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干物作りの前に




 お昼過ぎの市場はまだまだ賑やかで、焼きたてのパンや作りたてのお惣菜、新鮮な果物のいい匂いがどこからともなく漂ってくる。日々の買い物はメイドさんがしてくれるから、あんまり来る機会がないので、市場に行くのはちょっと楽しみでもあった。

 そして、どうやらそれは、ユフィも同じみたいだ。


「あっ、見て、ミコト! あそこのお菓子屋さん、新作出してるんだって!」

「へぇー、美味しそうだね。だけど、あたしたちの目的はお菓子屋さんじゃないよ」

「はーい……」

「帰りに寄ろうね」

「うん!」


 剥れたと思ったら、すぐに目を輝かせちゃって。可愛い奴め。


「じゃあ、今日は何を買いに来たの?」

「魚を干す道具、かな。けど、どこに売ってるのかわからないし、そもそもあたしが想像しているような道具があるかもわからないから、まずは肉屋さんに行ってみよう」

「お肉屋さんに?」

「肉屋には干し肉が売ってるでしょ? それをどうやって作ってるのか聞きたいんだよ」

「ああー、なるほど」


 道具があるなら見せてもらって、売ってるところも教えてもらおうってことだ。


 あたしは露店の中に肉屋さんを見付けて、そこのおばさんに声を掛けてみた。


「こんにちは」

「いらっしゃい。どんな肉がほしいんだい?」

「干し肉って置いてます?」

「ああ、あるよ。こっちだね」


 何の肉かはわからないけど、ビーフジャーキーをもっと大きくしたようなものや、ブロックのベーコンも置かれている。これをお客の目の前で切り分けて売るみたいで、なかなか豪快な売り方だな。


「これってどこで、どんな風に干してるんですか?」

「ベーコンは吊り下げて燻製、こっちは冷蔵庫で何日か放置してからオーブンで焼く感じだね」

「天日干しとかってしないんですか?」

「昔はしてたねぇ。けど、ダメになっちまうことが多くてさ」


 やっぱ冷蔵庫か……。こっちの世界にも冷蔵庫があることには随分助けられているから、何とも言えないよね。


 干物を作る上で気を付けなきゃいけないのは湿気だ。乾燥させて水分を抜こうとしてるのに、湿気で余計な水分が付いてしまうと腐っちゃう原因になる。だから、あまり陽の当たらない、風通しのいいところで干すのが基本だ。

 その点、冷蔵庫は干物には相性がいい。温度は一定に保てるし陽も当たらない。冷蔵庫の中が冷えてるから湿気があるように思えるけど、冷風が出ているから乾燥させるにはいい環境なんだ。


 じゃあ、魚の干物は冷蔵庫で作れないのか、って? 作れます。


 作れるんだよ、普通に。一般家庭で、特に都会にお住いの方なんかは冷蔵庫で作った方が断然いい。車が四六時中走ってるベランダに干したくはないだろうし、臭いとか虫の問題もあるしね。


「天日干ししてるものがほしいなら果物屋に行ったらどうだい?」

「えっ? それは何で……?」

「ドライフルーツは天日干しで作るからね。他にも果実の種を取り出すのに干したりしているよ」


 そ、その発想はなかった! そうか、ドライフルーツか! こっちの世界にもあったんだね……。


「ありがとうございます! ちょっと行ってきます!」


 何も買わずに失礼かなと思ったんだけど、おばさんは笑みを浮かべながら手を振ってくれた。


「魚は天日干しじゃないとダメなの?」

「いや、そう言うわけじゃないんだ。冷蔵庫でも作れるよ」

「じゃあ、何で天日干しに拘るの?」

「お祖母ちゃんの作り方がそうだったんだよ」


 果物屋に向かう中、あたしはふと空を見上げた。

 晴れ渡った青い空。こんな空の下、お祖母ちゃんは洗濯物でも干すみたいに、大量のカマスを干していたっけ。


「思い入れのある料理って、そう言う意味だったんだね」

「うん。カマスの干物はあたしが憶えている限り、生まれて初めて食べた魚なんだ。多分、お祖母ちゃんが干して、焼いてくれたもの。だからさ、あたしもカマスを干すならお祖母ちゃんと同じ作り方をしたいんだ」


 もちろん、あたしも実家で干物を作る時は冷蔵庫だ。けど、この世界で初めての、しかもカマスの干物ときたら冷蔵庫になんか頼っちゃいられない。

 どっちが美味しくできるかとか、そう言う話じゃない。単に丹精を、愛情を籠めたいんだ。料理ってたったそれだけで美味しくなる。お祖母ちゃんがそうしてくれたから、よく知ってるんだ。


「果物屋さんはあそこだね。ミコトが探してるものがあるといいけど……」


 ちょっと不安そうなユフィ。でも、もうあたしは見付けてしまった。

 露店の果物屋さんの屋根から吊り下げられた籠のようなもの。周りをネットで覆っているそれの中には、三段ほどの果物を並べるスペースがあるみたい。


 あれこそがあたしの理想! 干物を作るためのネット! 乾燥ラックじゃん!


「あ、あの、すみません! これがほしいんですけど!」

「えっ? あ、ああ、いらっしゃいませ。ドライフルーツがほしいのかしら……?」


 あたしが指差す方には確かにドライフルーツがある。けど、あたしがほしいのは中身じゃなくて、その外身なんだ。


「違います! その乾燥用に使っているネットの籠。それってどこで手に入るんですか?」

「こ、こっち!?」


 そりゃそうだよね。果物買ってくれるかと思いきや、果物干してる道具がほしいって言うんだもん。店員のお姉さんが戸惑うのも仕方ない。


「これは私たち農業ギルドで扱っているものよ。果物や野菜を干す以外に特に使い道はないんだけど……ほしいの?」

「頂けるのなら! いえ、お金はちゃんと払います!」

「いいわよ、別に。余っているのが一つあるからあげるわ。農業ギルドは無償で配布されるからね」


 そ、そうなのか……。こんな、ありがたアイテムが無償で……。農業ギルドとも仲良くやってた方がいいのかな。


 乾燥ラックをくれたお姉さんには何度も頭を下げて、あたしたちは市場の中心へと進んでいった。


「他にも何か必要なの?」

「魚を干す場所を確保したいんだよね。ユフィのお屋敷は陽当たりがいいから、魚を干すには日陰がほしいところなんだ。だから、それをこっちで作ってやろうとってわけ」

「それも探すのが難しそうなもの?」

「ううん、支えになるポールと屋根に使う大きめのシート。あとはロープさえ揃えば全然オッケーだよ」

「じゃあ、大きめの雑貨屋さんに行こうよ」

「そうだね」


 あたしがイメージしているのは大きめのタープだ。キャンプ場なんかで見掛ける日除けの屋根だね。もちろん、雨だって防げるし風通しもいい。まあ、湿気ちゃうから雨には降られてほしくないんだけどね。


 タープの立て方はお祖父ちゃんに教わった。

 田舎の家って結構庭が広くて、夏場なんかによくバーベキューをしてくれたんだ。その時にお祖父ちゃんは家にあったガラクタを取り出してきて、自前のタープを立てていたんだ。

 今ではキャンプ用品はいろんなとこで買えるし、ネットでも購入できるけど、昔の田舎ではなかなか手に入らなかったんだろうね。けど、知恵と知識でそれをカバーしていたんだ。


「シートってこれくらい?」

「そうだね。隅にロープを通せるような穴が開いているやつがあれば、もっといいかな」


 一軒丸ごと雑貨屋となっている、あたしの世界で言うホームセンターに入ると何だかわくわくしてしまう。これはあれに使えそうだ、見たことないけど何かに使えるかも。そんな風にいろいろ考えるだけで、ついつい顔が緩んでしまうのだった。


 何だかんだ、ユフィも楽しそうだしね。


「おおっ! ポール売ってんじゃん。しかも、折り畳み式でコンパクトになるやつだし。何に使ってるんだろ……」

「畑を囲む柵に使えます、って説明書きには書いてあるね」

「ああ、なるほどね。害獣除けのフェンスを作るのか」


 せっかくだからと、あれも買ってこれも買って、なんかしていると結構な荷物になってしまった。けど、後で荷馬車で運んでいくれると言う配達サービスまでやっていて、あたしたちはそれに甘えることにした。


 だから、帰りは宣言通りの寄り道だ。


「ユフィの綿菓子みたいで甘そうだね」

「何かいろんな味がするよ。けど、見た目よりはスッキリした甘さかも。食べる?」

「食べる! あーん……」


 ユフィが見付けたお菓子屋さんの新作は、綿菓子みたいなんだけどカラフルなふわふわしたお菓子と、ゼリーと団子を足して二で割ったようなものが串に刺さったお菓子だった。


「あっ、美味しい! 確かに、柑橘系の甘さかも」

「ミコトの方は?」

「見た目はゼリーみたいなんだけど、食感はもちっとしてる。中にジュレみたいなのが入ってて、それが甘くて美味しいよ」

「はむっ!」


 食べるかどうか聞く前に、ユフィはもう団子の一つを頬張っていた。そして、言葉になってない歓喜の声を上げるのだ。


「これも美味しいね、ミコト!」

「だね。後であっちの飲み物も買おう」

「さんせーい!」


 そう言えば、誰かとこんな風に買い食いするなんて、あんまりやったことなかったな。一人ですることはたまにあった。釣りで少し遠出した時とか。

 だから、あんまり憧れとか、やってみたいって思ったことはなかった。けど、実際にやってみて、楽しいって思ったんだ。意外と悪くない。そう思った。


「ミコト、こっちも美味しいよ!」

「これもヤバいよ、ユフィ!」


 異世界に来てようやく、あたしは極普通の女子高生の日常ってものに出会えたような気がした。




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引き続き宜しくお願い致します。

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