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外道、再び……!?




 アサカさんが網を持ってやって来たのは、午後三時を過ぎた頃だった。ぱっと見た感じ、網の出来栄えは想像していた通りのものだ。

 形状としては丸型の網じゃなくて、先端の方が広がっている楕円形の網だ。網の材質はラバー。特にオーダーはしていなくて、完全にアサカさんオリジナルなのに、あたしがあっちで使っていたものとあんまり変わらないのが驚きだった。


「どない? ええ感じかな?」

「いや、めちゃくちゃいい感じですよ! 伸縮もスムーズですし、壊れにくそう」

「そっか、そりゃ良かったわ。タイラバの方はどう? 使ってみた感想聞かせてや」

「そうですね……。まだ魚は釣れてないので、正解不正解はまだわからないんですけど、使い心地はいいですね。量産するのなら、重さや大きさの違うものも作ってほしいかも」

「もっとデカくて重いもんってこと?」

「正直、両方ですね。今使ってるのが三十グラムくらいだと思うんですけど、四十、二十グラムくらいのがあると釣りの幅が広がりそうな気がするんですよね」

「ふむふむ。大きさと重さを変えるだけやったら、難しいことでもないな。よっしゃ、もう何種類か作ってみるわ」


 アサカさんには助けられてばかりだ。この恩に報いるのは、魚を釣って証明するだけだ。アサカさんのルアーは最高だってことを。


 その願いが通じたのか、ユフィのロッドがぐぐっと撓る。


「な、何か来た!」

「ナイス、ユフィ! 慌てなくていいから、ゆっくり寄せて来よう」


 ロッドの撓り具合だけを見ると、結構な大物のように見えるんだけど、ロッドにも柔らかいものと硬いものがある。アサカさんが作ったロッドがどんなタイプのもので、どこまでの強度があるのかわからない分、余計に緊張してしまう。


「早速、網の出番が来たね。ユフィ、あたしが岬の先端の方に行くから、魚をあたしの方に寄せるように引っ張て来て」

「お、オッケー、ミコト……!」


 足許付近は浅瀬だから特に網を使うような状況ではないんだけど、いざって時のために練習は必要だ。

 釣れた魚を網で掬う時、二人でやる場合は呼吸を合わせるのが大切になってくる。

 網で掬う側は、取り上げるその時まで網を水の中には入れない。じゃないと、魚が網を警戒して暴れるからだ。弱って、浮かんできたその瞬間を掬い上げる。

 ロッドを握っている側は魚をコントロールして、掬い上げやすい場所まで誘導し、掬い上げやすいタイミングを作ってあげるんだ。


「魚が浮いてきたよ。あれは……」


 見えたのは黒みを帯びた銀色の魚体。


「ユフィ、あたしの方にロッドを傾けて。そうそう。じゃあ、いくよ」


 少しだけ網の柄の部分を伸ばし、あたしが網を構えると吸い込まれるように魚が入った。


「よーし、ゲット!」

「ありがとう、ミコト!」

「おめでとう、ユフィ! タイラバでの初フィッシュじゃん!」


 先を越されてしまったのがちょっと悔しいけど、あたしはユフィとハイタッチを交わしていた。アサカさんもすぐさま駆け寄って来て、我先にと網の中を覗き込む。


「おお! これって、この間のクロダイちゃうん!?」

「ほんとだ! ちょっと小さいけど……」


 釣れたのは約二十センチほどの魚。クロダイっぽいんだけど……実は違うんだな。メゴチと同じく、クロダイ狙いのアングラーからは外道と呼ばれてしまう存在。あたし的には引きが楽しめるからゲスト扱いなんだけど。


「これはクロダイじゃなくてキビレって魚だよ」

「き、キビレ?」


 二人が綺麗にハモった。

 まあ、わからないでもない。見た目はほぼほぼクロダイだし。あたしの世界の人も、釣り人か魚好きじゃないと見分けが付かないと思う。

 それは二匹の魚が凄く似てるから、ってわけじゃなく、キビレがマイナーな魚だからだ。スーパーで並んでいるところなんて見たことないし、お寿司のネタにもない。名前すら聞いたことがないって人の方が多いんじゃないかな。


「そうそう。ほら、ヒレの先が黄色いでしょ? だから、キビレ」


 あと、クロダイに比べてちょっと顔が小さかったり、目が前寄りに付いていたりと、小さな違いはいくつかある。

 関西では釣りのターゲットとしてはそれなりにメジャーなんだけど、関東ではあんまり馴染みがなかったそうだ。けど、最近は環境の変化だとかで関東でもキビレが釣れるようになったとか。


「前のクロダイに比べれば小さい方だけど、キビレの中ではアベレージサイズくらいだよ。クロダイはもっと大きくなるけど、キビレは大きくても四十五センチくらいだから」

「こんだけ姿形が似てるってことは味の方も……?」


 にやりと笑うアサカさんに、あたしも同じような笑みを返した。


「もちろん、美味しい魚ですよ」

「ぃよっしゃー! 今夜のおつまみ頂きや!」

「残念ですが、これはリリース。逃がします」

「ええー! 何で!?」

「釣れるサイズとしては平均的ですけど、食べるサイズとしては小さいからです。三十センチくらいはほしいですかね」

「そっかぁ……。よし、お前、逃がしたるから、もうちょい大きい仲間呼んで来いや」


 あたしは声に出してしまいそうなくらい驚いた。何でかって言うと、お祖父ちゃんもよく、似たようなことを言っていたから。

 小魚を釣ってリリースしたお祖父ちゃんは、ぼそっと言うんだ。「逃がしてやるから親父を連れて来いよ」って。


 まさかその言葉を、異世界で、しかも釣りをまだよく知らないアサカさんから聞けるなんて、思いもしなかった。


「網の方は実際使ってみてどうやった?」

「めちゃくちゃ使いやすいです。ただ、一つ提案なんですけど、柄の先端にカラビナ付けることってできます? そうすればリュックに引っ掛けたりできて、持ち運びも楽になると思うんですよね」

「なるほどな。そのアイディア、頂きや」

「ユフィのロッドはさっき見た感じ、柔軟性が高いように見えましたけど?」

「そうやね。正直、硬い方がいいんか、柔らかい方がいいんか悩んだんよね。けど、実際に釣りしてみた経験を自分なりに整理した結果、撓りがあって柔軟性が高い方が、魚の引くパワーを軽減できるんやないかなって思ったんよ」


 これぞ職人、って感じがした。実際に自分で使って、感じて、そこから創造していく。カッコいいじゃん。異世界風に言えば、ギルドマスターってところなのかな。


「それは正解です。けど、硬いロッドにもメリットはあって、例えば重いルアーを扱う場合は硬いロッドの方がいいですね。柔らかいと撓りすぎちゃって、ルアーを上手く操れないんです」

「ああ、そっか! それは気付かんかったな……」

「あと、柔軟性で魚のパワーを軽減させるって言うのも正解なんですけど、硬くてパワーのあるロッドで魚を、強引に引き抜くって考えも正解ではあるんですよ」

「力勝負をする局面もあるってこと?」

「はい。特に大型の魚を狙う時とかそうですね」


 マグロとかブリとか、それくらいの大型魚種の話だけどね。マダイでも大きな個体を釣るならロッドのパワーはほしいところかも。


「だから、ロッドの硬さは時と場合。狙う魚や釣り方によって変わるし、釣り人の好みもあります。極論、いろいろ持ってて損はない、ってことですよ」

「ミコっちゃん、うちにタイラバだけやなくロッドも量産させる気やな?」

「そ、そんなことは……」


 ある。大いにある。


 だって、仕方ないじゃないか。あたしの世界だと釣り具を揃えるのに凄いお金が掛かるんだ。もちろん安価なものもある。けど、釣り具は消耗品。安いものは長持ちしないし、かと言って高価なものにはなかなか手が出せない。

 けど、ここならほぼタダ。海鮮料理を作れば手に入るんだ。あわよくば、と思ってしまうのは罪なことだろうか。


「まっ、ええけどね。最近は物騒なもんばっか作らされてたから、釣り道具を作るんは何か癒される気がすんねん」

「最近のアサカさんは楽しそうだもんね」

「そうかも知れん。何よりミコっちゃんの料理が美味すぎて、酒が進むって言うのが一番デカいけどな。美味い酒飲むにはミコっちゃんに魚釣ってもらわな」


 動機が不純な気がするけど、それはあたしも同じだから何も言えない。これが持ちつ持たれつってやつか。


「さっ、今日も美味いつまみ期待してんで!」


 景気のいい声を背中で聞きつつ、あたしとユフィはキャストを続けるのだった。




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引き続き宜しくお願い致します。

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