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イワシ、フル活用




 何を作ろうかと悩んでいるところにアサカさんとキーナさんが到着。役者が揃ったんで、まずは初めから作ろうと思っていた一品目に取り掛かることにした。


 どんな魚でも新鮮なものが手に入ったなら、まずはこれで食べたいよね。

 ってなわけで、最初の一品は刺身だ。


「凄いわね、ミコト。あの量をもう処理し終わったの?」

「ユフィとシルキーが手伝ってくれましたから」

「そ、そうなの!? でも、見た目は全然……。どれもミコトが処理したように見えるくらい、丁寧で綺麗なものじゃない」

「イワシは誰にでも捌ける簡単な魚なので。今度、キーナさんにも教えてあげますよ」


 皮も剥いで処理したイワシを、厚めにカットして盛っていく。薄く切っても見映えが良くないしね。


「何や、このイワシって独特な色合いやない? 白っぽいって言うか……」

「これが脂ですよ。場所にもよるんですけど、この時期のイワシは丸々と太って、いい脂が乗ってるんです。ほら、雨続きの時って外に出るのが億劫になるじゃないですか? それでずっと部屋に閉じ籠って食っちゃ寝するから、ぷくぷく太っちゃうんですよ」

「ミコっちゃん最後の方、何か特定の誰かを想像しながら言うてへんかった?」

「アサカさんとは言ってませんよ?」

「それ、言うたも同然やん!」


 薄くスライスして水に晒しておいた玉ねぎに大葉を立て掛けて、そこにイワシの刺身を並べていく。彩りで刻んだ万能ネギを散らして、横におろし生姜を添えれば完成だ。


「まずは、やっぱり刺身を食べてみて下さい」


 最近、ロイドさんがキッチンになかなか豪華な食事スペースを増設させて、屋敷のキッチンは完全にダイニングキッチン化している。

 メイドさんが用意する料理は普段通りのダイニングで食べるんだけど、あたしの料理は作り立てをそこで食べるのが、スタインウェイ家の習慣みたいになりつつあった。


「魚料理の定番になりつつあるけど、魚が違えば味が全然違うから、いつも楽しみなんだよね」

「定番って言えば、刺身はワサビ醤油か生姜醤油が定番なんだけど、イワシはお酢で食べても美味しいんだよ」


 そんなわけで今回は、お酢の入った小皿も一緒に出しておいた。

 感覚的には〆サバならぬ〆イワシなんだけど、漬け込んだわけじゃないからイワシ本来の味をしっかり、そしてさっぱり味わえるんだ。


「う、うわっ、見てよ、アサカさん! 醤油に付けたらイワシの脂がこんなに……!」

「ホンマや! 何やこれ、テカテカやん!」


 あたしも作りながらだけど、一切れ醤油に付けて頂く。

 うん、ほんといい脂の乗りだ。いい餌、食べてるんだろうな。


「お、美味しいですわ! ユフィが言うように、カマスとはまた違う味わいです!」

「カマスはどちらかと言えば、あっさりとした脂。イワシは青物特有のどっしりと濃厚な脂だよね。だから、お酢がいい仕事するんだよ」


 今度はお酢に付けて一口。


「確かに! お酢がよく合うわね! 他の魚なら酢の酸味に負けて、全て持って行かれそうな気がするけど、このイワシくらいに濃厚な味わいだとお互いが上手く溶け合えている感じがするわ」

「まるで、お酢と言うドレスを纏っているようですわ。いくら上等な生地を使い、上等な装飾を施しても、着る者によっては映えることがない。このイワシは最高級のドレスを纏うだけの価値がある魚ですわ」


 お酢のドレス、か……。着ると体が痒くなりそうだな、それ……。


「そんなに大きな魚ってわけじゃないのに、味自体は凄く力強いんだね。これは……お米がほしくなるよぉ……」

「あるよー」

「さすがミコト! 大好き!」

「ミコっちゃん、うちは酒!」

「それは専門外です」

「ええぇー!」


 冷蔵庫の中にビールや冷酒が入っているのはもちろん知ってるけど、それをあたしが勝手に出していいわけがない。あれはロイドさんとネリスタさんの私物みたいなものだし。


「アサカさん、キーナさん。待たせたわね」


 そこに現れるは一人のご婦人。キッチンの入口に凭れ掛かって妙なポーズを取っている。貴族じゃなきゃ声を張って言ってただろうね。

 いや、待ってねえし! って。


「ネリスタ様ぁー!」


 ただ、大人二人は待ってましたと言わんばかりに、ネリスタさんを大歓迎。迷うことなく冷蔵庫に突き進んだネリスタさんはビールを取り出し、三つのグラスに注ぎ、そのまま乾杯を交わした。


「仕事終わりにビールとミコトの料理! これに勝るご褒美はないわね!」

「間違いないっすわ!」

「濃厚な脂を纏ったイワシをビールで流し込む! 最高です、ネリスタ様!」


 ちゃんとは見たことないけど、この人たちみたいなのをパリピって言うんだろうか。


「ミコトに言うことじゃないと思うんだけどさ……。最近のお父様とお母様、仕事を終わらせるペースが凄く早くなってる反面、貴族の嗜みって何なんだったんだろうなーって考えることが増えた気がするよ……」

「ユフィの言いたいこと、何となくわかる気がしますわ……。ミコ姉の料理を前にしたお父様は、フィーリアの街の人には絶対に見せたくありませんもの……」

「何か、ごめん……。けど、お酒の魔力はあたしにもどうしようもないよ……」


 ほんとそれ、あたしじゃなくて本人に言って下さい。


 ネリスタさんが加わったことで更に賑やかになったテーブル。さて、そこに次は何を出そうかな。


「よし、イワシフライといきますか」


 開いたイワシに大葉を乗せて、叩いた梅干しを身全体に満遍なく塗る。そしたら、身を閉じて溶いた卵に潜らせてパン粉を付ける。身が開いちゃわないように爪楊枝を横から刺したら、熱した油にリリース。


 千切りキャベツをお皿に盛って、揚がったイワシから爪楊枝を抜いて、食べやすいように半分に切る。断面が見えるように盛り付けたら、少し塩を添えて完成だ。


「できました。イワシの梅しそフライです」


 これの派生形で、梅じゃなくて明太子を使ってフライか天婦羅にしても美味しいんだよね。さすがに明太子は作り方わかんないからな……。こっちでお披露目することはないだろうね。


「これも美味いやん! うち、この酸っぱいの苦手やってんけど、イワシによお合うな。大葉との相性も最高やん」

「あれってそのまま食べるものだと思っていたけど、こう言う使い方ができるのね」


 ユフィもそうだったけど、やっぱりフィーリアの人に梅干しは不人気みたいだ。けど、こうやって調理して食べてもらって、それで好きになってくれたら嬉しいな。


「お母様、このイワシを捌くの私とシルキー様もお手伝いしたんだよ」

「そ、そうなの!? それは凄いわ、ユフィ、シルキー様! あなたたちも釣りギルドの立派な一員ね」


 頭を撫でられて、ユフィもシルキーも嬉しそうだ。そして、ネリスタさんも娘が捌いたイワシを食べて、ご満悦の様子だった。


 そう言えば、シルキーのお母さんってまだ見たことないな。きっと凄い美人な人なんだろうな。


「ミコ姉、こちらの開いていないイワシは何に使うのですか?」

「保存する用と煮付けに使おうと思ってたんだけど、せっかくだから梅干しを使った煮付けにしようか」


 つまり、イワシの梅煮だ。

 いつもの煮付け用の煮汁だと濃くて梅干しの良さが消えちゃうから、今回は水を入れて煮付けていこう。醤油、酒、味醂、砂糖を少し。あと生姜も入れる。

 イワシの方は頭と内臓、鱗を取ったものを使うよ。梅干しと生姜と一緒に煮込んで、二十分くらいかな。


 圧力鍋を使えば骨まで食べられるような煮付けを作れるけど、普通の手鍋じゃちょっと難しいよね。好きな人は全然食べちゃうとは思うけど。


「保存用ってまた干物にすんの?」

「それもありなんですけど、今回はちょっとやってみたいものがあって、そっちにしてみます」

「てことは……初めて作るん?」

「話には聞いてたんですけど、作ったことはなくて。と言っても、塩振るだけなんですけどね」

「し、塩だけ?」


 そうなんだ。だから、作ってみようって気があんまり起きなくて、知識のまま眠らせていた料理、と言うか保存法なのだ。けど、魚料理を広めるにあたって、あたし自身がちゃんと経験して知っておかないと。そう思ったんだ。


「よし、煮付けの方も完成です。イワシの梅煮。梅干しも一緒に食べてみて下さい」

「少し話題に挙がっただけの梅干しをこんな風に使ってみせるなんて、あなたには本当に驚かされるわね。即興で何でも作れちゃうんじゃない?」

「いや、さすがにそれは……。梅煮は元からあったレシピなんで、あたしが考えたってわけじゃないですし」


 他にも生姜をもっと使って生姜煮、洋風なトマト煮、甘めに仕上げる甘露煮とか。煮付けだけでもいろいろ作れちゃうんだ。

 これがイワシパワーだね。


「これ、凄くお上品な煮付けだね! 梅干しが入ってるだけなのに、今までの煮付けと全然違うよ!」

「梅干しの酸味はほとんどなくなってしまっているけど、風味や味わいがイワシの方に溶け込んでいる感じがするわ。ユフィ様が言うように、それが爽やかで本当上品な味付けだわ」


 煮込むとあの酸っぱさはさすがに飛んでしまう。でも、梅の風味と旨味はしっかり残ってくれる上に、これがイワシによく合うんだ。


「イワシもそうですけど、この煮込まれた梅干しもよくご飯に合いますわね。こちらにもイワシの旨味が染み込んでいるような……。正に、イワシと梅干しは相思相愛ですわ」

「ネリスタ様、これ来たんちゃいますか!?」

「そのようね!」


 別のお酒出してくるんでしょ? もう展開が読めるようになってきたよ……。今度は何を持ってくるの?


 と、ちょっとだけ興味を持つようになってしまったあたしもいた。




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引き続き宜しくお願い致します。

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