リグる
いい機会だから、ここでリグのことを少しおさらいすることにした。
リグって言うのはワームを使う時に作る仕掛けのことだ。これにはいろんな種類があって、攻めるポイントの状況によって使い分けるのが基本だ。ただし、ここにこれって言う正解はないと思ってて、自分が扱いやすいリグを選ぶってのも大事な要素だと思う。
「あたしが今持っている装備でリグれるのは一番シンプルなノーシンカーリグ。今あたしが使ってるノーシンカーワッキー。それのシンカーありバージョンのジグヘッドワッキー。このジグヘッドを普通に使った、ジグヘッドリグ。ここまではわかるかな?」
「うん、大丈夫」
「次にワッキーリグと似た感じのネコリグ」
「猫リグ? 何か可愛い名前だね」
「そっちの猫じゃなくて『バスをねこそぎ釣り上げるリグ』って意味なんだよね。見た目はノーシンカーワッキーなんだけど、一番の違いはワームの先端にネイルシンカーって言う錘を埋め込むんだ」
「錘を埋め込む?」
あたしが取り出したのは小さなドリル状の錘だ。これをヤマセンローの頭に刺して埋め込んだ。
「こうすることでワームの頭がボトムに付くような体勢、逆立ちしてるみたいな恰好になるんだよね。そしたらほら、小さな魚が川の底を啄んでるように見えない?」
「ああ、確かに!」
「広くサーチする用じゃなくて、ピンポイントにそこを狙いたい、って時に有効だね」
せっかくだから軽くキャストして、水中でどんな動きをしているのかをユフィに見せてあげた。
「次にダウンショットリグ。これはフックを結ぶ時に十センチから二十センチ、ラインを余らせて結んで、そこにシンカーを付けたものだよ。だから、フックの下、ワームの下に錘があるの」
「余らせたラインの分だけワームが浮いてるってこと?」
「そう。だから、根掛かりも少ないしシャローエリア、ディープエリアのどっちでも使える万能リグだよ」
「万能かぁ。初めての私にはそれがいいかなぁ」
「もう一つ初心者にもおすすめなのはスプリットショットリグ。これはノーシンカーリグを作って、ラインの好きな部分にこのガン玉って言うシンカーを付けるの」
次に取り出したのは丸い錘で、真ん中に切れ目が入っていて、ぱっくりと口を開けているような状態になっている。だいぶ古いけど……パッ〇マンみたいな感じ。お父さんが古いゲームをまだ家に置いていて、暇な時に漁ってやってたんだよな……。
そんなことはどうでもいいか。
「こんな風に口が開いてるから、これでラインを噛ませてガン玉を固定するんだ。付ける位置としてはダウンショットと同じで十センチから二十センチの間が一般的かな」
「これはどんな動きをするの?」
「ダウンショットと同じでシンカーがボトムに付いて、その上をワームがふわふわ浮いてる感じだね。けど、スプリットショットの場合は横に靡くて言うか、もっと自然な動きをしてくれるよ」
シンカーがフックの途中に付いているか、真下に付いているかでワームの動きも変わってくるんだ。
「最後にテキサスリグ。これもそれ専用のシンカーがあって……それがこれ」
「だ、弾丸!?」
「みたいに見えるシンカー。安全だから、そんなに怖そうな顔しないで」
「い、いきなり出てくるんだもん……」
「けど、弾丸みたいに撃ち抜くための形状なのは事実で……例えば、あそこ見て」
「あそこって……水草が浮いてるところ?」
「そう」
あたしが指差す方にはハスみたいな葉っぱが塊となっていくつも浮いていた。
「ああ言うところの下って日陰になっていて、バスが身を潜めるにはちょうどいい場所なんだ。そんなところをカバーって言う。けど、あそこに普通のルアーを投げたんじゃ水草に絡まるだけ。でも、このシンカーを見て」
「あっ、真ん中に穴が開いてる!?」
「このテキサスリグのシンカーはラインを穴に通して使うの。この弾丸みたいなシンカーがカバーを突っ切っるように潜り、それを追い駆けるような形でワームが付いていく。カバー攻略には欠かせないリグだね」
他にもまだまだあるんだけど、とりあえず今使えるリグの説明し終えると、予想通りユフィは「むむむ……」と腕を組んで首を捻っていた。
「どれも気になるから全部使ってみたいけど、そんな時間はないだろうし……。ミコトと同じノーシンカーワッキー……? いやでもなぁ……」
わかる、わかる。ハードルアーって結んでキャストすれば、ある程度の動かし方って決まってる。けど、ワームは使うってなると、まずはどのリグにしようか、から始まるんだ。
ヤマセンローの使い方だってノーシンカーワッキーだけじゃない。普通のノーシンカーもありだし、ダウンショットでも使える。ワームとリグの組み合わせはアングラーの発想の数だけ、それこそ無限大にあるんだ。
「よし! じゃあ、私はネコリグにする」
「おおー、その心は?」
「名前が可愛いのとミコトがさっき釣ったノーシンカーワッキーに似てるから。あと、ねこそぎ釣り上げるってのが気に入ったからかな」
「やる気満々だねぇ。ネコリグだとストレート系のワームがいいかな。この辺、使ってみたら?」
ここでまた何のワームにしようか迷った末、ユフィは真っ黒のミミズみたいなワームをチョイスした。マッドウォーター、濁った水質でシルエットをしっかり見せてあげられるダーク系のカラーは有効的だ。
「結んだフックにワームをセットして、ネイルシンカーを埋め込んで、っと……」
「うん、いい感じ。そしたら、対岸にあるあそこら辺のシェードを狙ってみて。シェードって言うのは日陰になってる場所のことで、バスが集まりやすいんだ」
「了解! やってみるね」
シェード撃ちはユフィに任せて、あたしはディープを探ってみようか。ここからもう少し奥、そこがこの池で一番深いところだと思う。
ボトムを探るなら、これだな。
「ミコトのそれ、何?」
「これはラバージグ。ジグヘッドに髪の毛みたいな細いゴム紐をたくさん付けたものだよ。このゴム紐の部分はスカートとも言うね。水の中でゆらゆら、ふわふわ漂うんだ。これ単体でも使えるんだけど、より効果的なのはラバージグにワームを装着すること」
「また新しいテクニック出してきたー! ズールーいー!」
「いやいや、釣れるかどうかはわかんないからぁ」
「釣り気満々の顔してるけど!」
ラバージグに付けるワームをトレーラーワームって言うんだけど、今回はシャッドテールワームを使ってる。虫って言うよりかはボトムで餌を探してる小魚のイメージだ。
深そうなところでも三メートルはないか。今みたいに涼しい時間帯はいいけど、陽が昇りきって暑くなると難しいエリアかも。
こう言う池って水温が上がりやすいから、魚もバテちゃうんだ。夏場もちょっと厳しいかもだけど、逆に冬場はありがたいエリアだね。
「来たー!」
「おっ、ユフィ、ネコリグ初ヒットじゃん」
「けど、ミコトの記録には遠く及ばなさそうだよ……」
その言葉通り、ユフィが釣り上げたのは十五センチほどの魚で、しかもブラックバスでもなかった。
「あ、あれ!? 何か違う魚釣っちゃった!?」
「おおっ、ギルじゃん、それ」
「ぎ、ギル!? レアな魚?」
「正式に言うとブルーギル。ブラックバスと同じで、あたしの国では外来魚だよ。バスもギルも似たような場所にいるから、バス釣りで見掛けることは多いよ」
バスアングラーからしたら外道だね。てか、ギルがいるってことは他の外道もいるかも……。
「くっ!」
なんて考えてたらアタリだ。すぐさまアワせると、ロッドがぐんっと曲がり、鈍くて重い引きが腕に伝わってきた。
「お、大物!?」
「わかんない……! けど、何この引き方……? まさか、コイじゃないよね……!?」
正体はわからないけど、明らかにバスの引き方とは違う。バスだとしたら、フックが口じゃなくて体に引っ掛かったスレ掛かりだと思う。スレだと妙な手応えになるんだ。
「タモ網いる!?」
「ううん、大丈夫そう。上がってきたよ」
さて、一体どんなお魚ちゃんが来たのかな……?
「何だ、ニゴイかー」
「ニゴイ? コイに似てるから?」
「まあ、そんな感じだね」
漢字で書くと似鯉だからね。ただ、あんまり顔付きは似てないんだけど。
食性もコイと同じで雑食性。結構どこにでもいる魚で、こうしてルアーに食い付くこともよくあるから、外道の中の一匹だ。
「三十センチちょっと、ってところかな。てか、決めてなかったけど大きさ対決はバスのサイズにしようね。だから、この子はノーカン」
「それは構わないけど、リリースするんだ?」
「今日は食材集めよりも、この池の調査を優先したいからね」
ちなみに、ニゴイは小骨が多いけど美味しい魚ではある。川の魚は寄生虫のリスクが高いから、唐揚げにするのがおすすめかな。
「確かに、こんな近くにあるのに、たくさんの種類の魚がこの池にいるなんて知らなかったよ」
「ベイトフィッシュも豊富みたいだしね。オイカワとかフナの稚魚っぽいのがちらほら見えるし。この池のポテンシャルは相当高いね」
「よーし! じゃあ、私も頑張るぞ」
「あたしもサイズアップ……ううん、自己記録を更新してやるぞー」
あたしの自己記録は四十八センチ。やっぱりランカーサイズって言われる五十センチ以上を是非とも釣り上げてみたい。
五十センチ以上のバスってなかなかお目に掛かれなくて、そこまで育ったってことは相当に頭がいい。だから、ルアーで騙すのもほんとに難しいんだ。
しかも、そんな大きなバスがいるエリアは当然、人気の場所になる。たくさんのアングラーが挙って押し寄せるから、人的プレッシャーがめちゃくちゃ高いんだ。
実家は関東だから、有名どころって言えば霞ヶ浦。日本で二番目に大きな湖だけど、バスアングラーにとってはタフなフィールドだ。いろんなプロアングラーに死んでる湖って意味で「デスみヶ浦」って呼ばれてるくらいなんだから。
それに比べてこっちのフィールドはマジで最高だ。釣られたことのない、初心なお魚ちゃんたちがいっぱいいるんだからねぇ。
記録更新も全然あり得るシチュエーションなんだ。
「み、ミコトぉ……」
張り切るあたしの耳に、ユフィの弱々しくて、ちょっと情けない声が聞こえた。
「うん? どうしたの?」
「どうしよう……。ミコトみたいに狭い隙間を狙ってキャストしたんだけど、ルアーが木の枝に引っ掛かっちゃった……」
水面へと伸びる木の枝にラインが引っ掛かったようで、ワームが水面ギリギリで宙吊り状態になっていた。
「思い切って引っ張った方がいいかな……?」
「待って。その状態で面白いことができるよ」
「お、面白いこと?」
ビギナーズラックなのかな? ユフィってやっぱ「持ってる」んだよなー。
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