キャンプのおやつ
「ええっ!? み、ミコっちゃん、何してん!?」
アサカさんも驚きの声を上げる中、あたしはさっきよりも慎重に火との距離を窺う。魚や肉は直火で焼いたことはあっても、マシュマロ――もとい、パールジュを焼くのは初めてなんだ。
「あたしの国ではこのパールジュってお菓子はマシュマロって言うお菓子に似てるんです。で、この焼きマシュマロがキャンプおやつの定番って言われているから、どうしてもやってみたかったんです」
「あっ! でも、いい匂いがするかも」
「うおっ! 近付けすぎると燃えちゃう……! 軽く炙るくらいでいいのかな。じゃあ、早速試しに一齧り……」
全然一口でいけるサイズだったけど、熱そうだから端の方をちょっと齧ってみる。
すると、柔らかい食感は変わらないんだけど、少しだけモチっとしたような気がした。そして何より、次の瞬間だ。
みにょ~ん。
「の、伸びましたわ!」
「嘘でしょ!? パールジュってそんな食べ物じゃないわよ!」
これにはあたしもびっくりだ。試食させてもらった時はこんなことにはならなかった。けど、炙ったものを齧って、口許から串を離したらチーズとか餅みたいに、びよーんと伸びたんだ。
「あ、味もちょっと違うかも! 若干、ビターになってる? けど、それが美味しい!」
「そうなの!? 私もやりたい!」
「私もですわ!」
当然、アサカさんとキーナさんも加わって、今度は焚火で焼きパールジュ会が始まった。
「うわっ! これ、結構焦げやすいな……」
「ミコトが言っていたように、焼くと言うより炙る感じね。そもそもそのまま食べるものなんだし、生焼けってこともないから、あまり焼き具合を気にする必要もないのかも」
「けどあの、みにょ~んってやつは、うちもやりたい」
「そこは同感ね」
何だろ、これ。お菓子を串に刺して、ただ火で炙っているだけなのに、めちゃくちゃ楽しんでる。それはあたしたち子供も、アサカさんキーナさんの大人も。
キャンプってだけで普通に焼いたバケットも美味しくなって、焚火ってだけでただ焼くのが楽しくなる。もしかしたら、キャンプはめっちゃ優秀なスパイスなのかもね。
「んんっ! 確かに焦げ目はちょっとだけ苦いけど、それがよりパールジュの甘さを引き立ててくれてる感じだね!」
「味だけではなくて、食感も変化しているのが面白いですわ。焼かれることでより柔らかく、柔軟性が増したのでしょうか? まるで、恋する乙女のようですわね」
「……そ、そうなんですか?」
「恋と言う火の前では、不器用で不愛想な女の子も柔らかく蕩けてしまうものなのですよ」
何言ってんだ、この子は。とりあえず、火傷には気を付けるんだね。
「確かに美味い。けど、ビールとの相性はちょっとな……」
「そもそも、甘いお菓子でお酒を飲むってことがないから仕方ないわよ」
そう言うものなのか。確かにお祖父ちゃんのツマミもしょっぱいもの、塩辛いものが多かった気が……。あっ、でも待てよ……。
「今日はウイスキーって持って来てないんですか?」
「おお、あるで。もし良かったら、ってネリスタ様に貰っててん」
「じゃあ、ちょうどお湯もあるし、これをお湯割りにしてっと……」
お湯割りにしたウイスキーに、炙ったパールジュとレモンスライスを入れたら完成だ。パールジュは別に炙らなくてもいいんだけど、せっかくだからここは炙りパールジュを使ってみた。
「う、ウイスキーにパールジュ入れんの!? てか、ちょっと溶けてってるやん!」
パールジュの原材料は知らないけど、マシュマロと似たものなら材料はほぼほぼ砂糖。あとは卵白。だったら水やお湯に溶けるのは当然だよね。
「コーヒーじゃないんだから、さすがにこれは……」
「って思いますよね。けど、甘いものはお酒に合わないって考えを覆してやりますよ」
恐る恐るって様子で、二人はそっとグラスに口を付けた。あたしはこれを飲めないから、どんな味なのかはわからない。けど、美味しいかどうかってことは、二人の顔を見れば一目瞭然だ。
「ええやん! 何これ!? 普通に美味いんやけど!?」
「自分で言っておいて何だけど、コーヒーに砂糖を入れる感覚と同じかも。アルコール度数の高いウイスキーを甘くして飲みやすくしたのね」
「けどさ、ただ甘ったるいだけやないんよな。このレモンが味を引き締めてくれてる感じがするわ」
「甘さは入れるパールジュの個数で調整すればいいものね。これ、冬の寒い日の野営にいいかも」
「やんな。めっちゃ体温まりそうや」
実はこれ、お祖母ちゃんがやってたウイスキーの飲み方なんだ。
お祖父ちゃんはお酒好きだけど、ウイスキーはあんまり飲まなくて、貰いもののそれを持て余していた。そんな時、勿体ないからってお祖母ちゃんがあたしのおやつだったマシュマロを入れて、毎晩少しずつ飲んでいったのだ。
あたしは子供ながらにそれを見て、カッコいいと思ったものだ。だって、お祖母ちゃんは普段あんまりお酒を飲む人じゃなかったし、飲んでると思ったらウイスキーだし。
「こう言う、お菓子みたいなんも納涼祭では結構人気やで」
「だとは思うんですけど、魚で甘い系のお菓子ってちょっと無理かな……って」
「まあ、魚を使うことに拘らんでもさ。例えば、魚の形した焼き菓子作るとか」
「なるほど! そう言う考え方もあるのか……」
「おつまみ系とお菓子系。両方やれば大人も子供も楽しめるんちゃう? まあ、その分うちらの仕事量は半端ないやろうけど」
そうなると、作れる料理の幅はぐっと広がるな。けど、あたし、お菓子作りってあんまり経験ないんだよね……。
「二人にはまだ話していなかったんですけど、納涼祭で孤児院の子供たちに手伝いを頼めないかなって思ってるんです。だから、人手はどうにかなるかも知れません」
「へぇー、それはいいじゃない。これも一つの支援の形だものね」
「はい。それで、お二人さえ良ければなんですけど、納涼祭での売上の一部を孤児院に寄付したいなって思ってるんですけど……」
「何言ってるのよ」
「えっ!? だ、ダメで――」
「ダメなわけないでしょ。納涼祭は釣りギルドとして参加するのよ。そこのマスターはミコトでしょ? ミコトが決めていいのよ。けど、一つ言わせて。私がミコトの立場なら、売上の一部じゃなくて全部、にするわね」
「き、キーナさん……!」
アサカさんの方に目をやれば、満面の笑みで頷いてくれている。じゃあ、それで決まりだ。あとは孤児院からオッケーを貰うだけ。
「それにしても、ミコっちゃんは孤児院のことを結構気に掛けてるんやな。いや、全然悪いことちゃうんやで? けど、それってやっぱ、ミコっちゃんの立場がそうさせるんかなって……」
「い、いえ、スズカゼとか戦争のこととかは全然関係なくて……。
あたしの両親は仕事で忙しくて、ほとんど家にいなかったんです。けど、それでもあたしは何不自由なく暮らしていました。両親のお蔭です」
「寂しいとか思ったことなかったん?」
「そう言うことを思ってしまうような子供の頃は、祖父母が一緒にいてくれたので。成長してからは寂しいとかは全然。寧ろ、たまに会う方がより両親のありがたみを感じるって言うか」
「ああー、うちも親と離れて暮らしてるから、その気持ちはちょっとわかるかも」
「けど、孤児院の子たちは違う。確かに院長先生はいるけど、たった一人で二十人以上の子供を抱えないといけないんです。二本の腕じゃ無理に決まってる。だから、釣りギルドもあの子たちを包む腕になりたいんです」
暫しの沈黙。その間にあたしは少し考える。あたし今、まあまあ恥ずかしいこと言ってないか!? と。
「ミコっちゃん! ええこと言うた! あんた、ホンマにええ子やな!」
「ミコトー! あなたがあの子たちのことをここまで考えていたなんて……!」
「強がらんでええからな、ミコっちゃん! 寂しい時は寂しいって言うてくれたらええから!」
「そうよ! 私たちがあなたを包む腕なんだから!」
いきなりの泣き上戸!? 二人してわんわん泣き叫びながら、あたしの背中を叩かないで! 痛いし……何より恥ずかしい!
そんなあたしたちを貴族のご令嬢二人がお茶を啜りながら、どこか微笑まし気に眺めているのだった。
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