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いざ、実食!




 初めて見た領主様、クライブ・ジルクニフ様は思っていたよりも若く見えた。威厳がある分、ロイドさんよりも上、四十代か五十代前半ってところじゃないかな?

 あたしは勝手にもっと高齢の、何ならお爺さんくらいの領主を想像していたもんだから、意外と言えば意外だった。


「そちらのお嬢さんがロイドが話していたスズカゼの?」

「はい。海と魚のことをよく知り、私たちにその素晴らしさを教えてくれた者です」


 こう言う時、どんな挨拶をするのが正解なんだろうか。スカートの両端を持ち上げて、足を交差させてペコり、とか? 片膝を付いて頭を下げるとか? もしかして敬礼!?


 若干のパニックに陥りつつも、あたしはとりあえず丁寧に頭を下げることにした。そもそもあたし、スカートなんて穿いてないしね。


「は、初めまして。お目に掛かれて光栄です、領主様。私はミコト・ハマナと申します」

「うむ。そう畏まらなくてもいいぞ。ロイドと話す時のように喋ってくれて構わない」

「あ、ありがとうございます」


 ロイドさんといい、上流階級の人って意外と親しみやすいよね。もしかしたら、あたしが勝手に決め付けてるだけで、本当は貴族ってフレンドリーなのかも。


「海の話も聞きたいところだが、せっかくの料理が冷めてしまってはいけない。先にミコトの料理を頂いてもいいかな?」

「はい、是非!」


 メイドさんたちがまるでコース料理でも振る舞うみたいに、一品ずつクライブ様たちの前に料理を運んでいく。最初の料理はマダイの刺身だ。


「これは……生の魚か?」

「はい。魚の名前はマダイと言って、海の王様と呼ばれています。加えて、あたしの国ではおめでたい席や、お祝いの時に食べられたりする縁起のいい魚でもあります」

「ほほう……。しかし、生の魚は生臭いと聞くが……」


 最初の反応はユフィやロイドさんとも変わらない。だから、あたしは最初に生で食べてほしかったんだ。魚は生で全然食べられる。生でも美味しいんだってことを最初に知ってほしいんだ。


「醤油に付けて食べるのか?」

「はい。お好みでワサビもどうぞ」

「うーん……」


 まだ不安が拭いきれないのか、箸の動きは遅い。領主様より先に食べてしまうわけにもいかないらしく、ロイドさんとユフィもその動きを目で追っている。

 いや、ユフィに限っては「待て」と命令されている状態かな。目が「はよ食えや」って語ってる気がするんだ。「やないと、私が食われへんやろが」って。


「私が頼んで、わざわざ作ってもらったものだ。ここで迷うのは失礼だな。よし、頂こう」


 決意表明をしたクライブ様は、ぱくりと一口。目を閉じて、ゆっくりと咀嚼する。


「こ、これは……!?」


 カッと目を見開いたクライブ様は、テーブルを叩き付けるようにして立ち上がる。


 えっ!? ええっ!? これ、どっちの反応!? 大丈夫な感じ!? ダメだったパターン!?


「美味いっ!」


 美味いんかーい! いやまあ、いいんだけどね、全然。


「今まで聞いていた魚の話とはまるで違うではないか。臭くて苦い。食感もどこか、ねっとりしている。そう聞き及んでいたが、これは正反対だ」

「今、領主様が召し上がったのはマダイの背中側の身になります。もう一つ、形の違う斬り方をしたものがありますよね? そちらが腹側になります」

「そんな説明をすると言うことは……味が違うのだな?」

「その通りです」

「面白い! 早速、頂こう!」


 これはユフィとロイドさんも初めての経験だ。だから、驚いた様子で二つの刺身を食べ比べていた。


「なるほど! 確かに違うぞ!」

「これは私も初めて知りました! 腹側の方が少し身が柔らかくて、甘味をより強く感じるような気がしますね!」

「同じ魚とは思えない味だね!」


 これは単純に脂の乗りの違いだ。中年のおじさんの体を想像してみなよ。お腹と背中、どっちの方が脂が乗ってるよ? まっ、そんな想像しながら食べたら不味くなるだろうけど。


「次はカルパッチョと言う料理です。これも生、刺身を使っていますが味はもう付いているので、そのままサラダみたいな感覚でどうぞ」


 もう躊躇いはなくなったみたいだ。クライブ様は料理が運ばれて来るなり箸を取り、マダイの切り身を掬い上げた。


「これはまた爽やかな味わいだな。先程の刺身とは全くの別物。サラダと譬えた理由もよくわかる。野菜と一緒に食べようが、マダイの存在は全く消えてはいない。寧ろ、この野菜たちがマダイの味わいを引き立たせてくれているようだ」


 さーて、じゃあ今度は加熱したマダイを味わってもらおうか。刺身とは全く違う、別世界へご案内だ。


「次は塩焼きか? ふむ……香りがいいな……」

「香ばしいですね……」


 塩焼きには大根おろしを添えてあるんだけど、最初は三人とも身を解してそのまま口へと運んだ。


「何と、これは……! 噛む度に広がるマダイの旨味! 淡泊な味わいでありながら零れ出る脂!」

「ま、まるで肉を食べているような感覚ですね……!」

「ああ、そうだ! 肉だ! 鶏肉のようでもあるな!」


 大人二人は大興奮だけど、ユフィはクロダイの時に経験済み。だけど、マダイの美味しさには喜んでくれたみたいで、二人には見えないように親指を立てて「いいね」をくれた。


「次は兜煮。マダイの頭を煮た料理になるんですが、マダイは一匹しか釣れなかったので一人に一つってわけにはいかないんで、大皿に盛っています」

「魚は頭も食べられるのか?」

「可食部は少ないですが、多くの魚は頭まで食べられます。他にも種類によっては内臓や精巣、卵巣、魚卵なんかも食べられますよ」

「な、何だと!? 捨てる部位などなく、余すことなく食せるものだと言うのか……!? それを私たちは……」


 邪険に扱って捨てていた。戦争とか起きて大変な時に。食べるものがなくて、困っている人たちがいるのに。


 そっか、魚の美味しさを広めることができれば、この世界の食糧不足とか食糧難を解決する手助けができるのかも知れない。


「ただし、食べるには知識と適切な処理が必要になります。魚を食べて体調を壊す。これって魚のせいじゃないんです。魚のことをよく知らなかった人間のせいなんです」

「確かに肉を食べるにも注意は必要だ。それと同じことが魚にも言える。そう言うことだな。うむ、肝に銘じておこう」


 凄いな、この人……。

 って、あたしは素直にそう思った。だってあたし、元の世界じゃ女子高生だよ? 領主ってあたしの世界で言うところの町長、市長、区長、知事みたいなもんだよね? そんな人が女子高生の言葉を聞いて、受け止めてくれているんだ。

 それって凄いことじゃないかな。


「じゃあ、あたしが身を解して皆さんにお配りしますね」

「作業中に済まないが、一つ聞いてもいいかな?」

「はい、全然大丈夫ですよ」

「きみは海と魚に詳しいそうだが、川や湖にも魚はいるだろう? それはどうなのだろうか? 食べられないから詳しくない。そう言うことか?」


 ああ。完全に忘れてた。

 いや、忘れてたって言うか、フィーリアが海辺の街だから、どうしても海ばっかりに目が向いてしまっていたんだ。


「いえ、そんなことはありませんよ。川魚、淡水魚も美味しく食べられます。なので、海がない街の人たちにも、魚の知識を広めるのはとても有効的なことだと思います」

「なるほど、そうか。フィーリアの近くにも大きな川がある。海と川の両方を活用できるのなら、街の皆の暮らしもより豊かになることだろう」


 クライブ様は本当に、フィーリアの街の人たちのことを第一に考えているんだろうな。ユフィに聞いていた通りの人だ。

 だから、そんなクライブ様に是非貰ってほしいな。マダイが持つラッキーパワーを。




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引き続き宜しくお願い致します。

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