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狩猟ギルド



 お昼ご飯を食べ終えてから、あたしたちは川沿いを歩きながら上流部の森に向かっていた。その途中でも気になったポイントにはルアーを通してみて、アタリがなければまた歩く。これがランガンってやつだ。


 あの橋から十五分くらいは歩いたかな。少しずつ周りの景色が変わってきて、だだっ広い河川敷だったのが木々に囲まれるようになってきた。


「あそこ、誰かいるね」


 ユフィが指差す先、鬱蒼と茂る森の前に何人かのグループが見えた。


「あれが狩猟ギルドかも」

「だ、大丈夫かな? あたしたち怒られたりしない?」

「大丈夫だよ。別に悪いことしてるわけじゃないんだし」


 狩猟ギルドって言うからには武装してるよね? 何か怖いんだよな……。アサカさん以外のギルドの人と会うのは初めてだし……。


 そんなあたしの緊張なんて気にも留めないで、ユフィはすたすたと歩いていく。あたしはそれに一歩遅れつつも、できるだけ堂々と歩いている……つもりだ。

 これでもギルマスだしね、一応。


「こんにちは」

「ああ、こんにちは……って、ユフィ様!?」


 こっちの挨拶に振り向いたのは六人組のグループだった。その人たちはユフィを見るなり、目を見開いてびっくり。そりゃそうだよね。こんなとこに貴族のご令嬢が来るなんて思ってもないだろうし。


「し、視察か何かで……?」

「いえ、こちらもギルド活動です。私たちも森に入るので、狩猟ギルドの皆さんにお会いできたら挨拶をしておきたいと思っておりました」


 おおー。外行きユフィだ。

 いつもは年相応の女の子だけど、こう言う大人な対応を見せられると、やっぱり貴族なんだなって思ってしまう。


「ギルド活動? ああ、確かユフィ様もギルド活動を始められたと。領主様に聞いた話では魚を捕獲して利用するギルド、だとか?」

「はい。釣りによって魚を捕獲し、それを私たちの生活を豊かにするための礎の一つにする。それが私たち釣りギルドです」


 細かいことはクライブ様とロイドさんが決めてくれたから、あたしとしては初耳なんだけど……釣りギルドの名目ってそんな感じなのか。確かに「魚釣って食べまーす」じゃ、こっちの人に引かれるよね。だから「利用する」「生活の礎の一つ」って言葉にしておいたんだろうな。


「いいギルドだと思います。魚はたくさんいますからね。これの利用価値がわかれば、街だけでなく国も豊かになるでしょう」

「ご期待に副えるよう、頑張ります」


 って言いつつも、誰も魚を食べてみよう、ちゃんと料理してみようって思わなかったわけだ。貴族のユフィの手前、こうは言っているけど、結局のところこの世界の人たちは、魚に関しては食わず嫌いなんだ。


「皆さんはこれから狩りを?」

「はい。畑を荒らしていたイノシシがこの森に逃げ込んだと聞きましてね。ユフィ様たちも森に入るのなら十分お気を付けを」


 狩猟ギルドの人たちはみんな、肩に猟銃を掛けていた。

 猟銃を見るのは初めてじゃない。お祖父ちゃんの家は海も近いけど山もすぐ傍にあって、猟師のおじさんたちを見掛けることは何度もあったんだ。だから、別に怖くはないんだけど……。


 さすがに銃を担いだ人が六人もいると威圧感が凄いな……。


「ん……?」


 腕っ節のいい男の人たちが多い中で一人、細身の人がいるなぁって思ってたら、女の人じゃん。目深にキャップを被ってる上に後ろで髪を束ねていたから、勝手に男性だって思っちゃってた。


「私に何か?」


 で、そうやって見つめてると目が合っちゃうのがセオリーってもんだ。

 切れ長の青い瞳の人はあたしを睨むように、照準を合わせた。


「い、いえ、そうじゃなくて……。女性でも狩りに行くんだなって、驚いたと言うか、感心して……。何か、ごめんなさい!」


 とにかく謝れ。頭と体がこの答えで一致していた。だから、頭を下げることに対して何ら躊躇いもなかった。

 我ながら思う。めっちゃ綺麗なお辞儀やん、と。


「あ、ああ、こちらこそ、ごめんなさい!」

「……へっ?」


 下げた頭の天辺から聞こえてきたのは、恐縮しきった声だった。


「睨んだわけじゃないの。私、森の方に来ることって滅多になくて、今回はギルドの繋がりで仕方なくって言うか……。ああ! 嫌々来たわけじゃないから!」

「は、はあ……」


 多分、二十代前半、アサカさんくらいの歳かな? 見た目、めっちゃカッコいいのに慌てふためくところは可愛くて、これがギャップ萌えなのかと痛感してしまった。


「あ、あたし、ミコト・ハマナって言います。お姉さんは?」

「私はキーナ・ガシマ。よろしくね、ミコト」

「キーナさん……。はい、よろしくです!」


 いきなり名前で呼ばれて、不覚にもドキッとしてしまった。だって多分この人、日本にいたら絶対ヅカ的な歌劇団でトップの男役やってるもん。女子高にいたら王子様扱いされるんだろうな。


「川を上っていくのよね? 私たちも川沿いを探索するつもりだから、何かあればすぐ助けを呼んで」

「ありがとうございます。キーナさんもお気を付けて」

「ええ、それじゃあ」


 軽く手を振って、キーナさんたち狩猟ギルドの人たちは森へと入っていった。

 イノシシか……。昔、お祖父ちゃんちの裏の山で見掛けたことがある。中型犬くらいの大きさで、あんまりデカくはなかったけど、目が合った時は血の気が引いたのを憶えている。

 その時はイノシシの方があたしにびっくりして、向こうが逃げてくれたから事なきを得たけど。


「さて、ユフィ。ここからは少し川から離れて歩こうか」

「うん。けど、何で?」

「川の魚って海の魚に比べると警戒心が高いんだ。ほら、水が綺麗だし深場もそんなに多くはない。あたしたちから魚が見えるってことは、魚の方からもあたしたちが見えるってこと。だから、できるだけ気配を消して歩いた方がいいんだよ」

「音も立てない方がいい?」

「そうだね。意識しすぎる必要はないけど、極力大きな音は出さない方がいいね」


 森に入ると少し涼しくなったような気がする。陽射しが遮られて、森の奥からは清流の湿気を含んだ優しい風が吹いてくる。川の釣り、特に渓流釣りって自然の中に溶け込める感じがあって、海釣りとはまた違う良さがあるよね。


「ミコト、お喋りは大丈夫?」

「この距離なら普通に話して大丈夫だよ。何か質問?」

「仕掛けはルアーのままだけど、森の中でもルアーをするの?」

「一応そのつもり。けど、もっと上流ってなるとあたしが持ってるルアーじゃちょっと無理かなって思ってるんだ。渓流に適したルアーじゃないからね」


 あたしが持っているルアーは海での釣り、川だとブラックバスを想定したチョイスになっている。ほとんどが大きな魚をターゲットにしたアイテムってわけ。

 渓流釣りだとメジャーどころはアユ、アマゴ、イワナってあたりかな。これを釣るってなると、専用の仕掛けじゃないとちょっと難しい。


「餌釣りもありなんだけど、ラインがちょっと太すぎるかも知れないね。さっきも言ったように川魚は警戒心が高いから、仕掛けも繊細なものになるんだよ」

「何か、ざっくりとした言い方になっちゃうけど……海より川の方が釣りって難しい?」

「うーん……! それは難しい質問だね。海って広いから魚の種類も量も豊富なんだよね。だから、釣れる確率で言えば海の方が高いのかも。けど、さっき釣ったコイなんかは釣り針に食パン付けて浮かべてるだけで、すぐ釣れちゃうよ」

「釣る魚によって難易度が変わる。そんな感じかな?」

「そうだね。海にも川にも、レアな魚はたくさんいるよ。存在は知ってるけど、難易度がめちゃくちゃ高すぎて釣ったことのない魚なんて一杯いるからね」


 マグロでしょ? カジキ、アカメ、クエ、GT、イトウなどなど……。釣ってみたい魚なんて、言い出せばきりがない。


「けど、まずは目の前の一匹に照準を合わせる。この川の、このエリアにはどんな魚がいるのか。それを探索することはアングラーとしても、ギルドとしても重要な活動内容になるよ」

「じゃあ、そろそろ……!」

「うん。キャストしてみようか」


 ギルド活動とか大層な名目を語っているけど、結局はあたしもユフィも、単純に釣りがしたいだけの釣りバカなんだと思う。




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引き続き宜しくお願い致します。

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