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肩を並べて



 市場から戻ると、時刻は午後三時。まだまだ行動できそうだぞと思ったあたしは、すぐに釣りに行く準備に取り掛かった。


「ミコト、釣りに行くの?」

「うん。アジでも釣ろうかなって。そんで、釣れたら試しにアジの干物を作ってみようかなって」

「じゃあ、私も手伝うよ!」


 疲れてるかもだから、あたしからは誘わないでいたんだけど、ユフィの元気はあり余ってるみたいだ。

 スチールボックスといつもの釣り道具を持って、やって来たのは桟橋。いつもなら餌で狙うんだけど、今日は少し大きめのアジがほしいところだ。だから、


「ユフィもアジングやってみる?」

「えっ? いいの!? けど、できるかな……」

「大丈夫だよ。やることはルアー釣りとあんま変わらないから」


 アジングで使うのはジグヘッドリグのワーム。二インチあたりがよく使われるかな。釣りでは長さの単位がインチで表記されることが多くて、ルアーの長さなんかもそうだね。一インチは約二・五センチだから二インチは約五センチだ。

 ただ、ロッドの長さはフィートで表されるかな。あと、重さはオンスとかポンド。


 これはルアーフィッシングがイギリス発祥で、それが日本で広まったから日本人にはあんまり馴染みのない単位になってるんだと思う。


「ワームはユフィが好きなの選びなよ」

「えぇー、いっぱいあって迷うよぉ……。ミコトは普段、どんなの使うの?」

「そうだねぇ。あたしはこう言う、半透明のが多いかな。濁りが強かったりすると、色の濃いものを使うよ」

「じゃあ、今日の感じだと……これにしよう」


 ユフィが選んだのは薄く色の入ったスモーク系のワームだった。じゃあ、あたしは透明のクリアカラーでやってみようかな。


「アクションはどんな感じに付ければいいの?」

「まずは表層から確認していきたいから、キャストして着水したらリトリーブ。その時にこうやって竿先をちょんちょんちょんちょんって、小刻みに揺らしてあげる感じだね」

「水中でワームが飛び跳ねてるようなイメージかな?」

「そのイメージでいいと思うよ。あとは少しずつレンジを下げていって、アジからの反応を待つ」


 少し沖の方で海鳥が飛んでる……。何か小魚の群れでもいるのかな……? それがアジって可能性もあるよね。


「あと、アワセは優しく軽めにね」

「そうなの?」

「竹ロッドの時は竹が柔らかいからアワセるって感じじゃなかったと思う。前にも言ったかもだけど、アジの口って柔らかいんだ。だから、普通のロッドで普通にアワセたんじゃ、口が切れちゃうんだよ」

「力を入れないようにって言われると、緊張して余計に力が入っちゃうような……」


 それはわかる。けど、それを乗り越えないといけないのだよ。



 三十分ほど経っただろうか。あたしもユフィも反応は全くなし。時間帯的にはまだ早いとも言えるんだけど、この場合は場所が悪いのかもな……。


 と、ふと辺りを見回してみた時だ。


「ユフィ、ちょっとあっちに移動してみようか」

「あっちって……磯の方?」

「うん。鳥の群れがあっちに少し寄ってるような気がしてさ。海鳥の餌は魚だからね。鳥の群れの下には魚の群れがいることが多い。ヒントのないこの場所で釣りを続けるより、可能性が高そうな場所でやった方が期待値は高いでしょ?」


 移動先は磯って言っても小さな磯、小磯だ。砂浜が少し岩場になっていて、アジはこう言ったところにも回遊してくる。

 陸の海釣りってやっぱり足場のいい堤防や桟橋って人気のエリアになるんだ。だから、平日でも釣り人は結構多い。場所取りが大変なんだよね。

 けど、こう言う小磯は意外と穴場だったりするんだ。足場が悪いから気を付けないといけないこともあるけどね。あっちの世界では小磯に何度救われたことか。


「足許に気を付けて。濡れてる岩は滑ることが多いから、ゆっくり慎重にね」

「はーい、了解」


 足場を確保したら、またキャスト。誘い方はさっきと変わらない。

 ただ、明確な変化があって、キャスト数回で何かがワームに触れたような手応えがあって、そのすぐ後にはバイト。ただ、ミスバイトだったのかフッキングには持ち込めなかった。


「ああー、アタったんだけどな……。乗らなかったか……」


 魚がルアーに食い付くこと、捕食することをバイトって言う。それを魚側がミスったってこと。それがミスバイト。魚だって百発百中で狩りに成功するわけじゃないからね。追い駆けてた餌に逃げられることはある。


「どの辺でアタったの?」

「中層よりちょい上くらいかな」

「リトリーブは?」

「ちょっと速め。だから、もう少しスローでもいいのかも」

「ワームのカラーは変えたの?」

「うん、今はラメが入ったキラキラしたやつ」

「ふむふむ」


 ……。


「ふふっ」

「な、何で笑うの!?」

「ごめん、ごめん。別にバカにしたとか、そんなのじゃなくて。単純に嬉しくてさ」

「嬉しい?」

「あたし、自分の国ではほとんど一人で釣りしててさ。誰かと釣りするってお祖父ちゃんくらいだったの。だから、ちょっと憧れてたんだよね。こうやって友達とお喋りしながら釣りをするの」


 釣り番組や釣り動画でよくある景色で、プロアングラーが並んでキャストをしつつ、あれはどうだの、これはどうだの、楽しくお喋りしながら釣りをする。画面越しでしか味わえなかった空気を、今実際に体験している。

 そう思うと、些細かも知れないけど夢が叶ったみたいで嬉しかったんだ。


「だったら、私も嬉しい」

「そうなの? どうして?」

「だって、それってミコトと肩を並べられる存在ってことでしょ?」


 はにかむ笑顔に、あたしも自然と笑みを返していた。


「もちろん。ユフィはあたしの大切な相棒だよ」

「やったー……――って、アタリだ!」

「おおっ! ようやく来たじゃん!」

「でも、ごめん。多分、これ違う」


 なぜにカタコト?


「嬉しくてリール巻くの忘れてて……。だから、ほぼほぼボトムでのアタリ」

「なるへそ。じゃあ、ゲストの登場だ」


 アジは海を泳ぎ回る回遊魚。もちろん、深い場所を泳ぐことはあるけど底、ボトムにいることはほぼない。だとしたら、アジ以外の魚が濃厚ってわけだ。

 それ即ち、海底に根付く魚。


「おおー! ガッシーじゃん。しかも、結構いいサイズ」


 釣れたのは根魚のカサゴだった。二十アップは確実にある食べ頃サイズ。

 小磯での釣りは、こう言った根魚のゲストも来てくれるから、楽しい釣り場でもあるんだ。


「ガッシー? あれ、これってカサゴじゃなかったっけ?」

「あ、ああー……。カサゴ、それはカサゴに間違いないよ」

「じゃあ、ガッシーって?」

「そのー……何て言うか、渾名? みたいな……」

「魚に渾名なんてあるの!?」


 食い付いてくれて嬉しいんだけど、これをどう上手く説明したものか……。


「ほ、ほら! アサカさんって喋り方が独特でしょ? あたしの国でも同じ国なんだけど、ちょっと変わった喋り方をすることがあるのね。それで、カサゴのことをガシラって言う地方があるの」


 主に関西圏。こっちで言うならオワセーヌ地方。


「ガシラだから『ガッシー』ってわけ。意外といろんなとこで釣れて、あたしたちアングラーを楽しませてくれる魚だから、親しみを籠めた渾名なんだよ」


 多分。


 個人的にはお祖父ちゃんがそう言ってたから、頭ではカサゴってわかってるんだけど、ちょっとした弾みで過去の記憶が出てしまうんだろう。


「ガッシーか。何かそう言われると可愛く見えるね」

「そうだよ、可愛いんだよ」


 この後、美味しく頂きますけどね。


 これが小磯のいいところだ。岩場にはカサゴやメバルなんかの根魚がいて、アジがいなくても楽しませてもらえる。最近だとメバル狙いのメバリングってのもある。


「おっ、ようやく来たかな……!」


 竿先に鋭いアタリ。フッキングするって言うより、ロッドを立ててあげる感じだろうか。いい引きだ。重くはないけど元気な奴みたい。


「よーし、一匹ゲット」

「わぁ、いいなー」

「群れが入って来たのかも。中層くらいでアタったよ」


 釣れたのは二十数センチのアジ。黄色いラインが綺麗に出ていて、脂が乗っていて美味しそうなアジだ。こう言うアジを黄金アジって呼んだりするね。

 これはいい群れに出会えたかも。


「あっ、こっちも来たよ!」

「ちょっと早めの時合いが来ちゃったかな」


 そこから楽しい時間が暫く続くのだった。




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引き続き宜しくお願い致します。

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