釣りギルド
食事会が終わると領主様は部屋を変え、あたしたちだけを客間に招いた。最初はメイドさんがお茶を運んで来てくれたけど、すぐにいなくなって、今から大事な話をするんだぞって空気がビンビンと伝わっていた。
「魚と言うものが我々人類にとって、どれだけ有益なものなのかと言うことがよくわかった。適切な処理をし、調理すればあんなにも美味しくなるとは思いもしなかったな。ミコト、この処理の方法はそう簡単に身に付くものではないのだろう?」
「いえ、そうでもありませんよ。小さい魚だったらユフィにもできますから」
氷水に漬けるだけでいいんだ。子供にだってできる。
「そ、そうなのか!?」
「マダイのような大きめの魚になると、包丁を使うことになるので、それに慣れた人なら簡単に習得できますよ。ここのメイドさんたちも、教えればすぐにできると思います」
あの人たち、ほんと手際いいからな。刺身用に大根のツマを作ってほしいって頼んだんだけど、やり方を教えたらズバババババーってソッコーで終わらせてたし。
「では、魚料理を民衆に伝えるのはそれほど難しいことではないか」
「けど、同時に危険性も一緒に広めるべきだと思います。植物やキノコなんかと一緒で、魚にも毒を持つものや、食べてはいけない部分などがあります。釣りをする時に関しても、捕獲に注意しないといけない魚もいるので」
「安易な気持ちで、楽観的に向き合ってはいけない。そう言うことだな。まずは知識を取り入れるのが先か。フィーリアの民にも、あの鯛茶漬けを食べさせたいしな」
「はい。けど、その前にもっと大事なことがあります。さっき食べてもらった料理は、マダイがいなくちゃ作れないものなんです」
本題はここからだ。海とどう付き合っていくべきなのか。もちろん海だけじゃなく、川や湖もそうだ。
「海や川などの自然環境を守る。これが特に大事なことだと思っています。あたしの国では人間たちのエゴで、海や川が汚れ、たくさんの魚が死に、生きていたとしても劣悪な環境で育ったために食べられない魚になってしまいました」
「まさか、それで争いが……!?」
「い、いえ、戦争はちょっと別の……違う理由だと思います……! あ、あたしも、子供すぎて詳しくは知らないって言うか……!」
詳しくどころか全く知らんけどね。
「け、けど、戦争も環境を破壊するものですから、早く終わってほしいと思います」
「ああ、そうだな」
「それで、ですね。あたしは以前、海にゴミを捨てている人たちを見ました。その人たちを注意したんですけど、罪悪感なんてまるでなくて、ゴミは海に捨てるのが当たり前、って感覚でした」
「そ、それは……!」
「別に咎めたいわけじゃないです。だって、魚の知識がない以上、魚って言う資源を大事にしようって意識になるわけないですもん。でも、今からそれを変えることはできる」
「海にゴミを捨ててはいけない、と言う法律を作れと?」
「それができるなら嬉しいですけど、それって簡単にできることじゃないですよね?」
当然だ、とでも言いたげにクライブ様は静かに頷いた。
だろうね。政治とか法律とかよくわかんないあたしでも、難しいんだろうなって思うくらいなんだ。多分、現実的な方法じゃない。
「クライブ様、私に一つ提案があります」
「何だ、言ってみろ、ロイド」
「まずは、魚と言うものが如何に美味であるかと言うことを民衆に知ってもらうのが一番かと。こんなにも美味しい食べ物が海にいるのだと知れば、自ずと海を綺麗に保とうと言う意識が働くのではないでしょうか?」
「なるほど。では、ミコトが料理屋でも開くのか?」
「さすがにそれは……。ミコトの人生にも係わりますからね。まあ、興味があると言うのなら応援するが」
ちらりとあたしを見るロイドさんに、あたしは苦笑いで首を振る。
いやいや、無理だから。さすがにお店始めちゃうのは無理。
「なので、釣りギルドを立ち上げさせてはもらえないでしょうか?」
「ギルドか……ふむ……」
えっ? 何、釣りギルドって? あたし、何も聞いてないんですけど!?
「ろ、ロイドさん、ちょっと意味がよく……」
「簡単に言えば、これからのミコトの活動がフィーリアから認められたギルド活動になる、と言うだけだ」
「アサカさんみたいにお店を持つってことじゃ……?」
「アサカは工房を兼ねた店舗を持ち、自分で作ったものを自分で売っているが、店舗を持たなくともギルドメンバーにはなれる。ギルドに登録されれば他のギルドとの繋がりもできるだろうし、ミコトに興味を持ってくれるギルドが増えるかも知れない。それに何より、ギルド登録すればフィーリアからの支援金が下りる」
おおう、それはデカい……! けど、それを支援金出す人の前で言っちゃっていいのかな……?
「ギルドは民衆に寄り添う集団です。まずは釣りと魚を扱うミコトに、領主様からのお墨付き、つまりはギルド登録を頂きたいのです」
「そんな回りくどいことをせずとも、私がミコトを全面的にバックアップすればいいのではないか?」
「スタインウェイ家は力を失いつつあるのに、領主様が贔屓にすれば妙な疑い、変に訝しむ貴族が現れることでしょう。そいつらが、ミコトに手を出さないとは限らない。ミコトは私の娘も同然の存在です。親として、娘を危険に晒すわけにはいきません」
この状況、上司であるクライブ様の厚意を、部下のロイドさんは無下に断ったってことなんだろう。それなのに、クライブ様はどこか満足気に笑うのだった。
「変わらないな、ロイド。お前が人を、街を、フィーリアを想う気持ちは誰よりも強いと昔から思っていた。私はそんなお前を羨ましいと思っていたよ」
「勿体ないお言葉です」
「ギルドの件、了承した。すぐにギルド管理組合に連絡しておこう。数日後には釣りギルドが立ち上がっているだろう」
「ありがとうございます」
微笑んだ領主様は、あたしへ視線を向けた。それに気付いて、思わず拳をぎゅっと握ってしまう。
「ミコト」
「は、はい」
「マダイより美味い魚はまだいるか?」
「いますよ、全然。海は広くて、大きいですから。あたしが料理したことない魚がいっぱいいます」
「そうか。では、ミコト。釣りギルドのギルドマスターとして更なる高みへと精進するといい。そして……――」
ぽりぽり。
恥ずかしそうに頬を掻く領主様。
「たまにでいいいから、私にもミコトの料理を食べさせてくれ」
照れ臭そうに言うクライブ様が可愛くて、あたしは思わず笑ってしまった。
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