第2話「谷崎俊一朗」
そのゲームセンターは閉店していた。
しばらくは開店しないようだ。「柏木裕翔くん殺害事件について当店スタッフへ取材などの干渉は辞めてください。当店一同今回の件に関してショックを受けております。開店再開の際はまたお知らせ致しますが、今のところ未定です。柏木裕翔くんのご冥福とお祈りし遺族様へのお詫びを深く申し上げます」と張り紙が貼ってあるのを目にする。
動きだすには遅かったか。
しかし、これしきで私の行動は収まらない。
私はそのまま探偵事務所へ赴いた。
「調べましたよ。この近辺に確かに彼は住んでいました」
「ありがとうございます」
「あの、お会いされるのですか?」
「彼が今回の件に関わってなくても何も思ってないのはおかしいですから」
「報道をみる限りでは例の黒人女性の犯行に思えて仕方ないですがね……」
「でも、わからないのです」
「何が?」
「彼女と息子がどうして夜遅くまで一緒にいたのか。息子は寄り道をするような子供でありません。とてもおとなしい子供です。でも、その息子が唯一よく喋る相手が彼だったから……」
「彼が真犯人だと?」
「いいえ。でも、何か知っていそうな気はするのです。仮に何も知ってなくとも今回の事件で何か思ってはいる筈。それを話し合いたいと私は思って」
「そうですか。わかりました。でも案件が案件です。私も同行するとういう事で宜しいでしょうか?」
「依頼料があがるのでは?」
「あげませんよ。特別にね」
「ありがとうございます……」
「ではゆきましょうか」
「えっ!? 今からですか!?」
「彼の家は何なら此処から近い」
私は高嶋という探偵に少し愛想よく会釈してその商談を成立させた。商談っていうと何だか変だけども。
そのまま向かったのは谷崎俊一朗の家だ。彼は私の元夫にして裕翔の実の父親でもある。彼と離婚したのは彼による家庭内暴力が原因だ。その暴力は私にだけ向けられたものであり、裕翔に対しては温かい父親であった。暴力の発端を言うならば、彼の女遊びを快くないと私が訴えたところにある。そもそも彼は暴力団関係者の男。彼との決別は私の親族をはじめ、周囲が口をそろえて勧めていた。
彼との離婚は裁判にもなったが、彼の私に対する暴力行為や社会的立場が配慮されて私が裕翔の親権も担う形で私の意志が報われる事となった――
その私がまた彼と会おうとしているのだから全く奇妙な人生だ。
しかし、彼が現在も所属している組織の関係か何かわからないが、いまなおもこの町にいるというのは何だか情けなくも切なくもあった。同情はしないが。
彼の家は高嶋さんの事務所から歩いて5分もしないアパートの一室にあった。
「本当に近いところにいたのですね……」
「今回、まずいような事になりそうでしたら、もう彼と関わる事はやめましょう」
「ふふっ、高嶋さんも私の親族のようです」
チャイムを鳴らす。何回か。しかし彼はでてこなかった。
不在なのか? 私達は日を改めてまた来る事にした。
皮肉にも彼はこの数日後にそこから出てくる事となる。
遺体となって――
∀・)読了ありがとうございます。また次号。