最終話「罪と罰」
「なんで!? 息子さんが来てくれているのよ!?」
『だから俺は会わない。会っちゃいけない事になっている』
スマホ越しに九条は谷崎と口論する。探偵を雇い裕翔と接触し、谷崎と裕翔を会わせようと思ったがうまくいかなかった。
「いいよ。待つよ。俺も父さんには会いたい」
「ごめんね、裕翔君。アイツ、あんなに裕翔君と会いたいって言っていたのに!」
そのまま九条は公園を離れた。
その2人をずっと睨んでいる男がいた。
暴力団からけじめをつけられた織田信哉だ。大きな鉄パイプを持った彼は茂みから裕翔の前に現れる。その顔面は酷く傷つけられていた。
「おい、坊主」
「誰?」
「お前はあの黒人女の子供か?」
「違うよ。まぁ、そうなるのかもしれないけど」
「僕はあいつらにとんでもない傷を負わされた。一生トラウマに残るほどのな」
「だから?」
「お前にもアイツにもあいつらにも一生トラウマを残してやる!!!」
そしてそのまま裕翔は彼から暴行を受ける事となる。
九条が合い鍵で谷崎の家に入るとその惨状は生々しくあった。
「嘘でしょ……そんな……」
立ち尽くす彼女だったが、ふと裕翔の事を思いだす。
谷崎の家に鍵をかける。そしてその足で公園へむかった。
そして公園でまたもや悲惨な光景を目にすることに。
「嘘でしょ……こんな……夢よ……夢に決まっているじゃない」
もう何が何だか分からなくなっていた。
「起きて! 起きてよ!! 裕翔君!!!」
裕翔の身体を何度も揺する。しかしもう既に息が絶えていた。彼女は何故だか現場にある凶器の鉄パイプを持ちだした。そしてまだ逮捕されてない伊達へ電話をかける。
『もしもし?』
「もしもし、あのお願い事できる?」
『なんの?』
「このままだと私が殺人犯にされる! 子供が死んだの! 俊一朗の子供!」
『ええっ!?』
「アンタたちじゃないの!?」
『違うわ! カタギのましてや子供に手をだすなんて普通しないぞ!!』
「合流して! 俊一朗の車のキーを渡すから! あとここにある凶器も!」
そして伊達と九条は落ち合う。そのときは朝方、織田もこの時刻に自殺をした。彼は遺書も残しており、暴力団である伊達達から性的暴行含む酷い暴力を受けた事を明白に記していた。最も彼が裕翔を殺害し、九条とトラブルを起こした事は記していなかったが――
「例の鉄パイプには織田の指紋が濃く残っていたわ。それと織田の髪の毛も血液が特定できるものも。何より靴の足跡も現場にはあったわ。完全犯罪を為すにはあまりにも杜撰な犯行だった。でも、こうして揉み消されたのは彼の背景にあるお医者さん一家のご都合なのでしょうね」
私は吐き気を覚えて口を抑える。
「どうしたのですか? 顔色が悪いですよ?」
「いや、なんか裕翔を思い出すと辛くなって」
「悪かったわ。しんどい思いをさせちゃって」
「いえ、でも、それが真実ならば九条さんはどうするべきだったのでしょう……」
「それは『たられば』ですね。彼女が私達に谷崎の死を通報しても、裕翔君の死を通報しても、いずれにしても彼女は疑われていた。強いて言うならば、裕翔君から離れるべきでなかった。そうだと思いますが……まぁ今さら遅いでしょう」
彼女はそう言うとブランコから立ち上がる。
「私たちは時に見誤ることもある。でも、その立場ゆえにいい加減な事はしないよう日々真剣に取り組んでいます。だから私は自分の勘には自信を持っているし、あの時にあなたへ言ったことも間違ってないと思う。余計な事はしないで私達を信じて欲しいってね」
「……………………」
「それともうひとつ」
「……………………」
「あなた、やっているでしょ?」
彼女は振り向きざまに手で拳銃をつくり「バーン」とやってみせた。
私は「何を」と言いかけたがやめた。
「安心しなさい。今も凶悪な事件はあちこちで起きている。私たちも暇じゃない。解決したものは既に解決したもの。余計な仕事は増やしません。でも、1つだけ貴女に聞いてみたいものですね」
「何を?」
今度は迷わず言えた。
「これから貴女はどうしたいの?」
これには何も答えられなかった。
「じゃあ、何にしても裕翔君と会った時に胸を張れるようにね」
彼女が手を振るのに対して振り返すだけだった。
何をしに埼玉に戻ってきたのだろうか? 今、彼女が話した事が真実なのだとしたら……私は……。
ただ閉じゆく人生に身を任すだけだ。




