表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/199

キャンプの夜



 いつも屋敷で使っている食器はどれもお洒落で、高価そうなものばかり。だから、上手に作ろうとか、上手に盛り付けようって思うから、いい刺激を貰っているとも言える。

 けど、キャンプにそんな食器は不似合いだ。持ってくる途中で割れちゃうかも知れないんだし。だから、あたしたちが今使っているのは木のお椀だ。

 木目が濃くて、どこか武骨。けど、それがキャンプ飯にはしっくり来ているような気がした。


「夏に鍋って季節外れな感じもしたんですけど、せっかくいいサイズのキジハタが手に入ったんで、存分にその美味しさを味わってほしくて」

「確かに季節感は真逆ですが、ここの夜は涼しいを少し通り越して肌寒いくらいですわ。だから、寒がりな私としては嬉しいチョイスです、ミコ姉」

「そっか、良かったよ」


 確かに、陽が傾いてからのここの気温は春、もしくは秋くらいの体感温度じゃないだろうか。ここから陽も沈んでもう少し気温が下がるって考えたら、鍋料理を選んで正解だったのかも知れないな。


「キジハタって前に刺身で食べさせてもろたやつやんね?」

「あの刺身も美味しかったけど、今度はそれがお鍋になっちゃうなんて、楽しみすぎるよ」


 そうだった。ユフィとアサカさんは根魚尽くしの根魚三昧をやった時に、キジハタは経験済みなのだ。けど、刺身と鍋はまた別物。それをじっくり堪能してもらおう。


「綺麗なスープですわ。これにミコ姉特製のポン酢を掛けて、と……」


 ふぅーふぅー、と湯気を飛ばして一口。その瞬間、時が止まったかのようにみんな動かなくなってしまった。けど、程なくして口からは湯気と、歓声が上がるのだった。


「うっはー! うまっ! これは堪らん!」

「身はもちろんだけど、このスープにもキジハタの旨味が溶け込んでいるのがよくわかるわ。それが他の野菜やキノコにも馴染んで一体化してる感じだわ」

「キジハタがぷるぷるで美味しい! スープも透明で、一見すると薄味なのかなって思うけど、そんなことない! 魚と他の具材の良さが混ざり合った濃厚なスープだね!」

「海の食材と大地の食材が反発することなく、見事に融合し、互いを高め合っていますわ。生まれや文化が違うからと言って拒んではいけない。これが今の社会に求められる多様性。ミコ姉はそれを料理で訴えているのですね!」


 はぁー、美味しー。温まるぅー。


「これぞ正に、鍋と言う社会での異文化コミュニケーション!」

「シルキー様、その譬え……めっちゃええやん! それな、異文化コミュニケーション!」


 せっかく無視していたのに、まさか今回はアサカさんにハマるなんて……。これもキャンプの効果なのかな……?


「ここは一旦、ビールからの冷酒やな」

「私はこの間教えてもらったチューハイってやつにするわ」


 二人ともよく飲むな……。アサカさんに至っては、さっきまで酔って寝てたのに……。

 そんな心の内が顔に出ていたのか、アサカさんはニカっと笑って手をひらひらさせる。


「一回寝たらリセットされんねんて。あと、酒が進むんはミコっちゃんの料理が美味しい証拠やで」

「でも、実際ほんとに美味しいよ。この特製ポン酢もスッキリしてて美味しいし、この鍋によく合うんだよね。この爽やかな香りが何とも言えないよ」

「柚子がほしかったんだけど、市場の八百屋さんには入荷がないって言われてさ。だから、柚子に似た柑橘類で応用したんだよね」


 夏場にも青い若い柚子が出回ることがあるけど、黄色い熟した柚子は秋から冬に生るものだ。旬じゃない上にスズカゼの特産品ってなると、フィーリアで手に入れるのはなかなか困難なんだよね。


「このような鍋料理も納涼祭にいいのではないですか? もっと大きな鍋で一気にたくさん作って、お椀に盛って提供する。納涼祭はどうしても冷たいものに手が進みますが、私は食べすぎると体が冷えて温かいものが恋しくなるので」

「炊き出しみたいな感じか。それは考えなかったな。そっか、逆に温かい料理もありなのか」

「アラ汁とかええんちゃう?」

「魚料理をやる以上、アラは絶対に出るので利用していきたいですよね」


 見捨てられていた魚が、実は捨てるところなんてないんだよ、って知ってもらうにはいいメニューだよね。アラ汁も骨せんべいも。


「けど、このキジハタは前日に偶然釣れたのよね? 納涼祭に合わせて釣ることは可能なの?」

「そこはあまり大きな問題じゃないかと。確かにキジハタを狙って釣るのは難しいですけど、他の魚でも代用はできるので」


 カサゴやメバル、オオモンハタなんかの他の根魚でも鍋にすると絶品だ。単純に西でのアコウが人気ってだけ。


「怖いのは単純に天気ですね。納涼祭の前日、前々日の天気が釣りに向かない日だと、もう最悪ですよ……」

「天気さえ良ければ、うちらで手分けして釣れるもんな」

「そうですね。みんなで同じ魚を狙うんじゃなくて、場合によっては根魚班と回遊魚班、みたいに分かれて魚を集めることになるかも知れません」


 メンバーの数は他のギルドに比べたら少ないんだろうけど、全員が釣りできるってのは大きなプラスポイントだ。キーナさんに船を出してもらってオフショア組と、陸から狙うショア組とかで分けてもいいしね。


「何だか、思いの外やれることがたくさんあって、逆にそれが悩みの種だね……」

「そうですわね。これもミコ姉の料理スキルの高さ故、でしょうか……」

「シルキー様が後ろにいてくれる、と言うのも大きいと思いますよ」

「と、当然でしょう! け、けど、スタインウェイ家も少しは役に立っているのではなくて!?」


 おお、典型的なツンデレって久々に見たな。


「みんなと話していて、ちょっとずつイメージは出来上がっているんだよね。今のアラ汁なんかのスープもいい案だけど、メインは軽食。食べ歩きもしやすくて、尚且つお腹にも溜まる食事になるもの。そこにはフィーリアの食文化を、フィーリアの美味しい食べ物を取り入れたい」

「そ、そんなええとこ取りの料理ってある!?」

「そこでパッと思い付いたのが、ハンバーガーです」


 ハンバーガー。それはフィーリアにもある食文化だ。けど、そこにどうやって魚を使うのか、上手く想像できない様子だった。

 ただ一人を除いては。


「そっか! フライにしてパンに挟むんだね! ミコトに出会って間もない頃、そんな話してた!」

「ロイドさんとネリスタさんにアジを振る舞った時だね。正にその通り。魚をフライにして、フィーリアの美味しいパンで挟むんだ。これのいいところは、アジじゃなくても大体の魚なら美味しくなるってところ」

「領主様やシルキー様にお出しした時みたいに、何か特定の魚を狙う必要はないってことだね」

「うん、そう言うこと。そして、そのハンバーガーの味を決めるソースは、あたしの特製タルタルソース」

「……ぐはっ!」


 いきなり仰向けに倒れるユフィ。それをアサカさんが危なげにキャッチ。


「ゆ、ユフィ様がそのハンバーガーの味を想像しただけで失神した!? どんだけヤバいん!? それ食べて、うちらは生きていられんのか!?」

「いや、ユフィが大袈裟なだけですから……」

「アサカさん、騙されないで……。油断しちゃダメ……。ミコトの考えは途轍もなく壮大で、異次元……ガクっ!」

「ユフィ様ー!」


 ユフィが悪ノリするのって珍しい。やっぱキャンプ効果なのかな。こうやって大自然に囲まれて、みんなで楽しく火を囲むと、いつもとは違う自分が出ちゃうんだろうか。


「シルキー様、バカは放って鍋を頂きましょう」

「そうですわね」

「おい! 誰がバカやねん!」

「キーナさん、そのバカに私は含まれてないよね!?」


 いつにも増して、笑い声が絶えないキャンプの夜はもう暫く続くのだった。




よければ、いいね ブックマークして頂けると励みになります。

引き続き宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ