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フィーリアの夏




 アサカさんとキーナさん二人の意見のお蔭で、貴族の皆さん方は少し冷静さを取り戻したみたいだった。やっぱり、直接ギルドに関わっている人の言葉は的確だし、何より重みがある。


「ふむ、少し早まったか……。ではアサカ、釣りや魚の文化を根付かせるいい方法は何か思い当たるか?」

「少し先の話になりますけど、夏の納涼祭に釣りギルドから出店を出すってのはどないでしょうか?」

「おお、納涼祭か! 確かにいろいろなギルドが出店するな。そこで魚料理を振る舞うと言うわけか」

「納涼祭は、ダルクからもちょろっと人は来ますけど、基本フィーリアのお祭り。この前のカツオノエボシの件で釣りギルドの評判は街でも聞こえますし、出店の料理やったら気軽に食べてもらえると思うんです」

「今のテナガエビの唐揚げなどはちょうどいいかも知れんな」

「いきなり、魚料理ですー、って出せば警戒されるけど、お祭りの雰囲気とノリがあれば意外とすんなり受け入れられるんちゃいますかね?」


 夏祭りの出店か……。それならちょっと考えてもいいかも知れない。街のお偉いさんに出すのは気が引けるけど、街の人に食べてもらえるのはありがたい。プロの料理人と比べられることもないしね。


「あの、アサカさん。納涼祭の出店ってどんな料理を出すんですか?」

「決まりは特にないんやけど、人気なんは冷たい料理やね。アイスとか、かき氷とか。あとは市場の露店に並んでるようなもんがほとんどやよ」


 つまりは、あたしが想像している夏祭りと変わらないってことか。クライブ様が言うように、テナガエビの唐揚げは祭りに映えそうだ。多分、大人はお酒も飲むだろうから骨せんべいとかね。


 はっ! ここは満を持してのあれを……! 魚類とは一線を画す、あの海洋生物を出す時が来たのか……!?

 あっ、いやでも、タコ焼き器ないや、ここ。


「あと、出店は食べ物だけじゃないわね。ゲームやちょっとした遊びを興じる出し物もあるわ。狩猟ギルドは射的ゲーム、とかね」


 おお、正に夏祭り。あと、個人的には文化祭のノリをどうしても感じてしまう。この時ばかりはあたしも、クラスの輪に溶け込んでいけたんだよな。


「言い方悪いかもやけど、結構軽いノリで店出せるんよ」

「いや、言い方悪すぎでしょ!? ギルドの看板とか面子をあまり考えず、気軽に楽しめばいい、ってことよ」

「そうそう! そーゆうこと」


 はぁー、とキーナさんは大きな溜め息をつくけど、アサカさんみたいな人がいてくれるから前向きに考えられるんだと思う。

 意外とこれ、イケるんじゃないかな? って。


「クライブ様、納涼祭の参加は今ここで決めないとダメですか? 持ち帰って検討する時間ってないですかね?」

「もちろん、ゆっくり考えてくれ。納涼祭までにはまだ一ヶ月以上ある。別に料理に拘る必要はあるまい。例えば、実演で魚を釣って見せる、なんて言う見世物も面白いだろう」

「ああっ、そっか。そう言う出し方もあるのか……」

「食べ物だけが出店ではないからな」


 納涼祭への参加は一週間前まで受け付けているそうだ。ただ、出店の場所取りは早い者勝ちだそうだから、あんまりのんびり考えている暇はないね。人がよく集まるメーンストリートへの申請はもう既に何件かあるらしい。


「だったら一度、みんなで話し合う機会がほしいですね」

「じゃあ、ちょうどいいタイミングがあるんやない?」

「ちょうどいいタイミング、ですか?」

「釣りキャンプやん」

「ああ!」


 そっか、ちゃんと日取りは決めてなかったけど、キャンプするのって納涼祭の前になるのか。


「それまでにやりたいこととか、どんな出店にすんのか各々考えて、最終的にキャンプで集まった時に話し合うってどない?」

「アサカにしてはいい考えじゃない」

「余計なもん頭に付けんな」

「あたしもそれがいいと思います」


 てなわけで、あたしたち釣りギルドは納涼祭へ参加する方向に決まった。フィーリアの街の人たちに釣りと魚に触れてもらう。それが今回の目的だ。

 そうと決まれば善は急げ。あたしとユフィは屋敷に戻ってすぐ、ロイドさんに納涼祭参加の意向を伝えるのだった。



 テナガエビを振る舞ってから数日後のこと、


「ミコトは納涼祭、何したいか思い付いた?」

「んー、料理か釣りの実演かって思ってるんだけど、どっちも何となくって感じだねー」


 あたしとユフィは夕マヅメを狙って、小磯でルアーフィッシングを楽しんでいた。


 納涼祭のことをロイドさんに相談したら、ロイドさんも賛成してくれて、祭りへの参加はあっさり決まった。けど、何をするかはまだイメージも沸いてないんだよね。


「確かに実演も面白いとは思うんだけど、そこで釣れなきゃ意味ないじゃん? けど、必ずしも釣れるってわけじゃないし、釣れないのもまた釣りの面白さではあるんだけどさ。見てもらってる以上は釣りたいじゃん?」

「実演してボウズ、なんて恥ずかしいもんね」

「恥ずかしくて海に飛び込んじゃうよ」


 となると料理になるんだけど、お祭りの料理ってなるとタコ焼きが頭から離れていくれないんだ。まあ、タコは釣れないこともない。狙って釣るやり方もある。けど、果たしてタコ焼き器をアサカさんが作れるかどうか。あと、タコってどうしてもハードル高いよね。こっちの世界の人には。


 で、次に思い付いたのがイカ焼きだ。イカも釣りの対象魚だ。日本で最初に生まれたルアーは、イカを釣るためのエギってものだとも言われている。

 イカ焼きなら焼くだけだし簡単だけど……やっぱりイカも見た目的にハードル高し、だ。


「じゃあ、やっぱり食べ物?」

「気持ち的にはそっち寄りかな。ちなみにさ、フィーリアでは夏にどんなもの食べるの?」

「メイドさんがよく作ってくれるのは冷製パスタかな。あとは夏野菜をふんだんに使ったシチューとか、夏バテしないようにってお肉もよく出るよ」


 あたしたちの世界と感覚は変わらないか。じゃあ、やっぱり冷たくて、さっぱりしたものがいいのかな? でも、祭り自体は夕方の涼しくなった時間がメインだ。お腹に溜まるものもいいかも?


「けど、お祭りだから食べやすさも考慮しないといけないよ」

「ああ、そっか。そこは全然頭になかったや。ユフィ、ナイス」


 そうだよ、そうじゃん。お祭りって言ったら食べ歩きが基本だ。冷たくてさっぱり、で思考が刺身に向いてたけど、刺身なんて食べ歩きに不向きじゃん。


「じゃあ、やっぱりテナガエビの唐揚げは出店向きかも知れないか」

「うーん……でも、見た目がちょっとアレかも……。私たちはミコトのことを知ってるから受け入れられたけど、何も知らない街の人は手を出しにくいかも……」

「だったら、魚っぽさがわからないように一口大にカットしたアジフライとかは?」

「それはありだと思う! ミコト特製のタルタルソースもピンクで綺麗だし。あとは、おにぎりはどうかな? 具に魚を使うの。お米を使うことでスズカゼらしさもアピールできるし」


 スズカゼ出身ではないんだけど……それはいいかも。食べ歩きもできて、お腹にも溜まるしね。


「刺身もそこに付けられたらいいけど、ちょっと食べにくくなっちゃうもんね。いっそのこと、おにぎりの上に刺身乗せちゃう? なんちゃって」


 うおぅっ!!


 あたしの全身に稲妻が走った。ユフィの「なんちゃって」が可愛かったからじゃない。いや、それも大いにあるんだけど、根本の原因はそこじゃない。


 米の上に魚の刺身を乗せる。それ即ち……。


「寿司だ!」

「うわっ!? ど、どうしたのミコト、いきなり大声出して……!?」

「ご、ごめん、ユフィ。でも、ユフィのお蔭でいい案が出たんだ」

「ほんとに!? 私、役に立てた?」

「めちゃくちゃ、ね。それを早速作ってみたいから、頑張って魚釣ろうか」

「オッケー。じゃあ、張り切って飛ばすためにメタルジグに変えようっと」

「なら、あたしはミノーで表層を探ろうかな」


 寿司。


 忘れてたよ、日本を代表する料理の一つを。

 さすがに一人で寿司を握って、一人でそれを食べる、なんてしたことはないから寿司を作った経験はない。けど、酢飯の作り方自体はちゃんと頭の中にある。あとは握るだけ。


 握りの練習をしてみたいから、何としても一匹は釣らないと。魚種はこの際、何でもいいけど欲を言えば……初夏に美味しい魚がいいな。

 なんて、我が儘かな?




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引き続き宜しくお願い致します。

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