表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/199

釣り人トラブル日誌




 思わず出てしまったアングラージョークを、あたしは苦笑いで誤魔化すしかなかった。だって、そりゃそうでしょうよ。異世界の人にどうやって地球を説明すんだよ。


「あ、焦って嚙んじゃっただけだよ。地中を釣っちゃったの、地中を。つまりは、海底の岩にルアーを引っ掛けちゃったの」

「そう言うことですのね。けれど、それはそれで大変なことなのでは?」

「根掛かりって言うんだけど、これもさっきのお祭りと一緒で釣りをしていれば誰もが通る道だよ」


 な、何とか上手く誤魔化せたかな……?


 それにしても、根掛かりには気を付けていたんだけど、やってしまった。メタルジグみたいに重たいルアーを使う時は注意が必要で、沈むルアーなんだからボトムに引っ掛かってしまう可能性を常に考えておかないといけない。

 こんな岩場なら特にだ。


「取れそうですか?」


 幸いにも引っ掛かった場所は足許からそう離れていない場所のようで、あたしは少しずつ移動しながらロッドを何度も振り上げる。


「これはコツを掴むって言うより、運任せに近いところがあるからな……」


 引っ掛かり方や引っ掛かっているものによっても、回収成功率は変わってくる。例えばフックが沈んだ木にガッツリ刺さってしまったなら、これを取るのは大変だ。けど、水草に絡まっただけなら、ちょっと力を入れて引っ張れば水草が千切れて回収できる。


 今回は岩に引っ掛かってるわけだから、変な方向からフックが掛かっていなければ、そのうち……。


「おっ! 取れた!」


 ラインのテンションがふわっと軽くなった。無事にルアーが外れてくれたみたいで、回収できたルアーにも大した傷は付いていなかった。


「良かったですわ。でも、これまでは特に大きな支障なく釣りをしてきましたが、やはり釣りにもトラブルはあるのですね」

「そうだね。やっぱり自然を相手にしているから、いつどんな事態に遭遇するかはわからないよ」

「ミコ姉がこれまでに遭ったトラブルで大変だったことや、怖かったものとかありますか?」

「ちょっと前だけど、ユフィと川に釣りに行った時にイノシシと出くわしたのは焦ったね」

「ええっ!? い、イノシシとですか!?」

「その時はキーナさんに助けてもらったんだけどね」


 あれはなかなかの衝撃だったよ……。あれを超えるものってなかなか思い付かないな……。


「釣りで大変って言えば……あたし的には藪漕ぎかな」

「やぶこぎ?」

「草むらなんかの道のない藪を突っ切るように歩くことだよ。釣り場ってどこも拓けてるわけじゃないでしょ? 場合によっては藪を掻き分けて、そのポイントに行かないといけない時もある。これが結構大変なんだよ」

「む、虫がたくさんいそうですわ……」

「そう。蜘蛛とか蜂とか、嫌な虫がたくさんね」


 あと、虫は虫でもひっつき虫とか。服にめっちゃ付いて、取るのが大変なんだよね。


「しかし、険しい道を切り拓いてでも、釣り人はそこへ向かうのですね」

「その通りだよ、シルキー。きみもいい感じに釣りバカになってきたねぇ」

「ば、バカなのですか!?」

「大丈夫、褒め言葉だから」


 からかうように笑っていると、シルキーにまたアタリ。今日はシルキーの方が調子が良さそうだ。


「また見たことのない魚が釣れましたわ」

「おー、どれどれ?」

「ちょ、ちょっと顔が怖いんですが……」

「出た、エソだね」

「エソ、ですか?」


 体は細長くて、全体的に茶色くてお腹の辺りが白い。シルエット的にはキスみたいな感じだけど、顔はシルキーが引いてしまうくらいの強面だ。

 何と言っても、大きな目とその歯が怖いよね。


「見ての通り、細かくて鋭い歯をしてるから気を付けてね」

「カマスの歯に似てますね」

「だね。けど、種類としては別物だよ。比較的、砂地の海底にいることが多いんだけど、散歩でもしてたのかな。ただ、海釣りをしていると結構出会う確率の高い外道さんだけどね」

「食べられないのですか?」

「ううん、全然食べられるし、美味しい魚なんだ。けど、普通に食べるのがなかなか厄介な奴なんだよ」


 釣りをしない人からしたら、エソなんて魚聞いたことないかも知れない。けど、このエソを使った加工品は高級品とされているんだ。エソのものは食べたことないかもだけど、その食べ物自体は庶民にも馴染み深いものなんだよ。


 それは、カマボコだ。


「エソは小骨がめちゃくちゃ多い魚なんだよ。だから、擦り潰して練りものにして食べるんだ。味はクフカアみたいな感じだよ」

「そ、そうなのですか!? この魚がクフカアみたいな味に……」


 しかも、エソのカマボコは高級品。この見た目から想像できないよね。


「かなり食い意地の張った魚で、何でも食べるから餌釣りでもルアーでもよく釣れるんだ」


 たくさん釣って自家製カマボコを作ってみるのもありだけど、ここで更にエソが釣れるかはわかんないから、今日のところはリリースかな。


「わっ! またヒットですわ! 今度は少し大きそう!」


 ほんとにシルキー、調子いいな。あたしも餌釣りに変えようかな……。


「いいサイズのアジじゃん。竿を立てて、撓りを上手く利用するんだよ」

「は、はい!」


 朝日を浴びて青白く輝く魚影が縦横無尽に泳ぎ回る。それを追い駆けるように、何匹かの魚影が見えた。どうやらアジが回遊してきたみたいだ。


「つ、釣れましたー!」


 尺、三十センチはないけど、二十五センチ前後のいいアジだ。それを手にしたシルキーは、もう手慣れた感じで針を外そうとする。けど、すぐにその手が止まってしまった。


「あ、あの、ミコ姉!」

「うん? どうかした?」

「こ、これ……。針が喉の奥に……」

「あぁー、針飲み込んじゃったか……」


 何だか今日はちょっとしたトラブルが多い日だな。


 魚が釣り針を飲み込んでしまう。これも餌釣りだとよくあることで、原因としてはアワせるタイミングが遅かったことがほとんどだ。針が口に掛かるより先に、魚が餌を針ごと飲み込んでしまうってわけ。


「このサイズなら美味しく頂けるから、締めた後にエラを切って針を外そう」

「良かったですわ、食べられるサイズで……」

「リリースしたい場合は細い棒なんかを突っ込んで針を外すか、最近だと糸を切っちゃって、針を残したままリリースするのも一般的になりつつあるんだよ」

「だ、大丈夫なのですか!?」

「うん。意外と自然に取れちゃったり、あとは腐食して外れたりするみたい。下手に無理やり取るよりも、そっちの方が生存率が高いって実験結果もあるんだよ」


 外すのに時間を掛けてしまうと、それだけ魚を弱らせるってことだからね。可哀想に思えるかもだけど、生き残る可能性が高い方がいいじゃん。

 それか、美味しく頂くか。


 アジフライでバーガーか……。試したことはないけど、まあ間違いはないやつだよね。まずは試作品第一号の食材は確保だ。




よければ、いいね ブックマークして頂けると励みになります。

引き続き宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ