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孤児院②




 あたしの心配を余所に、子供たちは綺麗にパスタを完食してくれた。皿洗いは子供たちの分担制だそうで、後片付けはそっちに任せて、あたしは少しだけ院長先生と話をすることになった。


「この度は食材の援助、ありがとうございました。まさか、魚と言うものがあんなにも美味しいものだとは知りませんでした。程良い塩気に香ばしい香りがトマトの酸味と絡み合い、絶妙なハーモニーを生んでいましたよ」

「トマトはキーナさんのお蔭です。あたしとしても、魚の美味しさをみんなに伝えることができて良かった。けど、注意もさせて下さい。魚は他の食材と同様、使い方や処理の方法を間違うと体調を壊す可能性もありますし、中には毒を持つ魚もいます。だから、もしも魚を捕まえて食べることになったら、あたしに相談して下さい」

「わかりました。子供たちにも伝えておきます」

「またたくさん釣れたら、お裾分けに来ますよ」

「そ、そんな……! いけません。私たちは何もお返しすることはできませんし、ミコトさんに甘えてばかりいては子供たちにも良くありません」


 院長先生の言いたいことはわかる。甘えてばっかだと教育に良くない。それは理解できるんだ。でも、あたしとしても「それじゃあ、これで」と言うわけにもいかないんよ。孤児院の事情を知ってしまった以上、何か自分にできることがしたいんだ。


「毎回毎回、そんなにたくさん釣れるわけじゃないんで。たまに自分たちでも食べきれない量の魚が釣れるんで、その時に食べるのを手伝ってほしいってだけです。腐らせて捨てちゃうくらいなら、みんなで食べた方がいいでしょう?」

「……本当にいいのですか?」

「もちろんです」

「ですが、私たちのために魚を捕えようとはしないで下さいね。ミコトさんの無理のない範囲で、気負わずいつも通りのギルド活動をなさって下さい。私たちのためではなく、ギルドのために釣りをして下さい」


 さすがと言うべきか。今度はたくさん釣るぞー、と少し気合いを入れていたのを見透かされた形となってしまった。


 その後、エミリや他の子どもたちから散々お礼を言われ、あたしとキーナさんは孤児院を後にした。


「全部使っちゃったわね、イワシ」

「ですね。ユフィ、楽しみにしてたから、ちょっと悪いことしちゃったかな」

「けど、理由を聞いたら納得してくれるはずよ」

「……キーナさん。ロイドさんに頼んで、孤児院の支援金を増やすことってできると思いますか?」

「話してみる価値はあると思うけど、望み薄じゃないかしら……」

「ですよね……」


 スタインウェイ家もそこまでの権力は持ってないだろうし、発言もなかなか難しい立場にあるって前に言ってたもんな。


「今は食材援助くらいしかできないのかな……」

「それだけでも十分、孤児院としては助かると思うわよ?」


 海沿いの道から少し逸れて、あたしは浜辺を歩くことにした。


 院長先生に言われたことを思い出す。ギルドのために釣りをして、と。

 正直、あたしは食べ物に困ってるわけじゃない。だから、釣れた魚全部、孤児院に寄付したっていいんだ。でも、それだとギルドのために釣りをしたことにはならないよね……。

 釣りギルドの目的は孤児院のために魚を釣ることじゃない。


「あっ、ゴミ……」


 浜辺に捨ててあった空き缶を拾い上げ、あたしは空になったスチールボックスに入れる。他にも何かの包装紙とか瓶が落ちていて、それを一つ一つ拾っていく。


「釣りギルドに潤沢な資金があれば、こう言う清掃活動をあの子たちに手伝ってもらって、それに見合った賃金を渡すことができるんですけどね」

「ミコト、それよ!」

「えっ? ど、どう言うことですか?」

「単に支援金を増やしてほしいってお願いするんじゃなくて、清掃活動の見返りとして釣りギルドに支援金を出してほしいってお願いするのよ。綺麗な海、綺麗な砂浜は観光地の魅力の一つでしょう? 街の景観だって良くなる。それだったら、領主様にも話が通しやすいはずよ」

「キーナさん、頭いい!」

「ミコトの言葉がなかったら思い付かなかったわよ」

「帰ったら早速、ロイドさんに相談してみますね!」


 別れの挨拶もそこそこに、あたしは急いで屋敷へと帰るのだった。



 ロイドさんは自分の部屋にいて、少し興奮気味にあたしはさっきの話をした。そうしたら、思っていた通りの好反応で、次に領主様に会う時に早速話を通してみると約束してくれた。


「しかし、孤児院の運営がそんなにも差し迫った状態だったとは……」

「どうにかしてあげられないんですか?」

「スタインウェイ家だけの力では難しいだろうな……」

「偶然見付けられたから良かったですけど、ある女の子が浜に打ち上げられた魚を食べようとしてました。もし食べてたら、激しい腹痛と嘔吐に襲われて、最悪死んでました。女の子にそれを言っても、聞いてくれませんでした。餓死するくらいなら、これを食べて、お腹いっぱいになって死にたいって……」

「そこまで追い詰められて……。わかった。その件も含め、領主様には相談しておこう」


 ちょっとでもいい方向に向かえば、少しでも孤児院の風当たりが良くなれば。そう願って、あたしはロイドさんの部屋を後にした。


 それから暫くして、ユフィとネリスタさんが帰ってきたのは三時過ぎの頃だった。結構な荷物をメイドさんに運ばせて、何を買ったのかと思ったら、その大半は洋服のようだ。

 何でも今までの夏はほとんど屋敷に籠るか、避暑地の別荘にいたそうで、夏の外着をあんまり持っていなかったんだとか。


「そっか、塩イワシなくなっちゃったのか……」


 あたしもあたしで孤児院の子供に出会ったことや、料理を振る舞ったことを話すと、ユフィは少しだけ肩を落とすのだった。


「ごめんね。また釣れたら作ってあげるから」

「うん。けど、残念なのは事実だけど良かったって気持ちの方が大きいかも」

「良かった?」

「ミコトが子供たちを見捨てるような人じゃなくて」


 ユフィの言葉はこそばゆくて、ちょっとだけ熱を帯びる頬を掻いていた。


「そんなミコトに私からプレゼントを贈ろう」

「えっ? な、何、いきなり……」


 じゃーん、と取り出したのは掌くらいの魚の形をしたキーホルダーみたいなものだった。多分、デザイン的にはアジなのかな?


「何これ!? 普通に可愛いんだけど……!」


 でも、待って。こっちの人って魚に悪いイメージしか持ってないよね? だったら、こんな可愛げなキーホルダーなんかにするわけがない。

 だから、これは……。


「もしかして、オーダーメイド?」

「そうだよ。アサカさんにはいつも頼んでばかりで大変そうだから、別のギルドに頼んで作ってもらったんだ」

「これをあたしに……?」

「うん。実はこれ……。ちょっとここ持ってて」


 ユフィが指差すのは魚の口許で、何か引っ掻けるような突起が付いていた。言われた通りにそこを持つと、ユフィは徐にキーホルダーを自分の方に引っ張った。


「うわっ! メジャーなんだ、これ!? ええっ、凄い!」

「いつもミコト、手で計測してたでしょ? ブラックバスの時は枝だったし。だから、ちょっと前からお願いしてたんだ」

「ヤバい……! これはかなり嬉しいんだけど……!」

「実は私の分も作ってもらったんだよ」

「ユフィのはキスっぽいデザインじゃん! そっちも可愛い!」

「デザインは違うけど、お揃いのお魚メジャーだよ」


 差し出されたメジャーをあたしは両手で大事に受け取り、ちょっとの間うっとりと眺めてしまうくらいだった。


 家族以外の人からプレゼント貰うなんて、いつ以来だろ……。油断してると泣いちゃいそうなくらい嬉しい。


「今日それを受け取りに行ったんだけど、何でもない日にプレゼントなんておかしいかなって、ちょっと考えてたんだよね。変な口実かも知れないけど、渡せる理由ができて良かったよ」

「何でもない日でも超嬉しいって。うわぁー……今すぐ魚釣って、このメジャーで測りたい……!」

「そんなに喜んでもらえたなら私も嬉しいよ」


 もしかしたら、神様はちゃんと見ていてくれたのかも知れないな。ささやかながらも、人助けをしたところを。それのご褒美をくれたのかな。


「一生大切にする。ありがとね、ユフィ」


 あたしはその日、嬉しさのあまり枕元にメジャーを置いて寝るのだった。




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引き続き宜しくお願い致します。

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