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ある日のギルド活動




 領主様との食事会から数日後、正式に釣りギルドが認められたとのお達しが来た。

 じゃあ、それで何が変わったかと言うと……特に何もない。街のどこかに店舗を与えられたわけでもなく、看板を掲げるわけでもなく、領主様が言っていたように本当にいつも通り釣りをしているだけ。


 これがギルド活動になるんだろうか?


 ギルドのことはギルドに聞くべきだ。そう思ったあたしは、ユフィと一緒にアサカさんを釣りに誘い、沖へと長く伸びる桟橋の先端に向かった。


「今日はここでのんびり餌釣りでもしましょうか」

「じゃーん、うちも自分専用のロッドを作ってみてん」

「こ、これって……!?」

「ミコっちゃんの竹ロッドと網から構想を得て、自分なりにアレンジしてみたんよね」

「延べ竿じゃないですか!」


 延べ竿って言うのはリールを使わない、ユフィとアサカさんに作ってあげた竹ロッドみたいな竿のことだ。竹でも作れるくらいだからシンプルなものなんだけど、アサカさんが言うように、自分なりのアレンジが施されていた。


「これ、伸縮ができる……! 網の柄の部分を応用したんですね!」


 持ち手の部分から先を収納することで、持ち運ぶ時は三十センチくらいの長さ。でも、それをビューンと伸ばすと二メートルほどの竿に早変わりってわけだ。

 これはあたしの世界では普通にあるタイプの竿だけど、それを見たことがないアサカさんがあたしの話と自身の想像力で作り上げたのは、毎度のことながら凄いとしか言いようがなかった。


「今日は何を釣るの?」

「今日はターゲットを絞らず、別の目標にしてみようかなと思ってるんだ。それは、五目釣りだよ」

「五目釣り?」

「うん。五目、つまりは五種類の魚を釣ってみようってこと。今回は初めてだし、三人で五種類ってことにしようか」


 別にそう言う競技やルールとかがあるわけじゃない。ただ、たくさん釣れたって言う目安が五目なんだと、個人的にはそんな風に解釈してる。


 時刻は午後一時。潮が引いているタイミングではあるけど、この桟橋は沖へ長く伸びているから、先端の方でも結構水深がある。しかも、浮き桟橋だから潮位と関係なく海面との距離が変わらないのがまたいい。

 どうゆうことかって言うと、この桟橋は柱があって支えているわけじゃなく、大きな浮き輪をいくつも付けて、海に浮かんでいる桟橋なんだ。だから、潮が引けば桟橋も同じように沈むし、満潮になれば上がる。

 桟橋と水面との距離はずっと変わらないから、釣れた魚を引き上げやすいってこと。


 まあその分、波の影響を受けやすいから風が強い日や波が高い日はめっちゃ揺れるけどね。今日は風も波も穏やかだから、ゆらゆらふわふわしている程度だ。


「餌は……何や結構、種類あるな」

「五種類の魚を釣るわけですからね。五匹みんな、同じものが好きってことはないはずですよね。だから、いろんな餌を使って、いろんな魚を釣ろうってことです」

「へぇー、釣りってそう言う楽しみ方もあるんやね。このミミズみたいなんは、前にミコっちゃんに聞いたことあるで。イソメ、やっけ?」

「はい。こっちは磯で集めた貝ですね」

「んで、これは……刺身?」

「これは昨日釣ったアジを塩漬けにしたものです。海底にいる魚、根魚に有効的かなってあたしは考えてます」


 塩漬けにしたのは、身が締まって針が刺しやすくて、針から外れにくいからだ。


「この木箱の中身は……って、わぁっ! か、カニ!?」

「そうそう。そいつらは活きがいいからね。蓋のある箱に入れないと逃げちゃう。前に領主様と行った磯場に結構いてさ。捕まえておいたんだ」


 クロダイやキビレが大好きな餌の一つだ。


「攻める水深、付ける餌。それを自分で考えながら、今日は釣りをやってみて」

「おおー!」


 二人の声が重なったところで釣り開始だ。あたしは安定のイソメをチョイス。まずはこれで海の状況を確認したい。


「アサカさん、あたし釣りギルドのギルドマスターになったんですけど、ギルドって具体的には何をしたらいいんでしょうか?」


 そして、現在のあたし自身の状況も確認しておかないとね。


「ギルドって言うのは街や国から支援金を貰う代わりに、その街や国の発展に尽力する組合のことや。せやから、釣りギルドって認められたんやったら、ミコっちゃんは今まで通り、釣りで街を、フィーリアを発展させることだけを考えたらええと思うよ」

「今まで通り、か……」

「けど、これからはそこに責任が伴うけどな」

「責任、ですか?」

「領主様のお墨付きを貰った以上、その仕事に失敗は許されへん。うちの場合やったら欠陥品を作ったら、納期が遅れたら違約金を払わなあかん。それが度重なれば、ギルドの称号を剥奪されることもある」


 不祥事を起こして倒産。あたしの世界でもたまにニュースで聞く話題だ。


「せやから、釣りや魚のことをばんばん人に教えるってよりかは、まずその土台作りに専念した方がええんちゃうかな? 釣りして誰か怪我したとか、魚食べてお腹壊したとか、下手に人に広めるとこっちが想定してない失敗をしてしまう奴らが出てくるからね。んで、その失敗のツケはギルドマスターに回ってくる」

「ギルドができたからって焦って急がない方がいいってことですね。まずは安全性の確保から、かな……」

「そん通りや。ギルドを立ち上げたことによって、ミコっちゃんのことは各ギルドに伝わってる。興味持ってくれたギルドは声掛けに来るはずや。何か一緒におもろいことしませんか、ってな」


 おおー、それは楽しみだ。けど、それって何か……詐欺紛いなこともありそうで、ちょっと怖いんだけどな……。


「そう言う時に気を付けた方がいいことってありますか?」

「さすが、ミコっちゃん! 話に流されっぱなしはあかん。美味い話には裏があるって、絶対思ってた方がええよ」


 これも、あたしがいた世界ではよく聞く話だからね。


「新米ギルドはいい商品を、凄い知識を安く買い叩かれるのが普通や。提携して何か一緒に始めたはええけど、失敗したら全部こっちの責任。成功したら成功したらで、報酬は八割方向こうの取り分、とかな」

「どこの国にもそう言う人はいるんですね……って、おっ! アタリだ」

「おおー、やっぱ一発目はミコっちゃんか。それってアジやっけ?」

「そうですね。けど、小さいのでリリースします」


 アジは回遊魚。潮が引くとそのタイミングで普通は沖へと流れていくんだけど、この桟橋の日陰が気に入ったのかな? あの子はここに残ってたのかも。

 その証拠に連発はしない。やっぱり群れ自体は沖に行ったんだろう。


「支援金ってどれくらい貰えるものなんですか?」

「そのギルドの活躍次第やね。新米ギルドやと月に一万フィルが妥当なとこちゃうかな?」


 一万フィル、か。こっちでの生活も少しは慣れてきて、お金の感覚もわかってきた。フィルは円と価値はあんまり変わらない。

 あたしはユフィの屋敷でお世話になっているから、家賃や光熱費諸々が掛からない。だから、月に一万円――一万フィルはかなり大きい。


「けど、成果がないとすぐに落とされてまう……って、来たで!」

「おお! アサカさん、ヒット!」


 アサカさんお手製の延べ竿がぐんと撓る。なかなか小刻みな引きのようで、竿先がくんくんと揺れている。


「おおー、何やこれ!?」

「わ、私も初めて見たよ! な、何か……平たい魚だね」


 掌より一回り小さい、全体的に茶色い魚。特徴的なのはその口で、可愛いおちょぼ口をしている。


「へぇー、一発でこれを釣るってなかなかですね」

「そ、そうなん!? そんな珍しい魚なん?」

「珍しいって言うか、釣りにくい魚なんですよね。ほら、口が小っちゃいでしょ? だから、こいつらは餌を突くようにして食べるんです。そうすると針が上手く掛からなくて、餌だけ盗られちゃう。餌盗り名人の異名を持つ魚、カワハギです」


 結構どこにでもいる魚で、カワハギが群れになっていると最悪だ。餌を盗られまくって、本命が全然釣れないからね。

 もちろん、カワハギを狙って釣る人もいて、人気な魚でもある。


「これ、食べられるの?」

「このサイズはちょっと可哀想だからリリースだけど、美味しい魚だよ。刺身や煮付けにすると美味しくて、何よりも肝が最高に美味しいんだ」

「へぇー、食べてみたいなぁー」


 これで二種類達成だ。すぐにあたしの方にアタリがあったんだけど、これは餌を盗られて不発。もしかしたら、カワハギが結構いるのかも。


「あっ、私にも来たよ!」

「ユフィ様、餌を貝に変えたらソッコーでヒットやん」


 釣りあるあるだ。餌もそうだしルアーを変えたら、いきなりアタる。

 やっぱり魚だって同じものを食べてると飽きちゃうからね。そこで違った餌を入れてあげた方が、食い付きが良かったりするんだ。


「ゲット……って、うわぁ! 綺麗な魚だよ」

「おお、ベラじゃん。しかも、結構大きい」


 ユフィが釣ったのはベラ。大きさは十八センチくらい。エメラルドグリーンの体に黒や赤の斑点が並んでいて、見た目は熱帯魚みたいな魚だから、ユフィが言うように美しい魚だ。


「こんな色鮮やかな魚もおるんやね。美味しそうな見た目ではないけどな……」

「意外と淡泊で美味しいですよ。あと、ベラって種類が多くて、ここまで派手じゃないものもいますね」

「お、美味しいんや!?」

「サイズもいいし、これはキープしておきますか」


 ベラはスチールボックスに入れて、これで三種類目だ。

 ここであたしたちのアタリは少し遠退いた。餌をこまめに確認してみても、針に付いたまま。餌盗りの魚もどこかへ行っちゃったんだろうか。まあ、時間帯としては仕方ないことではあるんだけど。


「うん? って、うおぉっ!?」


 沈黙を破ったのはアサカさんで、そのアサカさんの竿は海に引き摺り込まれそうなほど撓っていた。


 こ、これは大物が来たかも……!




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引き続き宜しくお願い致します。

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