ガーリーヤマトモ
急遽始まった釣り対決。特に制限時間は設けてないんだけど、とりあえず一番大きいバスを釣った方が勝ち。
「よし来たー!」
「こっちもヒットだよ!」
お互い幸先のいいスタートを切るんだけど、サイズは二十そこらの小バスちゃん。すぐリリースしてキャストすると、また同じようなサイズのバスが掛かる。
食い気は相当にあるんだけど、サイズがどうも伸びない。釣れてるから楽しいのは楽しいんだけどね。
「何か思ってたよりも釣りやすい魚なんだね」
「タイミングが良かったんだよ」
「今がブラックバスの旬なの?」
「もっとピンポイントって言うか……。この池、増水したから水門を開けたんだよね。増水ってバス釣りにはプラスの要素が多いんだよ。まず、雨のお蔭で水中の酸素量が増える。つまりは魚が元気になるってこと。あと、池の面積も増える。普段は岸だったところも水に沈んじゃう。そうなると魚の活動範囲が広がるんだよ」
他にも岩とか木とか、普段は陸上にあったものが水に沈んで、それが魚の隠れ家になったりするんだ。
「虫や昆虫なんかの陸上の生物も、間違って水辺に落ちちゃうことも増えるから、結構浅瀬にまでバスが寄ってくることもあるんだよ」
「ミコト、そこまで考えて、この池に!?」
「いや、さすがにそこまではね……。ただ、初夏のこの時期はアフタースポーンって言われる、バスの産卵後の時期なんだよ」
「アフタースポーン……」
「産卵のことをバス釣りではスポーニングって言うんだけど、まず春頃の産卵を意識した頃のことをプリスポーンって言って、産卵中をミッドスポーンって言うんだ。それぞれに特徴があるんだけど、アフタースポーンの場合は産卵直後はかなり弱った状態なの」
たくさんの命を生み出すわけだからね。両親共にヘロヘロだ。
「体力は底を付いた状態だから餌を食べたいんだけど、それを追い駆ける余力すらない。だから、釣れてるのは産卵とは無関係な小さなバスでしょ? 大きいバスはじっとして、体力を回復させてるんだよ」
「じゃあ、大きいサイズを釣るのは難しいの?」
「ってよく言われるけど、特徴を知ればそうでもないよ。この時期のバスは中層から表層で体力を回復させるから、そのレンジを攻める。あと、二回目の産卵をする個体もいて、こいつらは体力付けるために荒食いするから、そう言うバスを探すのも手だね」
魚がじっとしてるってディープにいるイメージだけど、魚的には深場にいる方が疲れるらしい。ここは水深がないからあんまりだろうけど、水圧の影響とかもあるんだろう。
「そして、七月に向かって徐々にバスは産卵の疲れから回復していく。ただ、これは平均的な時期の目安であって、やっぱりエリアごとにスポーニングの早い遅いってあるの。水温が高いところの方が早い傾向があるから、もしかしたらこの池には回復傾向にある個体もいるかも知れないね」
「期待値は高めってわけだね」
「うん。ユフィ、あたしもう少し奥に行くけど、どうする?」
「私も行く。あと、ルアーをもうちょっと大きいのに変えようかな」
「大きいルアーだと大きいバスが釣れる。それ、結構当たり。あたしのルアーケースからも選んでいいよ」
「余裕だねぇ、ミコト」
「勝負は公平じゃないとね」
次のポイントは池の中央、瓢箪の括れの部分。こっち側も対岸も岬状になっていて、かなり水深は浅そうだ。だから、岬の両サイド。そこが熱いポイントだと思う。
ユフィがここで選んだのはジョイントルアー。この子、ガチやん。
そっちがその気で来るのなら、あたしは……リグってやるか。
「ミコトはまだ投げないの?」
「今、準備ちゅー」
「そんなにワーム広げて、どうしたの?」
「何がいいかなって考えちゅー」
水深があんまりなくて、飛距離も必要としない場面。使うリグ、仕掛けは決まってるんだけど、そこにどのワームを付けようか考えているんだ。
けど、長考するまでもなく、あたしは一つのワームを手に取った。濁りを考慮して派手な赤色。見た目は完全に芋虫。
ここぞって時に、どうしても釣果がほしい時に、必ず頼ってしまうワーム。それこそが「ガーリーヤマトモ」の「ヤマセンロー」なのだ。
「そんなリグ、初めて見るよ」
「これはワッキーリグ。それのシンカー、錘なしだから『ノーシンカーワッキー』だね」
「な、何かカッコいい!」
ガーリーヤマトモは釣りガールの火付け役ともなったメーカーさんの一つで、どちらかと言えば武骨で男子向けなアイテムが多い中、お洒落で可愛い釣りアイテムを発信しているメーカーさんなんだ。
ウェアとかシューズとか、ファッション向けのアイテムが目立つけど、ルアーやワームのクオリティーも物凄く高い。当然、女の子じゃなくても使っていいわけで、プロの男性バスアングラーにもガーリーヤマトモを使っている人は多いんだ。
その中でも大ヒット商品とも言える名品。四インチ、ヤマセンロー。
こいつに頼って釣れなかった日は……ないっ!
「へぇー! 錘がないのに凄く飛ぶんだね!」
「高比重ワームだからね。本体に結構な重さがあるんだ」
ワッキーリグはワームのほぼ中央に、マス針って言う小さめの針を付けるリグのこと。中央が固定されているような状態だから、頭と尻尾の前後がうにうにと上下するんだ。正に芋虫。
ワーム自体に重さがない場合はフックに錘が付いたジグヘッドを使って、ジグヘッドワッキーを使うのも手だ。
「対岸のオーバーハング、気になるな……」
木の枝が水面に向かって伸びて、屋根みたいになっているポイントのことをオーバーハングって言うんだ。木陰になっているから魚も居心地がいいし、木から虫が落ちてくることもあるから餌場にもなる。
つまりは魚が集まりやすいって場所。でも、木の屋根が邪魔で普通にキャストしたんじゃラインが枝に絡まっちゃう。
だから、ここは……!
「ええっー! 何、今の!? ワームが水面を跳ねて飛んでいった!?」
「これは水面と障害物との距離が狭いポイントに撃ち込むテク、スキッピングだよ。水切りってわかる? 要領はあれと同じだよ」
平たい石を横投げして、水面を跳ねさせる遊び? みたいなやつ。上からワームを落とすんじゃなく、サイドキャストで横から撃ち込んだってわけだ。
そして、その答えはすぐに返ってきた。
「っしゃ! フィッシュ!」
「……魚?」
傍から聞けばそうだよね。「魚ー!」って叫んでる変な子だよね。
けど、仕方ない。とあるレジェンドアングラーがバスを掛けるとそう叫んでいたんだ。そして、あたしはそれをテレビで見て育った。幼い子供がライダーとかウルトラとか戦隊とかの真似して遊ぶじゃん? それと同じ。
今じゃレジェンドは魚全般に対して叫ぶけど、あたし的には子供の時に見ていたバス釣りの映像が頭に刻み込まれているんだ。
「う、うわっ! 大きそう!」
黒い巨体が水面で暴れる。ロッドを立てると「ギギっー」っとドラグ音が響き、竿先がぐんと撓る。手応えからして三十アップは余裕。もしかしたら、四十アップかも。
「バレないでよ……!」
「ミコト、頑張れ!」
岸際まで寄ってきたバスの開いた口に親指を突っ込む。網のことなんて忘れてた。いつもこうやってバスをキャッチしてたから。
「よっしゃー! 四十アップ!」
魚の下顎を掴んであげるのが、一番魚に負担のない持ち方だ。ただ、カマスみたいに歯の鋭い魚もいるから、全部が全部そうじゃないよ。
掴んだバスを掲げ、渾身のガッツポーズを見せるあたしに、ユフィは拍手を送ってくれた。
「簡易計測だと四十二センチってところかな。けど、これはあくまであたしの感覚的なものもあるから……」
いつものように掌の大きさで魚のサイズを測る。自分の掌を広げたサイズを憶えておいて、それが何個分なのかで計測するんだ。
いつもはどうせ食べちゃうから簡易的なもので良かったけど、今回は勝負。もう少し精度を上げておきたいんだけど……。
あたし、メジャー持ってないんだよな……。アサカさんなら持ってそうだし、今度聞いてみよう。
「この葦で長さを記録しようか」
そこら辺に生えている葦を一本抜いて、釣り上げたバスの口先から尻尾の先まで合わせる。そこでカットすれば、このバスの大きさを記録しておけるってわけだ。
「じゃあ、私はその枝より大きいバスを釣れば勝ちってわけだね」
「そう言うことだけど、あたしも記録更新していくつもりだよ」
バスをゆっくりリリースしてから、あたしはもう一度心の中でガッツポーズ。いやだって、嬉しいんだもん。思い通りの釣りでバスが釣れたのが。
予想通りの場所にバスがいて、これだって選んだワームをスキッピングで捻じり込ませ、一撃でキャッチ。最高すぎるでしょ。
「ねえ、最初にバスを釣った時にリアクションバイトって言ってたけど、普通のバイトとは何か違うの?」
「ああ。リアクションバイトって言うのは、魚が思わず反射的に食い付くバイトのことだよ。普通のバイトはルアーを餌に見立てて、それを空腹状態の魚が食べることで起きる。そこがちょっとした違いかな」
「猫が素早い動きに飛び付くような感じ?」
「イメージとしてはそれでいいかな。例えば魚の視界に急にルアーが現れるとか、ゆっくり動いてたのが急に跳ね上がるとか」
「さっきのはどんな感じだったの?」
「クランクベイトはリールを巻くと沈んで泳ぐんだけど、ここの水深は浅すぎて、このクランクだとボトムにぶつかるんだよね。ここでリアクションバイトが起きたの」
「ほうほう!」
興味津々のユフィは瞳を輝かせながら、あたしの説明を聞いている。
「ここが水の中としようか。こう、普通に泳いでいたクランクがボトムの岩に当たる」
あたしはクランクベイトを手で持って、実演を踏まえながら説明する。
「すると、反動でふわっと浮き上がるんだね。一定の動きをしていたルアーが突然、不規則な動きをしたことによって、バスの捕食スイッチが入ったってわけ」
「な、なるほど! ずっと同じ動きをしていてもダメなんだね」
「もちろん、ただ巻きで食う時もあるよ。活性が高い時はね。けど、例えば急に冷え込んで魚の動きが鈍った時とか、プレッシャーが高い時なんかには有効的な誘い方になる」
「魚もプレッシャーを感じる時があるんだ!?」
「うーん……ユフィが思ってるプレッシャーとは少し違うかもだけど……」
しかも現状、この世界では魚への人的プレッシャーはほぼないって言ってもいい。
「あたしの国ではたくさんの人が釣りをしてる。海も川も湖も。こんな小さな野池にもたくさんのアングラーが押し寄せるの。でね、想像してみて。今ここにはあたしとユフィしかいないけど、ここで五十人の人たちが一斉に釣りを始めたらどうだろう?」
「ええっ!? さ、魚が驚いて逃げちゃうよ……! あっ、そう言うことか……!」
「魚の警戒心が上がって、釣れにくくなっちゃう。まあ、今ここでは釣りをするのがあたしたちしかいないから、プレッシャーってのは高くなりにくい。けど、一人で釣りをしている時でも、同じとこばっか攻めちゃ、そのエリアの魚の警戒心は高くなる。だから、そう言う時は釣果があっても一度その場を離れて、場を休ませてあげるのが大切だね」
これはテナガエビの時にシルキーには教えてあげたけど、ユフィには言ってなかったからね。
「今までもそうだったけど、バス釣りって考えることが多い気がする。これがミコトの言ってたゲーム性の高さ?」
「あたしはそう思ってる。別にバス釣りが釣りの頂点だ、なんて言わないよ。単純にあたしが大好きな釣りってだけ。できれば、ユフィにもそう言う釣りを見付けてほしいな」
「うん! だから、もっともっと私に釣りを教えてね!」
「もちろん! けど、勝負に関しては別だからねぇ。あたしの必殺リグを更にお見舞いしてやろう」
「ズルいー! 私にもそれ使わせてー!」
ガーリーヤマトモさん、異世界でもアングラーの心を鷲掴みにするなんて……SUGOI!!
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引き続き宜しくお願い致します。




