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友達




 大物ゲストの登場に沸いたあたしたちの許に、一つの人影が近付いて来ていた。最初は川を散歩している人なのかな、程度にしか思っていなかったんだけど、その人が赤い髪だとわかった途端、その正体がはっきりした。


「アサカさーん」


 と、手を振ると、向こうも大きく左右に手を振ってくれた。ユフィも軽く跳ねてアピール。そんな中で一人だけ全然違う反応を見せた人がいた。


「あ、アサカ!?」


 クールなキーナさんが素っ頓狂な、かなり大きめの声を出して驚いていたんだ。

 そして、驚いていたのはどうやらアサカさんも同じだったみたい。


「キーナ!? キーナやんか! あんた、こんなとこで何してんの!?」

「私は彼女たちの釣りを見学させてもらっていたの。アサカは何しにここへ?」

「うちはミコっちゃんとユフィ様に用事があってな。屋敷に行ったらネリスタ様から川へ行ったって聞いたから、こうやって探してたってわけ」

「アサカの知り合いだったのね」

「キーナもやん」

「私は今日、森で狩猟ギルドの手伝いをしている時に初めて会ったの。アサカがスタインウェイ家御用達のギルドだとは知ってたけど、釣りギルドとも親交があるとは思わなかったわ」

「それは最近。てか、ギルドの立ち上げ自体最近やしな」


 と、二人の話はまだまだ続きそうだったので、あたしはやむを得ず割って入ることにした。


「お、お話し中すみません! えっと、二人は知り合いなんですか? もしかして、アサカさんが前に紹介してくれようとしてた船乗りって……」


「そう、キーナのことやで」

「知り合いと言うか、腐れ縁と言うか、私たちはスクールの同級生だったのよ」

「こいつ、クラスの委員長」

「あなたはクラスの問題児でしょ。アサカのせいで何度、私が怒られたか……」


 う、うわぁ……めちゃめちゃ想像できる……。


「あれ? でも、スクールって通わなくてもいいんですよね?」

「ユフィ様が通っているような貴族のスクールはそうだけど、私たちみたいな平民のスクールは教育施設に通って学ぶの」


 普通の、あたしが通っていたような学校もあるのか。


「卒業してからはお互いギルド入って、仕事でも繋がるようになって、今や飲み友達ってわけやな」

「私はただの介抱役でしょうが。酔っ払ったあなたの」


 それもめっちゃ想像できる……。けど、文句言いながらも面倒見ちゃうんだろうな、キーナさんは。


「あれ? アサカさんはミコトに何か用事があったんじゃなかったの?」

「ああ、そうやった。ミコっちゃんには釣り糸のクリエイトを頼まれててな。それの試作品を見てほしかってん」


 釣りの三大アイテムと言えばロッドと針、そして釣り糸じゃないだろうか。それに虫を付ければ餌釣りができるし、針に毛を巻けばテンカラ釣りができる。


 あたしの世界ではラインの素材には三種類あって、ナイロン、フロロカーボン、PEの三種類だ。この三種のラインにはそれぞれ特徴があって、その特徴に合った場面で使い分けるのが重要なことだ。


 この世界にも釣り糸として使えるラインがあるんだけど、特徴としてはナイロンに近いものがある。釣りがない世界なのに、何で釣り糸にもなるようなものを製造しているんだろうって不思議に思って聞いてみたら、これはテグスって言うらしい。


 それで思い出したんだけど、実はお祖父ちゃんも釣り糸のことをテグスって言ってたんだ。

 で、このテグスは物を縛ったり、纏めたりする時に使われるそうだ。透明で見えにくい糸だから工芸品や裁縫なんかに利用されるとか。あと、医療だと手術の際の縫合に使われるのもテグスらしい。


「へぇー、凄い! めちゃくちゃ細くなってるじゃないですか!」

「せやろ。しかも、強度はそこまで落ちてへん」


 けど、釣り糸として使うには若干太かった。使えないってことはないんだけど、今日みたいな渓流釣りとか小物狙いとか、繊細な釣りをする上では役に立ちそうになかったんだ。

 だから、これをもっと細く作れないか頼んでみたんだ。


「テグスって釣りにも使えるのね」

「キーナさんも航海ギルドで使ったりするんですか?」

「そうね。船を係留するロープの補強に使ったりするわ。あと、狩猟ギルドだと畑の上にテグスを張って、鳥から作物を守るそうよ」


 あっ、それ、お祖母ちゃんがやってた。お祖母ちゃんは小さな畑で自家菜園してて、カラス対策としてお祖父ちゃんの釣り糸を畑の上を囲むように張り巡らせていたんだ。

 ただ、びっしり畑の上を釣り糸で覆ってたわけじゃないんだ。大雑把に、適当な間隔で張ってただけ。これで効果あるのかなって子供のあたしは思ってたんだけど、


「鳥って透明なテグスがかなり見えにくいらしいわ。見えない何かに引っ掛かれば鳥じゃなくたって警戒する。目に見える対策も有効だけど、鳥も賢いらしくてすぐに慣れちゃうそうよ」


 目に見える対策でよく見掛けるのはCDとか目玉の風船とかじゃないかな。あれをぶら下げておく。カラスの模型を置くと仲間が捕まったと思って近付かなくなることもあるんだとか。

 幼い頃、お祖母ちゃんが「カラス一匹捕まえたら、殺して畑に吊り下げておくんだけどねぇ」と呟いていたのがマジで怖かった。補正効果で「イッヒッヒッヒ……」ていう笑い声が聞こえた気がしたし。

 あっ、でもこれも、成長してから調べたんだけど効果的な対策の一つらしい。カラスは仲間意識が高いらしく、模型と同じで仲間がやられたから近付くのは避けるようになるんだとか。

 けど、見た目が残酷なのと臭いとか虫が集るとかで、実際にやる人はそこまで多くないんじゃないかな。


「テグスっていろんな使い道があるんですね」

「そんで、こっちが色付きテグス」

「おおぉー! これも凄い! あたしが思ってた通りのものです!」


 次に取り出されたラインはうっすらと茶色く染まっている。釣り糸って言うとみんな、透明なものを思い浮かべそうなものだけど、実は色の付いたものもあって、その色のバリエーションも結構多いんだ。


 て言うのも、いくら透明って言っても完全に見えないわけじゃないよね。単純に無色、色がないってだけ。特によく晴れた日なんかには、きらきら光って逆にラインが目立ってしまうこともあるんだ。

 だから、ラインに色を付けて、光の反射を抑えるって言う工夫が生まれたんだ。


 あと正直、魚の色彩感覚ってまだよくわかってないらしいからね。何色がよく見えて、何色が見えないとか、わかっていない部分が多い。だから、派手なラインの色でも普通に釣れたりするからね。


「こんな薄いブラウンでいいの?」

「ミコっちゃんのオーダーは『泥水みたいにお願いします』やったけどね」

「ええ……泥水……?」


 ひ、引かれた!? けど、色合いとしてはそれが一番伝わると思ったんだよ!


「ユフィに聞いたんですけど、これから暖かくなるにつれて、あんまり天気が良くない日が続くって」

「ええ、そうよ。暖かい空気と冷たい空気の力が等しくなって、簡単に言えば膠着状態に陥るの。その場合、長雨に晒されることになるわね」


 つまりこれって、梅雨前線。梅雨入りだ。


「雨が降ると海や川の水は濁る。この濁った水に無色のラインを浮かべると違和感になる。じゃあ、その濁った水によく似た色のラインを入れたら……」

「その色に隠れる! 同化するってことやん! それで泥水ってオーダーやったんか!」

「別に泥水が好きなわけじゃないですからねっ」


 これでラインの太さ、色の種類も増やせるってことだ。ラインは釣りをしていて一番消費するもの。これが増産できるだけじゃなくて、そのバリエーションも選べるってなるのは、これからの活動にも大きな力になるよ。


「じゃあ、アサカさん、報酬は後日お支払いしますね」

「ええー、そんなんええのに」

「ダメです。これからはあたしたちもギルドとしてちゃんと活動していくんですから、そこは対等にお願いします」


 そのために支援金も貰ってるんだからね。お金のことはきっちりしておかないと。

 まあ、この辺はギルド設立にあたって、ネリスタさんにキツく教え込まれたんだけどね。


「はいよ。けど、キーナに会えてちょうど良かったわ。今日、キーナに釣りギルドの話をしようって思っててん」

「もしかして、キーナさんの用事って……」

「そうよ、アサカに誘われていてね。確かにちょうど良かったのかも」

「です、です! 今ちょうど、とびっきり美味しい魚が釣れたんです! 美味しいご飯作るので、食べながらお話しませんか!?」


 二人とも急に目を輝かせて、友達ならではの阿吽の呼吸でハモるのだった。


「マジで!?」




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引き続き宜しくお願い致します。

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