第1話「九条天里」
――埼玉県熊谷市で起きた男児殺傷事件で容疑者が逮捕されました。
――九条天里。24歳。
テレビに映るその女はあまりにもインパクトがあった。
日本人ながらにして黒人女性だからだ。
彼女は私達と同じ町に住んでいた。
近所にあるゲームセンターの店員だ。
一度目にしたら忘れる事なんてないその顏をハッと思いだす。
それと同時にどうしようもない疑問が。
彼女が息子と一体どんな接点があったというのか?
公園で元木さんと話した事を思い出す――
「黒人女性と裕翔君らしき男の子が夜20時~22時の間で何度も何人もの目撃者によって目撃されております。何かを話していたようですが、喧嘩があった訳ではなさそうです。少なくとも彼が殺害された時の目撃情報はありませんでした」
「じゃあ……それだけじゃあ……」
「彼の衣類に彼女の髪の毛などDNAが採取できる物的証拠は見つけております。おそらく接触はあった。司法解剖した結果、鈍器で殴られたのに抵抗された形跡もありましたし。23時に何かがあったと考えるのが妥当なところでしょう」
私はその時に頭が真っ白になった。今もその白い世界から逃れてはいない。
ただ絞りだすようにして声をだす。
「彼女は犯行を認めてはいるのですか?」
元木さんは目を閉じて首を軽く横に振る。
しかしその表情が沈む事はない。
「物的証拠がいくらでもある。彼女のアリバイの立証も難しい。当然裁判になるでしょうが、私たちの捜査に不備はなかったと思いますよ? 裕翔君と九条がどのような接点があるのか、そこは我々も知る由がありません。容疑者が何もかもを否定しておりますし、黙秘も続けていますからね……ただあの日、学校帰りに彼女とあの公園で過ごしていた。その事実は揺ぎないですから」
元木さんの話を聴けば聴くほどその話が真実のように思えて仕方なかった。
でも、それでも理解できない事がある。
どう考えたって裕翔と九条天理が結びつかないのだ。
そもそも裕翔は最近の子供にありがちな大人しく友人もあまりいない少年。
何ならば彼女の働くゲームセンターで遊んでいた事すらないはずだ。
彼が普段遊んでいるのは自宅にあるSWITCHに他ならないのだから。
あのゲームセンターで遊んだことがあるのは私だ。
だけどそれもたったの2度か3度か程度。
そんなに長居もしていない。
九条天里が私を憎んでいるというのならお門違いも甚だしい。
私は思い立って独自で動くことにした――
∀・)お久しぶりです。何気に更新しておきます。また次号。