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カマス釣り、開始!




 翌日の朝食はもちろん、ゴマサバの一夜干しだ。あと、アラ汁も作っておいた。

 また五人分って考えてたんだけど、キーナさんは夕食の後に帰っていった。そう言うところはキーナさんらしいって言うか、アサカさんとは違うな、とか思ってしまった。


「干物もかなり美味しいぞ。旨味が凝縮されている感じだ」

「皮もパリッとして香ばしいわね」


 シルキー様に出す魚をカマスって決めちゃったからゴマサバはあたしたちで食べたけど、実際このゴマサバでも十分満足させられただろうな。


「しかしミコト、昨晩聞いた話ではサバは特に処理を怠ると危険なものなのだろう? 寄生虫もいる、と」

「寄生虫はサバ以外の魚にもいますけど、特に気を付けるべき魚の一つではありますね。魚を食べた人の中に激しい腹痛に襲われた人がいるって最初に聞きましたけど、多分それはアニサキスが原因だと思います。簡単に言うと、そのアニサキスが胃袋の内側から噛み付くんです。そりゃ痛いに決まってますよね」


 想像したのか、スタインウェイ家の三人は顔を真っ青に染めていた。

 多分、この世界では治療法がないだろうから、アニサキスが死滅するのを待つしかないんだろうな。てか、あたしの世界でもアニサキスを駆除する薬は今のところないし。だから、内視鏡で直接除去するってわけだ。


「だとすると、他の者が魚を扱うようなギルドを設立する場合、適切な講習や実技試験のようなものを受ける必要があると思うのだ」

「ミコトに直接教わって、免許とか資格がないと魚を販売できないようなシステムにするってこと?」

「最初のうちはそんな感じだな。だが、認可されたギルドでも特に優秀なギルドには、免許か資格を与えられる権限を付けた方がいいだろう。そうでもしないとミコトの負担が大きすぎるからな」


 つまりはあたしが師匠になって、弟子を取るってわけか。そして、その優秀な弟子には更に弟子を取れるようにする、と。

 魚のことを正しく恐れてもらうためにも、そう言う仕組みは必要だと思う。


「まあ、これは当分先の話ではあるがな。まずは目の前の壁を一つずつ越えていかねば」

「シルキー様に魚料理を食べさせる、ね……。ユフィに聞いたけれど、不味いと判断されればどんな罰も受けるって言ったんでしょう?」

「ええ、まあ」

「はぁー……」


 ネリスタさんが溜め息とは珍しい。でも、その理由はあたしも薄っすらと感じ取っていた。


「シルキー様の性格を考えたら、美味しいものでも不味いと判断する可能性はあるわ。ミコトの料理の腕は認める。けれど、これは分の悪い賭けよ?」

「ですよね。ちょっと話をしただけでわかりましたもん。捻くれたお嬢様だな、って」

「じゃ、じゃあ、何か秘策を思い付いたとでも……!?」

「いえ、全く」


 ガクッと盛大にネリスタさんの肩が落ちた。ひな壇芸人の典型的でいて、お手本とも言えそうな綺麗なリアクションだ。


「どんな罰も受けるって言ったのは、その場のノリと言うか勢いと言うか……。面倒なことになっても結局、クライブ様が上手く丸め込んでくれるかなぁ、とか思ってますし」

「み、ミコト、それ私も初耳なんだけど……」


 さすがのユフィもちょっと引いちゃってるみたいだ。


「いやいや! ちゃんと料理は誠心誠意、真心籠めて作るよ!? それであのお嬢様の心が揺れ動いてくれるのが一番綺麗で、一番いい結末だって思ってるから!」

「ああ、是非そうしてくれ。私もクライブ様も多少の手助けはするが、あまり肩入れしすぎては、妙な噂を招きかねない。できれば実力で勝ち取ってくれ」

「うっ……。は、はい……頑張ります」


 最後の一言を少し強めに言われ、いい加減あたしもプレッシャーってものを感じずにはいられなくなってきた。


 その日の夕方、夕マヅメを狙ってキーナさんに船を出してもらった。今回はアサカさんも加わっての総力戦だ。

 ポイントは前回と同じ、河口部エリア。まずは実績のあるポイントで魚の状況を確認しておきたい。


「アサカさん、釣り方はさっき説明した感じです。やってればすぐに憶えられると思います」

「おっけー」

「で、アタリがあったら教えて下さい。魚がどのレンジにいるのか、みんなで共有したいんで」


 仕掛けを投入して、釣りスタートだ。まずは海底、ボトムレンジから探り始める。反応はまるでないけど気にしない。あたしのイメージだと、カマスは中層から表層に多い気がするから。


 いきなり釣れるとは思ってない。でも、奇跡が起きてくれるのは大歓迎だ。ご都合主義? それが何なのさ。釣れないことには何も始まらないんだ。


「……ん!? 今、何かアタったわ!」


 最初に声を上げたのはキーナさんだった。


「どの辺りでした?」

「かなり上の方ね。何も反応なければ、また沈めようと思ってたから」


 表層、か……。


「き、来た! 乗ったよ、ミコト! やっぱり上の方!」

「ナイス、ユフィ! 一匹目は慎重に行こう!」

「りょーかい!」


 上の方で釣れたって言うから、魚影はすぐに見えた。青白く輝く、元気に泳ぐ……平たい魚体だった。


「アジか……」


 釣れたのは二十センチほどのマアジだった。続け様にあたしとアサカさんにもヒット。やっぱり釣れたのはアジだ。


「すまん、ミコっちゃん。うちもアジやったわ……」

「いえ、釣れてること自体は嬉しい収穫なんです。アジもカマスも同じ回遊魚。今はたまたまアジが通り掛かったってだけです。ポイント選びに間違いはなかったんだ」


 アジの群れが入ってきている。それは何でか。多分、ほんとに想像だけど、沖にいたアジが夕飯を求めて餌が多いであろう河口部にやって来たんだ。

 だとしたら、カマスの群れが入ってくる可能性も……あるよね?


「いいサイズのアジはキープして、あとはリリースしましょう。ここでもう少し粘ります」


 アジからの反応は十分ほどするとなくなってしまった。カマスの群れと入れ替わる可能性はあるんだろうけど、この辺りの餌は食べられてしまったばかり。仮にかマスの群れが入ってきたとして、ここに居付いてくれるかはわからないよね……。


「誰も釣れんくなったな。どないする、ミコっちゃん?」


 鳥は……あんまりいない。ベイトとなる魚がいないってことか……。だったら、もう少し深場を攻めた方がいいのかな……。


「移動しましょう。キーナさん、もう少し沖に出られますか?」

「ええ、大丈夫よ」


 大型帆船の話が出た時、フィーリアの近海は遠浅だって言っていたけど、確かにこの湾は水深の変化が乏しい。けど、所々で窪んでいるのか溝になっているのかはわからないけど、深くなるエリアがある。

 そこに小魚とかのベイトが溜まっているんじゃないか。そう言う判断だったんだけど……。


「誰もアタらないね……」

「キーナさん、もう少し南にお願いします」


 ぐぬぬぬ……! 次だ、次!


「ダメね……。何匹かアジが釣れた途端に静かになるわ……」

「湾の中に入っていきましょう。あそこの、あの岬の先端辺りでお願いします」


 アジは釣れてるんだ。仕掛けに問題はないってことだし、判断も間違ってはいないはずなんだ。

 けど……。


「陽が沈むわね。ミコト、夜の航行は危険だから時間はあまり残ってないわよ」

「おい、キーナ。あんま焦らせたんなって」

「そんなつもりはないわよ。ただ、船長としてみんなの命を預かっている身だから、危険は冒せないってだけ」


 うん、その通りだ。キーナさんは正しい。あたしもそれとなくは理解していたから、沖から徐々に港へ近付くルート選びをしていたんだ。


「最後は湾奥に行きましょう。そこなら港も近いからギリギリまで粘れますよね?」

「ええ。さすがミコトね。いい判断だと思うわ」


 そして、湾奥は今日の大本命のエリアでもあるんだ。

 湾奥は海藻が多く、そう言った場所は小魚たちが安心して身を隠せる居場所になる。だから、ベイトのストック量は一番多いはずだ。それをカマスたちが狙わないわけない、はずだ。


「今日、最後の釣りです。気合い入れていきましょー!」

「よっしゃー、任せとき!」

「私も頑張るぞー!」


 湾の奥だから波もなくて、今日は風向き的に風裏になっていて風も吹かない。めちゃくちゃ静かだ。

 その静けさが、今はとても辛かった……。


「だ、ダメだった……」


 港に戻ったあたしは、ぐったりと肩を落としていた。釣果はアジが十数匹。しかも、いいサイズだ。釣りの結果としては全然悪くはないんだ。

 でも、カマスは一度も現れてはくれなかった。


「しょ、初日なんだし仕方ないよ、ミコト! 夕方からだったし、時間もそんなにあったわけじゃないしさ!」


 ユフィの慰めの言葉が胸に刺さる。

 いや、わかってたさ。難しい釣りになるってことは百も承知だったよ。でも、ちょっとした期待はあったんだ。


 この世界で釣りをしていて思ったんだけど、ここの人たちは魚を獲らないから魚が豊富だ。そして、釣り人がいないから釣られるってことに対しての警戒心が薄いんじゃないかなって思う。

 つまりは、結構簡単にあっさり釣れるんじゃない? とか思っていたんだ。


 バカか、あたしは……。魚を舐めてたんじゃ、こんな結果になるのも当然だ。


「うん、大丈夫。今日の結果だって無駄じゃないんだ。気持ち、切り替えないと」

「明日は早朝から船を出せるわよ」

「ほんとですか!?」

「ただ、明日の天気は曇り。この時期にしては気温が下がりそうで、波も今日より高いと思うわ。少し厚着にした方がいいわね」


 すご……。キーナ天気予報ってそんな細かいとこまでわかるんだ……。


「私はギルドの仕事上、早起きは慣れてるけどアサカ、あなたは大丈夫?」

「いやぁー、普通に不安や」

「はぁー、仕方ないわね。朝、叩き起こしに行ってあげる」

「寧ろ、うち泊まったら?」

「嫌よ。あなたの家に泊まったら深酒になるでしょうが」

「ミコっちゃんが美味いツマミ作ってくれんで」

「ぐっ……!」


 そんなこと一言も言ってないけど、今日のお礼として二人にアジを振る舞うのは、やぶさかじゃない。別にいいんだけど、キーナさんも案外揺らぐのが早いんだな……。


 結局その日はアサカさんの家で、アジパーティーを開くこととなった。




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