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異世界領主のご令嬢




 航海ギルドの船乗り、キーナさんからの連絡を待っていたある日のこと。

 メイドさんに、ロイドさんが呼んでいる、と聞いたあたしはロイドさんの自室へ。そしてロイドさんからは更に、領主様が呼んでいる、と聞かされた。


 おいおい、早速ギルド崩壊の危機なの!?


 そんな絶望と不安に打ちひしがれながら馬車に揺られるあたしを見て、同行してくれたユフィが苦笑いを浮かべる。


「大丈夫だよ、ミコト。そんなに心配しないで」

「で、でもぉ……」


 いきなりの呼び出し。しかも、一つの街を治める権力者からの。学校の先生から職員室に呼び出されるのとは訳が違う。


「釣りギルドは領主様の推薦も得たギルドだよ? 自分が推薦したギルドを『やっぱり必要ないんで解散させまーす』とか言ったら、領主様の見る目がなかったんだってことに繋がり兼ねない。だから、悪い話じゃないよ、きっと」

「早く成果を出せー、って怒られるパターンは?」

「それもない。私たち、結成して一ヶ月も経ってないギルドだよ? 通常、ギルドの経過観察には半年以上は費やすものだからね」


 何か、今日のユフィは頼もしい。けど、それも当然だ。あたしはこの世界の通例とか、ギルドの常識とかを全く知らない。

 ちょっとしたことで焦ってしまうのも、仕方ないんだ。


「ユフィ……お堅い話だったら、ユフィに全部任せるよ……」

「はいはい、了解。私に任せておいて」


 情けないけど、この辺りの舵取りはユフィに任せるのが無難だ。

 頼りなく抱き付くあたしの頭を、ユフィは優しく何度も撫でてくれるのだった。



 馬車に揺られて辿り着いた領主様の屋敷。クライブ様側のメイドさんからは何の説明もなく、ただ案内されたのはクライブ様の自室だった。

 部屋には二人のメイドさんがいて、その人たちもお茶を用意すると出て行ってしまった。この部屋には領主様と、それに対面するあたしとユフィの三人だけしかいない。


「いや、急な呼び立てですまなかった」


 あたしが勝手に感じていた緊張感かも知れないけど、それを最初に裂いてくれたのはクライブ様だった。


「実は折り入って相談があってな」


 そ、相談!? あたしたちに? 領主様が!?

 いきなりのことで言葉が出なかったあたしの代わりに、ユフィが話を続けてくれる。


「それは私たち、釣りギルドに関するお話ですか?」

「もちろん、そうだ。ユフィは知っているが、ミコトには話したことはなかったな。私には娘がいる」

「シルキー・ジルクニフ様。私と同い年でしたよね」


 へぇー、クライブ様にも娘がいるんだ? まあ、いても不思議ではないよね。跡継ぎは必要なわけなんだし。


「ああ。そのシルキーが魚料理に興味を持ってな……」


 それはいいことじゃん。領主が家族で釣りギルドを推してくれる。そうなったら最高なんだけど……領主様の顔色はちょっと暗いな……。


「ただ、興味の持ち方があまり好意的ではないと言うか……。魚は美味しくない、体にも悪いものだと言い張ってな。私に釣りギルドへの推薦を取り下げるよう迫るほどなのだ」

「……それを鵜呑みに?」

「するわけがない。ミコトの話を聞いて、単にわたしたちの魚への知識が足りなかったのだと痛感した。それに何より、魚の魅力は私がこの身を持って経験した。魚が美味な上に有益なものだと言う認識に揺るぎはない」

「では、私たちに何をしろと?」

「シルキーにもそれをわからせてほしい」


 ほほぅ……。それってつまり、お宅のお嬢さんに魚食わせろって話ですか?


「今回は期日を設けないでおこう。そちらのタイミングで構わない」

「いい魚が釣れたらシルキー様に召し上がって頂く。そう言う形でいいんですね?」

「ああ。それと、私も一緒に頂く予定だ」


 それって……クライブ様が魚食べたいだけじゃないよね? まあ、普通に考えて父親も同席した方が娘さんも安心して食べられるけど。


「どうだろう? 引き受けてはもらえないか?」

「どうする、ミコト?」


 面倒な話だけど、正直このまま放置しておくのは良くないと思う。影響力のある人間から悪いイメージを持たれたままってのは、今後の活動に支障を来すと思うんだよね。

 逆に言えば、娘さんからの信頼を勝ち取れば、あたしたち世代の子たちに広める時に大きな力になってくれるんじゃないかな。インフルエンサーってやつだね。


「もちろん、引き受けますよ。て言うか、これがギルド活動ってものですよね」

「そうとも言えるな。だから、報酬はしっかり用意しておくぞ」

「こっちもそれに見合った魚料理をご用意しますね」

「ああ、頼む。では先に、娘を紹介しておこう。少し待っていてくれ」


 そう言って、クライブ様は部屋を出て行った。その隙にってわけじゃないんだけど、単純に気になっていたから聞いてみた。


「ねえ、領主様の娘ってどんな子なの?」


 珍しくユフィが顔を曇らせて「うーん……」と唸る。何だろう? そんなにも捉えどころがない子なのかな?


「一言で言うと……絵に描いたようなお嬢様、かな」


 ……それ、あなたが言います? ユフィも大概、絵に描いたようなお嬢様だからね?


「領主様の娘だし、こんなことはあんまり言いたくないけど……面倒と言うか、気難しいってイメージかな」

「もしかして……あんまり仲良くない感じ?」

「そう言うわけではないんだよ。ただ、向こうは領主様のご令嬢で、私は弱小貴族の娘。友達みたいに仲良く、とは立場上いきにくいんだよね」


 なるほどな。貴族も貴族で大変なんだ。


「待たせたな、二人とも」


 クライブ様の声にすぐさま立ち上がるユフィ。

 ああ、そっか。目上の人に立たせて、こっちが座ったままじゃ失礼だ。そう言うとこ、素早く反応できるのが育ちのいい証拠なんだろうな。


 あたしもユフィを見習って立ち上がり、頭を下げた。

 領主様の隣に立つ女の子はユフィよりも少し背が高い、可憐な美女だった。ユフィと同い年、あたしの一つ下ってことだけど、正直彼女の方があたしより大人っぽいと思う。

 温室育ちの真っ白で透き通った肌。紫紺の髪は丁寧に編まれていて、きっと毎朝メイドさんにやってもらってるんだろうな。気品溢れるそのドレスも、メイドさんに着させてもらってるんだろう。

 そんな情景が簡単に想像できるくらいにお嬢様オーラは高い。


「シルキー、彼女が釣りギルドのマスター、ミコトだ」


 慌ててあたしはもう一度、頭を下げておいた。


「は、初めまして! あたしはミコト・ハマナです」

「……どうも」


 こっちを一瞬だけ見た娘さんは小さく呟いただけで、すぐに視線を余所に向けられてしまった。ただそれは、お高く留まっているとか不愛想って印象は受けなくて、もしかしたら人見知りなのかな、って言うのがあたしが抱いたイメージだ。


「シルキー様、こんにちは。ご機嫌麗しゅうございますか」

「ユフィ、お久しぶりですわね。最近、社交界では見掛けなくなりましたもの」

「……そうですね」

「ああ、そうでしたわ。スタインウェイ家が呼ばれること自体が少なくなったのでしたわね」


 おおぉ……! 正に……! 正に、絵に描いたようなお嬢様じゃん! 声上げて笑ったらさ「おーっほっほっほっほ」って言いそうだよ! ユフィの言葉は正しかった!


「ですが、スタインウェイ家のような貴族でも奇天烈な思想をお持ちの方を雇えば、ギルド設立もできてしまうと言うわけですわね。どうです? 十六で全く新しいギルドの発足メンバーになれたこと。さぞ、気分のいいことでしょうね」

「そう言うことは全く……」


 この子、ひょっとして……ユフィに嫉妬してる?

 多分、あたしたちくらいの年齢でギルドを、しかもまだ世になかったギルドを設立させるって凄いことなんだ。この感覚は間違ってないと思う。だって、起業するようなもんでしょ? 女子高生が。


 だとしたら、魚料理にケチ付けた理由もちょっと変わってくるんじゃないかな。この子は魚ってものを信頼していないんじゃなくて、ユフィがギルドを作ったってことが単純に悔しくて、それを潰してやろうって思ってるのかも……?


「こら、シルキー。ユフィはお前の不安を払拭しようと依頼を受けてくれたのだ」

「お父様! 私は魚なんて絶対に食べませんわ! あんなもの、卑しい身分の者が食べるものではありませんか!」


 おいおいおいおい、ちょっと待ってよ、お嬢様。今、なんつった? 魚が何だって?


「あの、シルキー様。あたしからも少しいいですか?」

「何?」

「まず初めに言っておきたいんですけど、あたしはスタインウェイ家に雇われたんじゃありません。あたしはユフィの友達です」




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引き続き宜しくお願い致します。

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