘るしかなさそうね」
「ふふふ、ご健闘をお祈りします。マルボウの丸谷さんにはお世話になっております。宜しくお伝えください。ああ、せっかくだからそのコーヒーもどうぞ。毒なんか入っておりませんよ?」
「ご生憎ね、こういう時の礼儀を私達は知らない訳ではないわ。ご丁寧なご対応どうも」
「俺が言っても信じて貰えないでしょうが犯人が捕まるといいですね」
私はその話の一部始終を聞いて言葉を失った。でも何とか絞りだす。
「すいません。もう1本貰えますか?」
元木さんは優しく微笑んで「1本だけよ?」と手渡す。
皮肉にも話はここで終わらなかった――
∀・)読了ありがとうございます。そろそろ推理の準備を。また次号。