エビ反る美味さ
唐揚げと塩焼きをツマんでもらっている間にメインディッシュを作ろうか。
大きめの鍋に水を入れてお湯を沸かし、塩を少々入れてからパスタを茹でる。フライパンではニンニクをオリーブオイルで炒めた後、玉ねぎとキノコを何種類か入れて更に炒める。
こっちにもトマト缶があったから、それを使ってトマトソースにしようと思う。フライパンにトマト缶を入れたら、縦に半分に割ったテナガエビを投入だ。ここは大きいサイズのものを使うのがいいね。
半分に割ったのは出汁がよく出るようにだ。そこにここのメイドさんが作ったコンソメスープを少し入れて、ひと煮立ち。生クリームを入れて、茹で上がったパスタと絡めたらテナガエビのトマトソースパスタの完成だ。
「す、凄い、ミコト! フィーリアの料理も覚えちゃったの!?」
「ミコっちゃん、マジで何でも作れるやん!」
こっちの人たちの主食はパンやパスタだから、今回はそっちに寄せてみたんだけど、思い通りの反応で嬉しい限りだ。
「完全なフィーリア料理ではないんだけど、あたしの国にも似たような料理が外の国から伝わってきているんだ。土台はあるわけだから、フィーリア料理に似たものならあたしでも作れるってわけ」
「ふむ。確かにフィーリアのパスタはもう少し香りが強いのが一般的だな。しかし、これもテナガエビの馨しい香りが食欲をそそる……!」
大きいサイズのテナガエビはたくさん釣れなかったから、一人二、三匹しか盛れなかったんだけど、ソースにはしっかりとその旨味が滲み出ているから、それを存分に味わってほしい。
「あっかーん! これ、あかんやつやって! 美味すぎて気ぃ狂いそうや!」
「領主様の目の前でパスタをずるずる啜ってる時点で気が狂ってると思うけど……アサカの気持ちはよくわかるわ」
アサカさんだけ焼きそば食べてるみたいだもんね。けど、そこまで豪快な食べっぷりを見られたら、作った甲斐があるってもんだ。
「テナガエビがこれだけしか入ってないのに、どこを食べてもエビエビエビなんだよね。でも、それはクドいとかしつこいとか、そんなのじゃないのはトマトの程良い酸味があるからなのかな」
「ええ、その通りですわ。これをもしも、フィーリアで一般的な味付けにしてしまった場合、テナガエビの味わいが消えてしまっていたでしょう。ミコ姉が作り上げたエビの花園を、フィーリアの食文化が踏み躙っていたかも知れませんわ」
「は、花園ですか……?」
「ええ、ご覧なさい。この真っ赤なテナガエビはパスタと言う小高い丘に咲く薔薇のようでしょう!」
「い、言われてみればそうかも……!?」
おいこら、シルキー。うちのユフィを変な方向に導くな。
「なあなあ、キーナ。シルキー様も気ぃ狂ってるんと――」
「黙って食べなさいっ!」
「んごふっ!」
お酒のせいか、アサカさんのボケが際どい。そして、これまたお酒のせいか、キーナさんのツッコミが力強い。危うくアサカさん、顔面からパスタの皿に叩き込まれそうになってたし……。
「じゃあ、最後にもう一品作りますね。ほんとはもうちょっと作りたいんですけど、釣れた数だとこれが限界なので」
不満の声は上がらない。てか、上げられない、か。だってみんな、パスタを食べるのに夢中だから。
最後の一品はガーリックシュリンプだ。
確かハワイの料理だったと思うんだけど、日本でも馴染みのある料理になってる。
残りのテナガエビは全部使って、小さいのはそのまま、大きいのは縦に割っておいた。フライパンにオリーブオイルを注ぎ、バターと刻んだニンニクと玉ねぎを軽く炒め、そこにテナガエビを投入だ。
強火で殻が香ばしくなるまで炒めたら、香り付けにレモンを絞って刻んだパセリを振り掛け、追いレモン用にカットレモンを添えて完成。
「おおー! 凄いガツンと来る、いい匂い! ミコトがこう言う料理作るのって珍しくない!?」
「メインがパスタだったからね。テナガエビを味噌汁にしても美味しいけど、パスタの後って感じじゃないでしょ」
ベースは和食だけど、洋と中も広く浅くだけど経験と知識はあるんだ。ただ、これまでが和食ばっかだったからね。珍しいと言えばそうかも。
「あかんわ、これ。絶対美味いやん。匂いで美味いもん。てか、匂いで酒飲めるし」
「このニンニクの香りは悪魔的ですわよね。ミコ姉、何と罪深い……! こんなにも私たちを誘惑するなんて……!」
「……ちょっと何言うとんのかわからんごふっ!」
ありがとう、アサカさん。あたしが言いたいことを言い掛けてくれて。そしてありがとう、キーナさん。途中で強制終了させてくれて。
「こ、これはまたパンチのある料理ではないか! エビにニンニクはよく合うな!」
「けど、これでも風味が消えないって、やっぱりテナガエビの旨味って凄いわね……。ガーリックバターなんて間違いのない味付けだけど、大体はニンニクの味と香りに持って行かれてしまう。けど、これは違うわ」
「これもまたビールが進むぞ!」
「クライブ様、辛口の白ワインもよろしいかと。この重量のあるパンチをするりと躱し、キレのある果実の香りで流し込む。これはおそらく絶品です」
「キーナ、そなたの読みは陸上でも冴え渡るのか……!? すぐに白ワインを用意しろ!」
その時、にやり、と笑うキーナさんをあたしは見てしまった。
この人、適当な理由付けて貴族が保管してる上等なお酒を飲みたいだけなんじゃ……。いやいや、さすがにそれはない……よね?
「いやー、実に美味かった。ミコト、このテナガエビ以外にも食べられるエビはいるのか?」
「はい、いますよ。ただ、それを釣るのはちょっと難しいですね。テナガエビは岸辺の浅い場所にいてくれるので釣れますが、多くのはエビはもっと深い海の底にいるので」
一般家庭で食べられるエビって言えば、バナメイエビとか赤エビってところだろう。これは養殖だったり、網を使って獲るもの。
お高いエビと言えば、伊勢エビ、車エビ、ボタンエビとかかな。ユフィや他のみんなにも食べさせてあげたいけど、釣れるものじゃないからな……。
「まだ比較的、カニの方が獲りやすいかもです」
「カニも食べられるのか?」
「はい。エビと同じ甲殻類。硬い殻に体を覆われた生き物です。味も似たような感じですかね」
カニは意外と釣れるんだ。釣り針に掛けるわけじゃないんだけど、例えば餌に紐を結んで落とすと、あいつらはハサミで挟んで住処に持って帰ろうとする。そして、奴らは食い意地が張っているのか、多少引っ張ったところで餌を離さないんだ。
んで、そのまま釣り上がるってわけ。
あとは箱で作った罠を仕掛けると獲れたりするね。
「他にも作ってみたいと言っていたのだから、料理のレパートリーは豊富のようだな」
「そうですね。作ったことはないですけど、試してみたいものはありますね」
スーパーではお目に掛からないけど、テナガエビも普通にエビなんだ。みんなが想像するエビ料理をテナガエビに変えればいいだけ。エビチリとかエビグラタンとか。
「ふむ、この度のギルドとしての成果もなかなかのものだ。どうだろうか、私が開くパーティーでミコトの料理を出してみるのは?」
「えっ……? ぱ、パーティーで、っすか……?」
驚きのあまり、何か部活の後輩みたいな返事になってしまった。
貴族が開くパーティーはあたしが想像するような、てか想像できるようなもんじゃない。いろんなところのお偉いさんたちが集まって、三つ星シェフが想像を絶する高級食材を使って作った料理を頂くんだ。
そんなところにあたしの料理を並べていいわけないじゃん!
「い、いや、さすがに――」
「いい考えですわ、お父様! でしたら、各国の領主を招き、ミコ姉の料理を世界に知らしめましょう!」
待て待て待て待て、シルキー! 確かに釣りも魚料理も世界に広めたいとは思ってるけど、いきなりすぎるんだって! 物事には順番ってものがあるんだって!
「私も賛成! ミコトの料理は世界に通じるもん!」
ああ、もうっ! ユフィまで……!
「さすがにいきなり世界規模は不味いんちゃうかな?」
と、ここでまさかの、本当にまさかの、アサカさんから反対意見が挙がった。
「世界に広めるんは賛成やよ、もちろん。けど、それをいきなり開催して、ミコっちゃんの料理をみんなが認めたとする。そしたら、世界中がほしがるよな? ミコっちゃんの技術や知識を。いや……ミコっちゃん自身を」
「お金で無理なら強引にでも、と考えるギルドや国が出てきてもおかしくはないと、私も思います。あと、そんなことはないと思いますが。ミコトがどこで活動するかはミコトが決めることです。それがフィーリアでなかったとしても、私たちには止めることはできません」
ギルドって言う観点から、キーナさんも同意見みたいだ。そして、その意見は十分に的を射たものだった。
「ごめんなさい、シルキー様。シルキー様の意見に逆らってしまうようやけど、うちは気が早いって思うんよ。まずはフィーリアに、ここに釣りや魚料理の文化を根付かさんと、ミコっちゃんが遠くに行ってしまうような気がすんねん……。うちらも手が届かんような、遠いとこへ……」
何でそんな言葉をチョイスしたのかはわからない。お酒も入ってるし、感情的になってるのかも知れない。
けど、異世界人のあたしとしては、アサカさんの言葉が刺さるってほどではないんだけど、切なさを掻き立てられるような、胸がザワザワするような、そんな気持ちになった。
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