ミコトバーガー
今回も使う食材はシンプルにフライ、チーズ、レタスにタルタルソースだ。院長先生の提案で、タルタルに使うパセリは孤児院で育てたものを使わてもらうことになった。これも釣りギルドと孤児院のコラボの象徴になってくれるんじゃないかな。
バンズの方も上手く焼き上がったみたいだ。こんがり小麦色の柔らかそうなバンズからは、香ばしい香りが漂っていた。
さすがに一人一個って言うのは量的に難しくて、できるだけ子供たちには丸々一個食べさせてあげて、あたしたちはバーガーを切って、半分ずつ試食することとなった。
「フライにしても綺麗なピンク色なんだね」
「塩焼きは美味しかったけど、フライにしたら化けてしまうのか。あたしもちょっとドキドキだよ」
「じゃあ……頂きます」
「頂きまーす」
子供たちからも声が上がり、みんなでハンバーガーに齧り付いた。
暫しの沈黙。
それを打ち破ったのが誰かなんてわからない。ただ、誰かが小さく呟いた気がしたんだ。
美味しい、と。
けど、次の瞬間にはそれが歓声に変わっていて、孤児院の中は「美味しい!」の声で溢れ返っていた。
「美味しい! 美味しいよ、ミコト! 何これ、本当に魚なの!?」
「いや、ホンマそれな! 肉か!? ってくらいの肉汁、やないけど魚の脂が凄いやん!」
「しかも、それがしつこくないのよね。濃厚ではあるんだけど、喉越しはとてもいい。タルタルやチーズに負けない味なのに、いつの間にか消えていく」
「ですから、もう一口食べたい、と思ってしまいますわ。真の主役とはこう言うものなのでしょうね。周りを引き立たせ、去り際は静かに美しく、自ら主張せずとも誰が主役なのかは一目瞭然」
やべー。あたしたち、とんでもないもの作っちゃったよ。これ、マ〇クで出したらバカ売れするよ、絶対。そしたら、一生遊んで暮らせるお金が手に入るって。ふへへ。
と、俗っぽい妄想は頭を振って掻き消して……。
リアルにこれは美味しい。味はみんなが言ってくれたそのままで、譬えるなら大トロサーモンをフライにした感じのかな? そんなフライ、食べたことないから微妙な譬えではあるんだけど、濃厚でいてさっぱり、しつこくない脂。
これに近いのは、あたしが知る限り大トロサーモンだ。
フライにしてもフィーリアトラウトは全然美味しかった。けど、それを思う存分、引き立たせてくれたのはこっち。褒めるべきは、
「めちゃくちゃ美味しいよ、このバンズ!」
「み、ミコトお姉ちゃん……?」
「エミリ、みんな、このたった数日でこんなに美味しいパンが焼けちゃうって凄すぎだよ! これならバンズだけじゃなくて、他のパンも絶対美味しく作れる。孤児院でパン屋さんをやる。それも夢じゃないよ」
「もしかして、そこまで考えてここにパンを焼く窯を……?」
「さあ、それはどうかなぁ? けど、エミリたちがやるなら、あたしは応援するよ。今度の納涼祭で自分たちが作ったものを誰かに売る。商売をする。それを経験した上で、考えてみたらいい。院長先生もそう言ってたでしょ?」
「お姉ちゃん……!」
「う、うおお!」
エミリが抱き付いてくると「私も!」「僕も!」みたいな感じで、次から次へと子供たちが押し寄せてくる。
まさかのモテ期!? ここに来て!? モテてる対象年齢がちょっと低いのが気になるところではあるけど。
「ミコトは私のお姉ちゃんだよー、って言いたいところだけど」
「ええ、今回だけは譲りましょうか」
ユフィとシルキーはえらく大人な態度だった。輪を掛けて騒がれるよりかはマシか。
みんなで話し合うまでもなく、ハンバーガーの具材はフィーリアトラウトに決まった。場所取りもできたわけだし、あとすることと言えば……。
「他の食材の確保ってどんな感じなんですか?」
「小麦粉、レタス、チーズ、卵なんかは農業ギルドなんかの協力もあって、ほとんど無償で手に入りそうよ」
「そ、そうなんですか!?」
「その代わり、宣伝してくれたらいいって。どこどこのギルドのレタスを使ってます、みたいにね」
なるほど、そう言うカラクリか。確かに育てた野菜や食材の美味しさをアピールするのには、食べてもらうのが手っ取り早いもんね。
「運搬系のギルドを利用するギルドは多いからな。キーナはこう見えて顔が広いねん」
「どう見えてよ。それに、顔の広さならあなたも負けてないでしょうが」
それはわかる。アサカさん、友達多そうだし。
「当日はここで調理して、出来上がったものを噴水広場の出店に持って行く感じでいいんですよね?」
「ええ、そうね。出店でも調理できないことはないけど、限られたスペースしかないから調理するとしても最終的な仕上げをする、ってイメージでいた方がいいわ」
「だとしたら、出来上がったハンバーガーを運ぶメンバーも必要ですね」
「ええ。けど、それは私やアサカでやった方がいいわ。納涼祭の人混みを掻き分けて、ものを運ぶんだから、それなりの力が必要だもの」
確かに、孤児院の子供たちに頼るのは難しそうだな。最悪、あたしも運搬係に回ろう。
「あとはあれやろ。このハンバーガーの名前決めな」
「フィーリアトラウトバーガーでいいんじゃ?」
「いやいや、そんなんおもんないやん」
ハンバーガーの名前に面白さが必要なんだろうか……? アサカさんってほんとに関西人じゃないよね?
「面白さはともかく、フィーリアトラウトどころか魚の名前も全然知らないんだから、街の人には伝わらないんじゃないかな?」
あたしが勝手に付けた名前でもあるしね。
「ミコ姉が作り出したハンバーガーですし、ミコトバーガーでいいのでは?」
いやいやいや、それこそ面白く――。
「いいです、シルキー様! それにしましょう!」
えっ?
「ええやん、ミコトバーガー!」
「そうね。なぜかしっくり来るわね」
なぜかユフィどころか、孤児院の子供たちもシルキーのネーミングに大賛成。恥ずかしいからやめて、なんて言える空気では全くなかった。
「よっしゃ、ミコトバーガーで決まりや」
まんまじゃん。どうやら、そう思ってるのはあたしだけみたい。いやまあ、フィーリアトラウトバーガーもまんまだとは思うけどね。
でも、何か凝った名前を付けるよりかは、食べる人が想像しやすい名前にした方がいいのかも知れない。テレビで高級レストランの料理が紹介されてる時に目にする、やたらと長ったらしいメニュー名とかあるじゃん。いや、どんな料理だよ!? って、ツッコミたくなるよね。
真っ直ぐど真ん中のネーミングが意外と人には響くのかも。
それでふと思い出したんだけど、お祖母ちゃんちの近くの踏切に昔ながらの古い商店があって、そのお店の名前がなんと「ふみきりや」だった。ほんと、踏切のすぐ傍にお店があるからそう言う名前にしたんだろうけど、幼いあたしは思ったよね。
まんまやん、って。
それを今になっても憶えているんだから、シンプルな名前ってのも強ち侮れないのかも知れないよね。
「サイドメニューみたいなものも作るのよね? さすがにミコトバーガーだけじゃ心許ないでしょう?」
「もちろん、そのつもりです。ミコトバーガー……」
うぅ……自分で言うの、何だかハズい……!
「み、ミコトバーガーだけにしちゃうとフィーリアトラウトを大量に釣らないといけなくなる。そう言う、乱獲みたいなのはしたくないので」
「孤児院の皆様に手伝って頂ける料理がいいですよね」
「そうだね。その辺りも、もう少し話を煮詰めていこう。院長先生、もう少し子供たちと話をさせてもらっても構わないですか?」
「ええ、どうぞ。納涼祭当日のお手伝いも、私でできることがあれば協力しますので、頼りにして下さい」
「ありがとうございます、先生!」
「私たち、スタインウェイ家のメイドも力をお貸ししますよ、ミコト様」
「メイドさんたちも……!」
くぅー! 何かあたし、青春してるなって気分になってきた。まさか、異世界に来て青春を味わうとはね。いや、そもそも元いた世界で青春してなかったのがおかしいのか?
まあ、いいや。
「みんなで納涼祭、成功させよー!」
「おおー!」
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