キャンプ飯
「頂きまーす」
まずはホイル焼き単品をぱくり。
んー! 鶏肉が柔らかくてジューシーだ。それが野菜とキノコの旨味スープを吸って、更に美味しくなってる。濃厚なバターとニンニクの香りがまたいい。結構たくさん入ってるんだけど、そんなにガツンと来るニンニク臭じゃないんだよな。
おっ! ニンニク、ほくほくしてて甘い! 芋みたい!
ホイル焼きって普通にフライパンで焼くのとは違って、旨味エキスが流れ出ることなくホイルの中に溜まってくれるから、コクのある濃厚な味わいになるんだと思う。
キャベツや玉ねぎの野菜、キノコから溢れる水分。それによって蒸し鶏のようになる鶏肉。あんまり使ったことはなかったけど、ホイル焼きって効率的で便利な調理法だね。
「バケットが進みますね!」
「気に入ってくれたみたいで良かったわ」
バケットに乗せて食べるのはもちろん、スープに浸して食べるのもありだ。
てか、このバケット自体がほんとに美味しいんだよね。日本が米作りに力を入れてるみたいに、フィーリアでもパン作りが発展してるのかな?
「キーナ、バケットおかわり!」
「早くない? 食べるの……」
「あと、ビールも!」
「それは知らない。自分で取りなさいっ」
「ちぇー」
大きめのスチールボックスの中には大量の氷と酒瓶が入っていて、晩ご飯用の食材もそこに仕舞わせてもらっている。
「あんまり駄々捏ねると、とっておきのツマミをあげないわよ」
「な、何や、それ!? 何、隠してんの!?」
ふっふーん、と笑いながら取り出したるは、細くて長めのソーセージだった。それを串に刺して、直火で焼いている。
「そ、それ、鹿肉ソーセージか!? うちの好きなやつやん! さすが、キーナ! ナイス!」
「私、飲み物なくなったんだけど?」
「へい! すぐに冷えたビールお持ち致しやす!」」
アサカさんの扱い方をよく知ってるな、やっぱ……。
でも、鹿肉のソーセージは食べたことないから気になる。見た目はあたしもよく知ってるソーセージと変わらないけどな……。
「ミコトたちも良かったらどうぞ」
「い、いいんですか!?」
「火に近付けすぎて焦がさないように気を付けてね」
多分、普通はフライパンとか炭火でも網に乗せて焼くんだろう。それを焚火の火で焼くなんて、ワイルドにも程がある。けど、それが子供心を擽って楽しいんだ。
「いい感じに焼けてきたぞー……。そろそろ、いいかな……?」
熱いのも、肉汁が弾けるのも承知でぱくりとかぶり付く。当然、口の中が火傷しそうなほど熱かったんだけど、それよりもまずは、
「美味しい!」
が、勝っていた。
「ちょっと獣臭いのかなって思ってたけど、全然そんなことない! ハーブとか香辛料で誤魔化してるとか、そんなんじゃなく、純粋にお肉が美味しいんだ!」
ジビエ料理が流行ってるって聞いたことがあったけど、そりゃ流行るのも当然だね。
なんて思いながらソーセージを堪能していると、四方から笑い声が聞こえてきた。何だろうと見回してみれば、みんながあたしの顔を眺めながら微笑んでいるのだった。
「ミコトがそんな風に誰かの料理で驚くのって新鮮だね」
「せやな。いつもはこっちがミコっちゃんの料理に驚かされてるからな」
「まあ、ただソーセージを焼いただけだから料理なんて言えないけど、何だか嬉しくなるわね」
「ミコ姉にはもっともっと、フィーリアの魅力を知ってほしいですわ」
な、何だよ……。みんなして、もう……。
熱くなる頬を少し膨らましながら、あたしは二本目のソーセージを焚火に近付けるのだった。
お昼ご飯を食べた後は、ユフィとシルキーに誘われて湖周辺を探索してみることにした。まずはシルキーが見せたいって言うから、ジルクニフ家の別荘を見に行ってみることに。
「うはぁー……想像通りだけど、やっぱ生で見ると驚くな……」
「良ければキャンプの後、こちらでもう一泊しても構いませんよ?」
「その場合はスタインウェイ家の別荘に泊まってもらいますっ」
いや正直、どっちも泊まりたい。別荘だからお屋敷ほどは大きくないけど、それでも豪邸って言える建物だ。
「おお、ミコト。キャンプは楽しんでいるか?」
その別荘の庭ではクライブ様と、ロイドさんネリスタさん夫婦が焚火を囲んで椅子に座りながら、こちらもどうやらお酒を飲んでるらしい。
アサカさんとキーナさんもそうだけど、わざわざ暑さから離れられる避暑地に来たのに、熱い火を囲むのか……。これがキャンパーの性ってやつか?
「クライブ様がいろいろ協力してくれたお蔭で、最高に楽しいキャンプになりそうです」
「ミコトは釣りができれば、それだけで楽しいだろうが……」
むっ、その言い方は何だかな……。まっ、その通りですけどねっ。
「ここには釣り以外でも楽しめるものがたくさんある。貴族が挙って別荘地に選ぶ、ミリアナ湖を存分に堪能してくれ」
と、言われたからか、ユフィとシルキーはあたしの手を引いて次の「楽しい」場所へと連れ出してくれた。
やって来たのは別荘の裏手にある小高い丘で、そこからは湖と向こうに聳える山が一望できる、絶景スポットってやつだった。
そのすぐ近くにはミリアナ湖に注いでいる湧き水があって、その水は透明なのに神秘的な輝きを放つ水だった。試しに手で掬って飲んでみたら、これがまた甘い。
水飲んで甘いって嘘でしょ、と正直思ってたけど、テレビで言ってたあれは嘘じゃなかったんだ。
シルキーは持って来ていた水筒にその水を汲み、後でお茶を淹れてくれるそうだ。それを楽しみにしつつ、次のスポットへ向かう。
入ったことはないそうだけど、何かがいそうな洞穴。名前はわかんないけど、綺麗な花が群生する場所。そこに集まる色鮮やかな蝶々。雑木林で見付けた見た目は綺麗だけど、食べたら絶対アウトなキノコ。カブトムシっぽい昆虫。ただ、こいつは一瞬「G」に見えてドキッとした。
「結構歩き回ったね。疲れたー」
「今、お茶を淹れますわ」
キャンプ地に戻ってきたあたしたちは、レジャーシートの上でゆったり休みながら、照り返しで輝く湖を眺めていた。
「シルキー様ぁ、うちもお茶ー」
「あっ、私もぉー」
おや? キーナさんがツッコミを忘れてる。いつもだったら「領主様の娘を顎で使うな!」ってキツい一発が入ってもおかしくないのに……。
こりゃ、結構酔ってますな……?
「クライブ様が言ってたように、ほんといいところだね、ここは。のんびり過ごすには打って付けの場所だよ」
「ここに来ると、時間がゆっくり流れているように感じるんだよね。ただ、例年だと一人で本を読んで過ごすことが多いんだけど、今回はいつもと違うから新鮮だよ」
「そうですわね。皆さんでこんな風にここでキャンプすることになるなんて、去年の私には想像もできなかったことですわ」
それはあたしも同感だ。しかも、あたしの場合は「異世界で」って言うワードまで加わるしね。
「はい、ミコ姉。ハーブティーですわ」
「うわぁ、いい香り。ありがとう、シルキー」
焚火で湧き水を沸かし、それで淹れくれたハーブティーは屋敷で飲むものよりも香りが高いように感じた。シルキーだし高級なものを使ってるのか。それとも、このキャンプって雰囲気がプラスされているのか。
「そうだ、せっかくだから、お茶菓子も用意しようか」
「そう言えばミコト、市場でお菓子買ってたね」
「目当てのものは見付からなかったんだけど、似たようなものは見付けてさ。あたしの国でのキャンプのおやつって言ったら、これが定番なんだよね」
もしくは、キャンプするなら食べておきたい、って言う憧れかな。
「それは……〈パールジュ〉ですか? ミコ姉にしては子供向けのお菓子を選んだんですのね。ちょっと意外ですわ」
「こ、子供向けなの!?」
「ええ。甘くて柔らかくて、色も豊富にあるので小さい子供には人気ですわ」
お店の店員さんはそんなこと言ってくれなかったんだけどな……。あたしがこれを選んだ理由は純粋に食感と味だ。シルキーが今言ったように甘くて柔らかい。
つまり、これはあたしの世界で言うマシュマロなのだ!
「けど、少し渋めのこのハーブティーにはちょうどいいお茶請けじゃないかな?」
「何言ってんの。キャンプおやつの定番なんだよ? そのまま食べるわけないじゃん」
キャンプでマシュマロって言ったらあれでしょ。
あたしはさっきの鹿肉ソーセージの時みたいに、パールジュを串に刺し、焚火へと近付ける。それだけでみんなの目が丸くなったのを、あたしは見逃さなかった。
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