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海琴ズキッチン




 アジングの成果は上々で、二人とも十匹以上は釣り上げた。けど、さすがに食べきれないから、今日の晩ご飯と干物にする分を確保したら、あとはリリースすることにした。

 ユフィは少し勿体ないって顔をしていたけど、魚も限りのあるものだから、それを守ることも大切なんだ。


 屋敷に戻ったら、早速アジの下処理だ。晩ご飯用は大名おろしでぱぱっと捌いちゃって、干物用の作業に取り掛かる。

 魚を干物にする時、腹開きと背開きの二種類があって、アジの場合は腹開きだ。エラの下から包丁を入れて、シリビレの辺りまで切る。エラと内臓を取り出したら綺麗に水洗いして、中骨の上の身を骨に沿うようにして、ゆっくりと切り離していく。

 シリビレの上も切って、尾の方まで包丁を進めれば綺麗に開くことができる。あとは、頭を縦に半分に割れば、スーパーでよく見掛けるアジの開きの完成だ。


「今更だけど、ミコトって本当に手際がいいよね。お料理は元から上手だったの?」

「いやいや、全然。最初はお祖母ちゃんの手伝い程度で教わってたけど、いざ自分で作ってみたら意外と難しくて失敗しちゃってさ」

「そ、そうなの!?」

「それが無性に悔しくて、絶対上手くなってやるんだって、変に火が付いちゃったんだよ」


 そのお蔭で両親が家にいなくても食事には困らなかったんだよね。これも、料理の腕が上がった要因の一つだろう。


「じゃあ、この開いたアジを塩水に漬けておきます。塩水の塩の量は作る人によって違ったりするんだけど、あたしは海水くらいの濃度にしてるかな」

「へぇー、決まりがないのって面白いね」

「料理って結構そうだよ。料理の教科書なんかを読んでも、塩コショウ適量、とか書かれていることが多いからね。自分の好みでいいんだよ、結局」


 海水くらいのしょっぱさって言うのが、わかりやすい目安ってだけでもあるしね。


「それで、漬ける時間もお好みだね。ただ、サイズが大きいものは長く漬けた方がいいかな。目安としては四十五分から一時間。このサイズだと……一時間は漬けようかな」


 塩水に漬ける時は皮目の方を上にするといい。そうすると身が浮いてこないから均等に漬かるんだ。


「これを冷蔵庫に入れておく」

「一時間かぁ。結構長いね」

「だから、今のうちにやっておかないといけないことがあるよね。干物を作るにはそれを干すスペースを確保しないと」

「ああっ、そっか!」


 雑貨屋で買ったものはもう屋敷に届けられていて、あたしたちはそれを庭に広げていた。ロイドさんには予め許可を貰っているから、風通しの良さそうな場所にまずはタープを設置する。


「今日の風向き的にはこっちが正面の方がいいか。じゃあ、ユフィはまずこのポールを持っててくれる?」

「オッケー」


 予算の都合でポールは二本しか買ってない。でも、二本あればタープは立てられるんだ。ロープを地面に固定する杭をペグって言うんだけど、これはさっき釣りに行った帰りに拾った流木で代用している。先を削って尖らせて、地面に打ち込んだんだ。

 ポールは左右に二つのロープで固定して、シートも端と真ん中にある三箇所の穴にロープを通して、同じようにペグを打って固定する。


 三角屋根のタープの正面から風が通り抜けて、傾き始めた陽の光をしっかり防いでくれている。あとは二本のポールを結ぶようにロープを渡らせて、そこに乾燥ラックを吊り下げる。


「できたー! 干物製造スペースの完成だ!」


 タープを張るなんて本当に久しぶりだし、お祖父ちゃんの手伝いでしかやったことがなかったけど、案外やればできるもんだ。意外とあたし、こっち方面も器用だったりするのかも。


 にしても、つくづくお祖父ちゃんとお祖母ちゃんには感謝だな。日常生活どころか異世界生活までも、二人のお蔭でやってこられているんだから。


「ほんと、ミコトって何でもできちゃうんだね」

「何でもは言いすぎだって。さて、戻って夕飯の支度したら、漬けておいたアジもいい感じになってる頃合いだね」

「今日は何作るの!?」

「今回は大きめのアジが釣れたから、何種類か作ってみようと思うんだ」

「おおっ! 楽しみ!」


 きらきらと目を輝かせるユフィを連れて、あたしはキッチンへと戻るのだった。



 はい、始まりましたー。海琴ズキッチンでーす。……何つって。


 今日釣れたアジは前のものと違って脂の乗りがいい。だから、刺身は絶対に外せないよね。だから、一品目はもう決まり。

 お次は前回と同じようにアジの身に薬味を混ぜながら、細かく叩いていく。


「これって前に食べた、なめろうだよね?」

「そうだね。けど、今回は梅干しは入れてない、王道のなめろうかな」


 これで二品目完成? ノンノンノン。今日は更にここから、なめろうを変化……いや、進化させるよ。

 その方法は……。


「焼きまーす」

「ええっ!? なめろう焼いちゃうの!?」

「このままでも全然美味しいんだけどね。なめろうを丸めて、こうやってフライパンで焼いちゃいます。けど、よく考えてみてよ。細かくミンチした肉に刻んだ野菜を混ぜて焼く。これって何かを想像しない?」

「……あっ! ハンバーグか!」

「そう言うこと。だったら、美味しいに決まってるよね。これは山家焼きって言うの」


 ハンバーグみたいに丸めたなめろうをそのまま焼いてもいいんだけど、あたしは大葉の上になめろうを乗せて焼いている。その場合は大葉側から焼いて、程良いところで引っ繰り返す。

 ここはハンバーグと違って、焼き加減は適当でいい。だって、生でも食べられるものだからね。寧ろ、火の通り具合をバラバラにさせてレアな感じや、よく火を通した場合なんかで違いを出すのも面白いと思う。


「ああー……いい匂いがするね……」

「味噌が入ってるから香ばしい匂いになるね」


 山家焼き。書いて字の如く、山の家で焼いたから、そう言う名前になったそうだ。


 昔々、漁師が山へ仕事に行く際、アワビの殻になめろうを詰めて持って行ったそうな。それを山小屋で焼いたり蒸したりして食べたらしい。だから、山の家で焼いたもの。山家焼き、って呼ばれるようになったんだとか。


 てか、漁師って山にも仕事行くんだね。何しに行くんだろ? めっちゃハードワークじゃん。そして、アワビの殻になめろう詰めるって、ワイルドでカッコ良すぎじゃない?


「生と焼きって来たら、やっぱ揚げ、だよね。三品目はアジフライだよ」


 作り方としては一般的なものと変わらないと思う。普通にパン粉付けて揚げるだけ。けど、こだわりたいものが別である。

 アジフライって言ったらアレだよね!


「じゃあ、タルタルソースを作っていくよ」

「私、タルタル好き!」


 こっちにもタルタルソースってあるんだ。アジフライ、カキフライ、エビフライなんかの海鮮系のフライで使うイメージだから、こっちの世界にはないと思ってたんだけど。


「鶏の唐揚げに付けて食べるの好きなんだぁ」


 チキン南蛮みたいな感じかな? 今度メイドさんに作ってもらおう。


 あたしが作るタルタルソースもそこまで王道からは外れてないと思う。でも、一つだけ自分なりのこだわりがある。


 荒めに刻んだゆで玉子をボールに入れてマヨネーズを絡める。個人的には玉子多めが好きだ。そこに刻んだキュウリ、玉ねぎ、パセリを加える。ここでピクルスなんかを入れるのが王道だと思うんだけど……あたしゃ日本人だからねぇ。ピクルスなんて西洋かぶれのもんなんか入れはせんよぉ。


 ここで取り出したるは……しば漬けだ!


 正確には、しば漬けみたいなもの、だけど。

 あたしが知ってるしば漬けはナスやキュウリを赤紫蘇と一緒に漬けた漬物だけど、これは何を漬けたのかよくわからない。ただ、市場で見付けて味が近かったから買っておいたものだ。


「へぇー、ミコトはタルタルに赤いピクルス入れるんだね」


 結局これピクルスじゃん! まあ、異世界のものを取り入れた時点で西洋かぶれどころか異世界かぶれなんだけどね。


「ピクルスだったら大体は合うんだけどね。あたしは色合いが好きだから、これを選んだんだよね」


 刻んだしば漬けを混ぜ合わせると、白いマヨネーズと相俟って仄かなピンク色になる。


「うわぁー! 何これ!? 綺麗なタルタル!」

「一晩くらい寝かせると色味が全体に染み渡って、ピンクのタルタルソースになるよ」


 塩と酢で軽く味を調整したら完成だ。


 アジフライって言うと開いたアジを揚げるイメージかもだけど、今回は食べやすさ重視で一口大の大きさのフライにしておいた。それをお皿に敷いたレタスの上に盛り付けて、タルタルソースを添えれば、ミコト特製アジフライ!


「これでアジフライも完成だね」

「すごーい! アジってこんなにもいろんな食べ方があるんだね! アジの七変化だ!」


 七種も作ったっけ……? 五? いや、四……? まあ、いいや。


「じゃあ、七変化の一つの干物もそろそろいい頃だね。塩水から出して、水気をしっかり取ったら外に干すだけ」

「どれくらい干すの?」

「その日の気温や湿度、風の具合で干し時間は変わるね。洗濯物と同じだよ。日中の暑い日ならすぐ乾くけど、夜なら時間が掛かるでしょ? 今回は長めの干し時間かな。食べるのは明日の朝」


 つまりは、一夜干しってやつだ。


「あとはネットに並べるだけだから、ユフィは先に食べてていいよ」

「ううん、私も手伝うよ」

「冷めちゃうからいいのに……」

「ミコトと一緒に食べたいの」


 ほんと、可愛い奴め。しっかりお姉ちゃんっ子に育ってきたな、こいつぅ。


「じゃあ、二人で終わらせて早く食べようか」

「おおー!」


 逸る気持ちを抑えつつ庭に出たあたしたちは、アジを乾燥ラックに並べていく。この時、アジ同士が重ならないようにするのが大切だ。

 干している最中も、ふわりと頬を風が撫でる。今日は干物を作るにはいい日だ。


「おーい、ミコっちゃーん」


 と、あたしを呼ぶ声。それは間違いなくアサカさんのもので、タープから顔を覗かせると屋敷の入り口の方で大きく手を振るアサカさんが見えた。


「言われてたもん、できたで」

「す、凄い! イメージ通りな上に、こんなにも早く……!」


 アサカさんが持って来てくれたサビキ用の釣り針も糸巻きも、あたしの想像通りの完璧なものだった。これでカマスが狙える。カマスが釣れる。あのお嬢様に、ぶちかませる。


「アサカさん、ちょうど晩ご飯作ったところなんで食べていって下さいよ」

「えっ? ええの? そんなん悪いような……」

「お酒にも合う料理ですよ」


 そう耳元で呟くとアサカさんは元気よく、


「頂きまーす!」


 と、屋敷に向かって行進するのだった。




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引き続き宜しくお願い致します。

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