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大物ゲスト



 結局、上流では何も釣ることができず、あたしたちは河口へと向かっていた。一筋縄ではいかないのが渓流釣りってもんだ。まあ、あたしの経験不足もあるんだけどね。

 あたしが釣りを憶えたのは海。お祖父ちゃんの家にいた頃は海釣りがメイン。実家に移り住んでからは海が近くになかったから、川での釣りがメインになった。ただ、川釣りって言っても渓流じゃなくて、河川敷でブラックバスやコイを釣っていたんだ。

 だから、渓流釣りってほんと数えるくらいしか経験ないんだよね。


「残念だったね、ミコト」

「うん。でも、魚は何匹か確認したから、いるのはいるよ。もう少し夏に近付いたら活性も上がって、釣れるチャンスも広がると思うよ」

「じゃあ、夏にリベンジだね」


 その時までには渓流用のアイテムを手に入れておきたいな。


 渓流でのルアーって言ったらスプーンだ。その名の通り、食器のスプーンの先っちょみたいな楕円形の湾曲したルアー。

 実はこれ、ルアーの元祖とも言われるもので、昔々ボートの上で食事をしていた釣り人が誤ってスプーンを落としてしまったんだ。それにトラウトが食い付いたことで、これはもしかしたら魚を釣る道具になるんじゃないか!? そう考えた結果、生まれたのがスプーンって言うルアーなんだとか。

 諸説あり、らしいけど。


 あと、渓流での釣りでイメージされやすいのはフライフィッシングじゃないかな?

 毛針って言う疑似餌を使う釣りで、イギリス発祥の釣りだ。あんまり釣りを知らない人でも、投げて戻して、投げて戻して、投げて戻して、そしてキャストする。あの独特の動作は知ってる、って人はいるかも。

 ただ、あたしはフライの経験はないんだよねぇ。いつかやってみたいとは思ってたんだけど、そっちにお金を割くほどのお金はなかったのだよ……。


 けど、フライはちょっと無理でもテンカラくらいなら、何とかこっちでも作れるかも……?

 テンカラ釣りって言うのは、フライの日本版だ。凄くシンプルな仕掛けで、延べ竿と糸と毛針だけ。リールも使わないんだ。すぐできそうじゃん、って思われそうだけど、毛針がな……。

 毛針はその名の通り毛の付いた針。主に鳥の羽根なんかを使うそうだ。そして、ルアーとは違って、それを自作する人も結構多いんだとか。だから、生み出せないことはないんだろうけど、あたしは毛針の実物を見たことがないんだ。だって、やったことないから。

 釣り番組とか釣り動画でしか見たことない。つまりは正解がよくわかんないんだ。そんなものをアサカさんに作ってって頼むのは、ちょっと酷だよね……。


「ミコト、さっきから何ぶつぶつ呟いてるの……?」

「ああ、ごめん! 声に出てた?」

「もうすぐ河口だけど、何の釣りをするの? やっぱりキーナさんにも釣れてるところを見てほしいから餌釣り?」

「それもいいんだけど、やっぱり迫力も見せたいんだよね。だから、ルアーで大物狙いでどうかな?」

「いいと思う!」


 メインターゲットはスズキ。セイゴやフッコサイズじゃなくて、スズキだ。あの豪快なエラ洗いを是非とも見てほしい。

 もちろん、チヌやキビレなんかのゲストも大歓迎だけど。



 今朝、釣りを始めたところよりももっと海側。川が海に注ぎ込む、その合流地点にまでやって来た。そこは川幅がうーんと広がり、砂利道だったのが細かい石の混じった砂浜に変わっていた。

 キーナさんはまだ来ていないみたいで、あたしたちはとりあえずルアーを選んでいた。


「ユフィはメタルバイブ?」

「うん。今度はエリアが広いし、素早くサーチした方がいいかなって」


 もう考え方までしっかりアングラーだ。


「そこはあたしも賛成。じゃあ、二人で手早くサーチしますか」

「……今更だけど、このルアーの一つ一つってミコトがお金を出して買ったんだよね?」

「そうだよ?」

「それを使ってもいいのかなって、引っ掻けてなくしたらどうしようって思っちゃうんだけど……」

「結局ルアーも消耗品だからね。なくなるのは仕方のないことだよ。確かに高いルアーもある。けど、ユフィが使ってるそれ、百円――じゃなかった、百フィルだよ」

「えっ!? そうなの!? 百フィルでこれ、買えるの!?」


 頷くあたし。

 そう、そのメタルバイブは百均で買いました。


 実は最近、百均でも釣り具を扱うようになってきたんだ。山ガール、ソロキャン、みたいにアウトドアが注目される中で、釣りもそれに含まれてきているみたい。

 ルアー以外にも仕掛けや錘、針なんかの小物も百均で手に入るようになったんだ。百円にしてはそれなりに作られているし、百円だからなくしちゃってもそこまでの痛手じゃない。

 だから、結構あたしも百均ルアーは買ってたんだ。このメタルバイブは元々メタリックな無地の銀色だったんだけど、マジックで色を付けたお手製。


「だから、あんまりそう言うのは気にしなくていいよ。飾るために買ったんじゃないんだからさ。それで魚を釣るために買ったんだ。使ってなんぼ、だよ」


 同じくあたしも百均メタルバイブをセットして、夕日に向かってキャストした。


「ミコト、ユフィ様。遅くなってごめんなさい」


 釣りを始めてから数分、キーナさんがやって来た。猟銃は持っていなくて、手ぶら。あの銃は借り物だったのかな。


「いえ、あたしたちも始めたばかりなので。あのイノシシ、どうなったんですか?」

「狩猟ギルドのメンバーが仕留めたわ。手伝ったお礼に肉をわけてもらう予定よ。良かったら、ミコトにも少しあげるわよ?」


 イノシシ肉か……。一回だけ食べたことがあるんだよね、小さい頃だったけど。その時の記憶だと、あんまりクセのない、ローストビーフみたいな脂の少ない赤身のお肉だったような……。


「頂けるのなら是非食べてみたいです!」

「わかったわ。それで、釣りって言うのは、その棒に糸を括り付けて、キラキラした小さな鉄板を放り投げるもの、でいいのかしら?」

「うーん……その解釈はちょっと違うくて……――」


 あたしは釣りのことを、時には実践も交えて説明していった。

 やっぱり普段から船乗りとして海に出ているお蔭か、理解度は速いような気がする。魚って言うのは大体こんなもの。そう言う知識の土台があるから、呑み込みが速いんだろう。


「へぇー、面白いのね。餌釣りは狩猟で言うトラップに通ずるものがあると思うわ。餌を吊るして獲物が掛かるのを待つ。けど、ルアーフィッシングはまた別物よね。偽物の餌で獲物を誘き寄せる。餌がないわけじゃないのに、わざわざ偽物を使う辺りが特に興味深いわ」

「餌って消耗が速いんですよね。一度食い付かれたらほぼ使えない。けど、ルアーは頑丈だから、ちょっと噛まれたって平気でまた使えます。ガンガン荒っぽく使っているように見えて、効率的なやり方なんですよ」


 と、言葉だけは大層なことを言っているけど、全く以って反応がない。それはユフィも同じようで、キャストに焦燥が現れているように見えた。


 こんな一級ポイントでこの時間……。魚がいないってわけはないと思うんだよな。レンジが違うのか、それとも……。


 岸際をキャストしながら歩いていると、浅瀬にいた小魚たちが驚いて、ぶわーっと逃げていくのが見えた。その小魚は多分……ハゼだ!


「ミコト、ルアーチェンジ?」

「うん。今、ハゼっぽい魚が見えたんだ。あれがボトムに溜まってるんだとしたら、メタルバイブの動きはハゼに似てない。サイズ感も全然違うしね。だから、ハゼに寄せるためには……」

「えっと、それは……ジグヘッドリグにシャッドテールワームだ!」

「そう、正解」


 ジグヘッドって言うのは釣り針の先端に錘が付いた、針と錘が一体化したものだ。それにシャッドテールって呼ばれるワームをセットする。これはテール、尻尾が水噛みのいい形になっていて、泳がせるとぷるぷると小刻みに尻尾を振ってくれるんだ。

 生命感のある動きをするから汎用性が高くて、いろんなリグに使われるワームだね。サイズ違い、色違いをあたしもたくさん持ってる。


「で、こうやって餌となるベイトの種類や大きさにルアーを合わせることを、マッチザベイトって言うんだね。ハゼはボトムをぴょんぴょん跳ねるように泳ぐ魚。だから、メタルバイブの動きだと違和感があるんだよね」


 シャッドテールに変えてキャストすると、まずはボトム付近をゆっくりとただ巻きでサーチ。反応がなかったから今度はボトムで一度動きを止めて、また巻く。ストップ&ゴーを試す。


 ルアーを変えてから数投後のことだ。


「アタリだ! けど、この感じはまだ……」


 手応えとしてはあんまり大きくない。尻尾を齧ったって感じかな? アワセたい気持ちを抑えて、ここは堪えつつ……。


「今だっ! よっし、乗った!」


 ロッドが大きく撓った。強い引きってわけじゃないんだけど、手応えが結構ある。ずっしりと、重量感があるって言えばいいのかな。


「ゆ、ユフィ様、これは魚が掛かったと言うことですか?」

「そうだよ。あのルアーに魚が食い付いて、針に引っ掛かったんだ。ここからは魚との綱引きみたいなものかな」

「な、なるほど……!」

「シーバス、なのかな……?」


 いや、ボトムで食ったからシーバスじゃないと思うし、引きもそんな感じじゃない。マゴチか……最悪エイとか?

 都会の河口部でもエイが釣れることはよくある。しかも、釣れたらかなり厄介だ。釣れるエイは大体がアカエイで、このアカエイの尻尾には毒針がある。慎重に針を外さないと刺されるし、刺されたら最悪死ぬこともある危険生物なんだ。


 エイだった場合も考えて、二人とはちょっと距離を取っておこう。


 あたしは少し下流に移動しつつ、掛かった獲物を誘導する。その距離がだいぶ縮まった頃、夕日に染まる水面に黒い平たい影が見えた。


「んんっ!? これって、まさか……!?」


 驚きと喜びで、あたしは一気にリールを巻き上げる。網のことなんか忘れて、力強く引っ張り上げていた。


「よっしゃー! (ひらめ)じゃん!」


 漢字だと平目とも書く、誰もが知ってる平たいお魚。その美味しさもよく知られているよね。和食だけじゃなく中華や洋食でも使われる、高級魚だ。

 似た魚に鰈がいるのも、みんなご存知だよね。見分け方も割と有名じゃないかな。左ヒラメに右カレイ。お腹を手前に向けて置いた時、頭の向きがそうなるってやつだ。

 あと、歯にも違いがあってヒラメは小魚なんかを捕食するから、大きな口と結構刺々しい牙を持ってる。けど、カレイはイソメとかの虫を好んで食べるから小さい口なんだ。


「うええっ!? 何これ、ミコト!? こ、こんな平べったいのも魚なの!?」

「わ、私も初めて見るわ……。えっ? 魚ってこんな形だった……?」


 だよね。魚知識ゼロの人たちからしたら、まずはそのフォルムに驚くよね。何かある意味、新鮮だ。もっといろんな魚を釣って、いろんな魚を見せてあげたくなる。


「これはヒラメって言う魚です。ちょっと変わった姿をしてますけど、めちゃくちゃ美味しい魚なんですよ」


 そして、ヒラメを釣るのはこれで四度目。認知度は高い魚だけど、釣りやすい魚かって言えばそうじゃないんだ。正に大物ゲストのサプライズ登場だ。


 サイズは三十オーバー。当然、キープだ。今日はこれを使って、何を作ろうかなぁ。


 釣りから料理へ。あたしの思考回路は急激にシフトチェンジするのだった。




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引き続き宜しくお願い致します。

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